JKと墓場
「お墓参り、来ました」
私はこの少女に見覚えがあった。
教え子の一人で、私によく懐いていた。
「今年は一人?」
「今年生徒はウチだけ、です」
盛夏の霊園には、ブレザーの深緑が良く映えた。
霊園の入口の鐘を♪カンカンと鳴らしてから、私達は目当てのお墓の前へ。
あいさつ代わりに、墓前で軽く手を合わせる二人。
それから、少女は気になった所を草むしり。
梅雨が明けたばかりで、雑草やコケが元気に顔を出している。
それを見て、私はふと思い付いた事を口にした。
「草いきれが凄いねー。草、生きれ! 状態だね」
「……」
「何か言ってよ……」
「…………流石にムワっとしますね」
いたたまれなくなった私は、水とコンセントを借りようと事務局に一声かけに。
しかし墓前に戻ってくると、「水と電源はご自由にお使いください」と看板があったので、少女は早速(背負って持参した)ケウ〇ャー的な銃で放水清掃していた。
正面、側面、裏側と綺麗になっていく。
脚立にのぼって、上からも水を流し、全体を綺麗に。
今日は快晴で、青空が深い。
早朝の肌寒さが薄れてきたのだろうか、少女はブレザーからYシャツ姿に。
短いスカートの下からすらりと伸びる生足に、水しぶきが少しかかる。
全体を見渡して一つ頷くと、水を止めて、拭き掃除に移行する。
無言で作業していた少女が、ふぅと一息。
綺麗に仕上がった墓前に、花と線香を供えて準備完了のようだ。
「りらっ〇ま線香?」
線香にしては可愛い、茶色熊のパッケージに目を落とす。
「先生の好きだった、りらっく〇……の線香があったので。ヘビースモーカーなのに〇らっくま好きっていうのがギャップあって可笑しくて、よく覚えています」
「ヤニで茶色くなっても大丈夫! だしね。どんな香り?」
パッケージの箱を手に取り、裏の説明を確認する少女。
「パンケーキの香り……と書いてありますね、煙は案外普通で、残り香が甘い感じ?」
改めて手を合わせ、目を閉じ真面目な顔になって、一呼吸おいてから……
少女は近況報告を始めた。
進路のこと、友達のこと。
「そしてウチは、あの後、普通に彼氏ができました。悪い人ではなさそーです」
「それは良かった……ちょっと責任感じてたんだ」
「……カラオケで酔っぱらって、ファーストキスを奪ったのは許して無いですからね」
「ごめん」
「まあ、色々相談のってくれてありがとうございます。この秘密はウチが墓場まで持っていきます」
「申し訳ない」
「来年も来ますよ、憧れの恩師ですからね」
ちょっとしんみりしながらの片付け。
*
「あっ! 旦那さん来た。おはようございます!」と走り寄る少女。
うおっまじかーー! 私、身だしなみ変じゃないかな!? まあ姿見えないだろうけども!
元気でやってそうだね。籍入れて半年で急逝してしまい申し訳ないねーー。
*
「今、嫁がそのへんに居る気がする」
「いいなー先生の気配感じられるんですね、羨ましい」
言葉は通じないようなんだけどねー。
「まーな! 短い間だけになったけど夫婦の奇跡かもな!!」
「そうそう旦那さん、先生がウチに生前カラオケでぇ・・・」
わーーー! やめてやめてーーーー!!!
何の干渉も出来ないだろうけども、少女の口を大急ぎで塞ぐのだった。