1 プロローグ
数多の物語から興味を持っていただきありがとうございます。
オリジナルキャラクター
略称: オリキャラ
主に一次創作におけるキャラクターのことを指している。他の誰かのキャラクターではなく自分が想像創造したキャラクターのこと。キャラクターが生きる物語がなくても自分で考えたキャラ設定だけ有れば立派なオリキャラだ。
理想の彼氏。
黒歴史ノートに登場するキャラクター。
自分が妄想で創ったキャラクターなら全てオリキャラだ。
少し前までの時代は妄想の産物でしか無かったオリキャラだったが、現在においては畏怖と崇拝の対象となっている。
想像世界到達者
通称: 覚醒者
その者たちは、人類に襲いかかる脅威に対して唯一にして最大の対抗策である。そして、人類の為に戦うしかなくなった犠牲者でもある。
自分たちがかつて想像したオリキャラに姿を変え、人類を守る為に戦う。
覚醒者となった者に、戦いから逃れる術は無い。戦いが日常と化し、信じられるのは己の力のみ。覚醒者にとって敗北は死である。
これは、人類の為に礎になることを強要された少女の物語。
* *
怪物
それはある日を境に世界中で出現するようになった災害である。空間を割いて出現する為、人里への侵入を防ぐことが出来ない。だが、出現する予兆は観測できる。
だがその予兆も、人間に対して害となるものだ。それは出現地近くの人に対して激しい頭痛をもたらす事である。頭痛は徐々に強くなっていく為、初めのうちは予兆を感じることが出来ない。
ただ調子が悪いだけと勘違いする人も少なくない。また、機械などで観測できるものでは無い為、人が全くいない場所では出現を予測することが出来ない。
だから時に、避難が遅れることもある。
「ふざけんなよ! よりによってこんな所に出るのかよ!」
月曜日の午前7時。キャンパーである青年は人気が全く無い山道をフラフラと走っていた。彼の額には大粒の汗が浮かんでいる。その汗は、酷い頭痛によって流れるものであった。
彼の趣味はキャンプ。休日にはキャンプ場に泊まりに行き、キャンプ飯を食べることが日々の癒しである。今回はGWということもあり、遠いキャンプ場に泊まりに来ていた。
そのキャンプ場は立地が悪く、携帯の電波も届かないような山奥に存在していた。管理人も常駐しているわけでもなく、夜には半径数kmには彼一人しか人間はいなかった。
彼が頭痛に気がついたのは起床と同時、午前6時のことである。その時は山の空気が合わなかったのかと判断したが、時間が過ぎていくと痛みが強くなっていった。
これは怪物の予兆だと気づき、通報しようとしたが前述の通り電波が届かない場所。管理人の小屋にあった電話を使って機関に通報したが、救助が来るのは時間がかかるとのこと。
自力で山を下った方が早いと言われてしまった。最初は来た時に使った車で下山をしていたが、直ぐに運転できないほどの頭痛になり、歩いて下山するしか無くなった。
「早く……麓まで行かないと……あ」
頭痛は怪物出現の予兆である。では、怪物が出現した後はどうなるか? 答えは頭痛が治るだ。今まで苦しめてきた頭痛が無くなり、思考が冴え始めると、何が起きたのか直ぐに分かってしまう。
青年は、怪物が出現したことを瞬時に理解した。
「おいおい……まだ死にたく無いんだよ」
背後のキャンプ場の方から、聞いたことのない程大きな咆哮が響く。続いてバキバキと木々をへし折りながら青年の方へ向かってくる音もする。
後ろを振り返ると土煙が高速で此方に迫って来るのが見える。死が追ってくる。青年の目にはそう見えた。恐怖で力が入らなくなり、尻もちをつく。
もう逃げる術はない。死を待つだけ。
ーーもうお終いだ。恋人出来ないまま死ぬのかよ。まあ、独身は楽しかったがな……。
青年は諦めて目を閉じる。脳裏には今までの思い出が蘇っていた。初めて自転車に乗れた日のこと。妹が出来たこと。友だちと遊んだこと。
妹にぶん殴られたこと。
「良かった。目立つ服装を着ていてくれてありがとう。諦めるにはまだ早いですよ」
諦めていた青年の耳に、透き通るような声が入ってきた。薄ら目を開けると、そこには狐が立っていた。
否、狐の耳と尻尾を持つ少女が鬼火を漂わせ立っていた。少女の手には刀が握られていて、それを迫り来る怪物に対して向けていた。
「グルルルルォォォォオ!」
山の奥から飛び出してきた獅子のような怪物は、自身に対して明確に敵意を向けていた少女に狙いを定める。牙を剥き出しにし、少女を喰らわんと跳躍した。
常人なら避ける事は叶わない距離とタイミングであった。だが、少女は常人ではない。
「遅い!」
怪物に向かって真っ直ぐ跳躍し、見えない速度で刀を振るう。そのたった一振りで怪物は両断され、地面に崩れ落ちた。まるで、漫画やアニメのような光景だった。
目の前で起きた現実離れした出来事に、青年が放心していると少女が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
そう声をかける少女の腕には深緑の腕章が嵌っていた。その腕章に描かれている本をモチーフとした紋章を見て、青年はようやく彼女の正体に辿り着く。
「軍の……覚醒者」
「はい、日本国軍独立特殊怪物対策部隊の双葉 茜です。貴方を助けに来ました」
その言葉を聞いて、青年は極度の緊張から解放されたと同時に意識を失った。意識を失う前に、しっかり彼女の名前を心に刻んで。
* *
「それでお兄さんガチ恋勢になったの?」
数ヶ月後、首都の電車の中で二人の女子学生が喋っていた。一人はあの時の青年と似た顔立ちをしている。
「そうなの。それで俺も軍に入ってやるって張り切って、今日の入隊試験受けに行っているんだって」
「それでなんだっけ? なんて言う覚醒者だっけ?」
「双葉茜。狐の耳と尻尾がある人だって」
「軍に入ってもその人に会えるわけでもないのに。あ、降りないと」
女子学生たちは次の話題に移り、電車を降りていく。その二人が降りて行った扉を少女と女性が見つめていた。
「うちの隊に入れようか?」
「やめて下さい、大佐!」
女性が笑いを堪えながらそう呟くと、少女は小声で全力拒否する。二人ともただの一般人にしか見えない。だけど、女子学生たちが話していた話には心当たりがあるようだった。
「まあでも、元気そうで良かったですよ」




