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絡繰武勝叢雲  作者: 藍戸優紀
第2話 夏の吹雪と雪女!!
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修行の成果

「寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 今氷の封印から解き放たれたのは!!」


 捕えた輪入道を、雪女たちの方に投げつけながら、格好をつけるためにも口上を上げる。


 大太刀を納刀し、妖に屈さぬと人々に示すように、見栄を切る。


「初代大将軍、織川光喜様の時代より伝わりし、伝説の巨大絡繰!!」


 絡繰武勝の瞳も光り、人々を苦しめる悪党どもに睨みを利かす。


「その名も轟く! 絡繰武勝叢雲からくりぶしょうむらくも!!」


 名乗りを上げれば、相手も怯む。それだけの力がにじみ出ているとでも言うべきか。


「貴様ら妖どもの狼藉を、今ここで叩き切ってくれる!!」


 たとえ前回の戦いより、敵の数が2倍になっていたとしても。今の俺は負ける気がしない!!




「ふっ、格好つけやがって!! お前らっ! やーってしまえっ!!」


 殺戮の叫びと共に、3体の雪女が手始めにと猛烈な霊基を叩きつける。


 だがそんなもの――。


「風林火山!! 動かざること山の如し!!」


 叢雲の背中にある、風林火山の文字が刻まれた部位が外れ、宙を舞っては俺の手元にやってくる。


 形状が変わったその姿はまさしく、大盾!


「我らの冷気が届かないだと!」

「当然の事よ!! どんな風も! 山を動かすことなどできはしない!!」


 中級妖の巻き起こす、吹雪ですら叢雲の前には届かない。夏にもかかわらず、まるで真冬の雪山の中とすら思える世界にする力であっても届きはしない。


「そーら、やられっぱなしは趣味じゃない!! 受け取れよっ!!」


 俺の言葉に応じるように、大盾の中央が扉のように開く。そしてその中から――。


「筒……、大筒だと!?」


 大筒、即ち大砲が展開される。


「物理的にそんなものが入るはずがないだろうっ!?」

「できてるんだから、できてるんだよ!!」


 さて、こんなことを言ってみたが、実際の所理屈を俺は知っている。


 原理はシンプル、初代将軍の時代の転生者の一人が、モノの大きさを改変する力を持っていた。それが施されているために、武装の大きさなども少し変化したりするのだ。


 その大砲に、動かずに敵を正確にぶち抜く高火力砲撃のための力を注ぎ込む。


「紫苑! 雪花と一緒に伏せて耳塞いでくれ! ぶっ放す!!」

「派手に決めろ!! 一撃で終わらせてやれ!!!」


 狙うは一撃で決める、ただただ全てを打ち砕く力!!


大山鳴動砲(たいざんめいどうほう)!! いっけぇぇぇぇ!!!!」


 叫びと共に、放たれたのは極太のビーム!! 何が来るのかを察知していたのだろう、既に逃げ始めている。


 だがもう遅い!


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛!?」


 逃げるのが遅かった雪女の1体には直撃。命中した次の瞬間には蒸発(・・)させる。


「くっ、囲め囲め!!」


 差吊苦の指揮する言葉が響き、それに応じるように妖たちも動く。


「無駄ぁっ!!」


 しかし、それに対してこちらも行う行動は変わらない。

 発動できると知っている、加速の力を展開。包囲から離脱しながら、風林火山をまた別の形態へと変化させる。


「風林火山! 徐かなること林の如く!!」


 大盾から変化したのは、まるで槍の穂先のようなもの。


「ふん、そんなものにしたところで何ができる!!」


 見た目で油断してくれたようで何よりだ、それでいい。


「行け」


 ただ一言、それだけでソレは浮かびあがり、地面に向かって飛ぶ。


「な、何がしたい貴様」

「見ればわかる」


 俺の返答と共に、3体の中級妖の足元が盛り上がり始める。


茂林修竹(もりんしゅうちく)!!」


 片手ではあるが、印を結ぶように構える。


 ただそれだけのことだ、それだけしか俺はしていない。


「なっ!?」


 ただし、相手の体は真下から伸びていく、無数の槍に貫かれていくのだ。


 これこそが風林火山の林、叢雲は相手と距離を取り、動かずに敵を倒すための武装。


 本来ならば、それこそ全方位からの攻撃すらも可能とする代物。


 残念ながら、実際に使わないと感覚すらつかめない代物であるため、紫苑の術による訓練でもこれをまともに使ったことはない。


 だがそれでも、本当に文字通りの意味で雨後の筍の如く、退魔の槍の林を形成するぐらいのことはできた。


 一つ一つが必殺ならぬ、決殺の一撃。躱す隙間など与えはしない。逃げる退路など与えはしない。


「とは言え、火相手に林は相性が悪かったか」

「はははははっ、体に隙間がある故当たらなかったという訳だ」


 その言葉と共に輪入道の炎が燃え盛る。とは言え、それでも雪女の残った2体には致命傷を与えることはできた。


 知識がなければ経験もない。だがそれでも、叢雲に乗っている間だけ(・・)は、感覚的に判るのだ。


「だからこそ、確実に仕留める!!」


 大切なのは、確実に仕留めるという意思。妖は人間の理屈とは、完全に異なる枠組みの存在である。


 魂の格が人間を上回るため、人間のそれこそ小細工(チート)は通用しない。純粋な物理で殴り倒すには、それこそよほどの鍛錬を積まねば、戦うという段階にたどり着くこともできはしない。その差を数で補うのが普通の、対妖の戦い方。


 叢雲は、魂の格を何らかの手段で、互角にまで引き上げるモノである。

 叢雲は、巨大なる質量によって、純粋な物理で対等に引き上げるモノである。


 つまるところ、叢雲に乗って無双ができるのではなく、叢雲に乗って初めてスタートライン。その上で、妖はもともと人間を上回る存在。故に、彼らは致命傷でも止まることはない。


 恐怖を喰らうものたちが、恐怖することなどあってはならず、止めるためには確実に殺す必要がある。





「天下抜倒剣!!」


 ならば、叢雲の最大威力を誇るこの剣こそが、妖を倒すためにもっとも重要なものなわけだ。


「行かせるものか!!」


 輪入道が全身の炎を、それこそ太陽か何かと見間違いかねないほどに、その身すら犠牲にしながら燃やし尽くし、こちらに向かって高速回転しながら突撃を開始する。


 ああ、確かにこれだけの一撃が直撃すれば、叢雲(おれ)の鎧も打ち砕かれてしまうかもしれない(・・・・・・)――。





「一刀両断!!」


 だが、それは当たればの話だ。


 横に一閃、ただそれだけだ。それだけすれば、輪入道の体を輪切りにできる。


 雪女(べつのてき)に視線を向けていれば、それが隙だと認識して襲い掛かってくるだろう。対数日前までただのド素人でしかなかった、未熟なおれの直感からの行動。


 しかしその行動が確かに成果を上げた。


「……やれやれ、そこまで成長していたか」


 紫苑の言葉が聞こえるが、ここまで鍛えられたのは彼女のおかげだ。


 食事とトイレ以外は寝る時間すらも一部使っての鍛錬、鍛錬、鍛錬。


 現実でしたわけではない幻覚、確かに言われてしまえばそれまでだが、それを現実に限界まで近づけ、現実すらも超えた試練を超え続けた。


 ならば得た力も、現実をも超えうる力。


「お前のおかげだ、紫苑!」


 こちらに向かってくる勢いそのままに、叢雲(おれ)の後方で爆散する輪入道。


 一度天下抜倒剣を納刀し、串刺しにされている雪女たちの方へと腕を向ける。


「天下抜倒剣は、一太刀で退魔の力を使いすぎる」


 天下抜倒剣は一度使えば、納刀し鞘の中で力を纏い直さねばならないという弱点がある。


 わざわざ見得切りで引き抜いているのも、端的に一番格好よく見えるからにすぎない。そして格好よくするのも、人々の希望だからだ。


 格好がいいというのは、人々に希望を与え立ち上がる力となる。


 今なら、妖に対抗するために、叢雲というスーパーロボットを生み出した理由も、なんとなくだが理解できた。


 遠くからでもその雄姿が見えるようにするためだ。怯える人々に勇気を届けるためだ。


 だからこそだろう――。


「退魔爆滅鉄拳!!」


 彼らが前世で魂に刻み付けたであろう、典型的なスーパーロボットの武装、いやスーパーロボットの象徴の――。


「な、なんだその武器は!?」


 ロケットパンチがあるのだ。


 少年少女だった時代、確かに魂に残った人々の希望の姿を、この世界で再現したくてたまらなかったのだろう。


 ならば俺はなろうじゃないか。


 そんな先人たちが夢見た姿に。


「人々の希望の象徴ってな」


 先人たちの知恵と勇気と理想、その全てで作られた叢雲で。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛……っ゛」

「うらめじぃ゛ぃ゛ぃ゛!」


 放たれた拳によって、残った2体の雪女の土手っ腹に大きな風穴を開け、爆散する姿を横目で見れば、見ているだけだった、それこそこの場の誰よりも強い存在へと視線を動かす。


 持てる力の全てをぶつけねば勝てない、俺は確かにそう認識しては身構え――。


「あぁ、いいものを見させてもらった、これはこっちも考えないとな(・・・・・・)


 奴はこの場から消えた、差吊苦という絶対強者は消えたのだ。ならば――


「これにて一件落着!」


 こう言って締めるしかないだろう。

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[一言] 飛ばせ鉄拳! スーパーロボットの伝家の宝刀!! ホントこういうの大好き!!
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