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【完結】陰陽師のお仕事 〜歴史の証人〜  作者: カズモリ
1.前編 はじまり
7/50

7.予備知識と特訓2

 碧は式神創りの前に、従兄弟の(あお)に会うことにした。太常が言うには歳の近いものの感覚の方が歳の離れているものよりも素直に受け入れられることや、距離が近い分、憧れや目標対象として考え、切磋琢磨し、能力の向上になるそうだ。


 その考え方には概ね同意する。


 青は16歳の男の子で、陰陽師の試験を通過したのは13歳の時だ。歴史の証人試験はまだ受かってないことを燈から聞いた。


『青くんは優秀よ。私の次に英の当主なるのはあの子じゃないかなー、って思ってるのよ』


 それってどう言うこと? そんなスーパールーキーと感覚共有できるのかな……。


 燈の言葉に憂鬱になった碧は、待ち合わせのカフェまでとぼとぼ歩いていた。


 日曜なのに人通りが少ない商店街を抜けると、昭和時代を思わせるレトロな雰囲気が漂うカフェがあり、扉には鈴がついており、扉を開けるとカランカランと音が響いた。


 音が鳴り止むか鳴り止まないかのタイミングで、店員がこちらに気が付き、入り口付近の窓側の席に案内され、碧はソファに腰を下ろした。


『あ、今ナイーブになってますね? そんなこと心配いらないですよ』


 太常の声が頭の中に響いた。太常は碧達の世界に興味があるのか、学校やら、スーパーやらついてくる。今回は従兄弟の青くんに興味があるらしく、ついてきた。


「ちょっと、周りから変に思われるから姿を体現化してよ」

 小声で抗議すると、不服そうにわかりました、と言って、姿を現した。

「ちょっと! 場所考えて」


 碧は慌てたが、太常は何食わぬ顔で、誰も見てないですよ、と言ってからかった。


 確かに今は誰もいない。

 店員は奥に引っ込み、客は碧と太常だけだが、そう言う問題ではない。


 碧は呆れたように、メニューを開くとちょうど背後に店員がいて、注文を聞かれた。


 タイミングが良かったので碧はドキリとしたが、リンゴジュースをお願いした。

 太常もリンゴジュースに興味があるのか、同じものを頼んだ。


 リンゴジュースについているストローを折り曲げてジューと飲んでいる目の前の中年がなんだか可愛らしく見えてきた。


 見るもの全てが珍しいこの男はリンゴジュースを美味しい、美味しいと言って喜んでおり、碧は3歳児を見るような微笑ましい気持ちになった。


 だからだろうか。

 カランカラン、と扉が開いた音がしたのにも気がつかなかった。


「どういう状況? これ」


 青は碧とにこやかな笑顔を向ける中年を交互にみていた。


 あ、なるほど。そういう勘違いもあるよね。


「違うよ。これは援助交際とかじゃなくて……」


 弁明をしようとする碧に青が突っ込みを入れる。

「そんなのはわかってる」


 青は碧の隣に腰掛けた。


「これ、式神じゃないの? それもかなりの手練れの式神だ」


 太常が感心したような顔した。


「燈様の言葉が間違いでは無いようですね」

 少し空気が張り付いた。


「私は太常と言います。安倍晴明の式神です。今は訳あってこちらに派遣されています。こちらにいる間は碧の護衛を任されています」


「へぇ。色々気になりますね、それ。今度詳しく教えてください」


 青はメニューを見ながら眉一つ動かさず、そう言った。


「それでね、式を創りたいんだけど、青くんの式はどういうのなの?」


 碧が聞くので青は自身の後ろからスッと式神を出した。


 体現化していないので、青色の馬のような顔をしている。


「俺の式は聳孤(しょうこ)だよ。青い麒麟だ。基本的には争い事を好まないから、周囲に守る人物がいるときや逃げるときに使える。攻撃性で言えば能力はかなり低いよ」


「へぇ。聳孤を式として使うとは、あなたかなり陰陽術者ですね」


 太常の言葉に碧の視線は聳孤から太常へと向かった。


 それと同じタイミングで、青は自身の式を解き、聳孤は姿を消した。

 

「前にも話しましたが、不得手なものを補うのが、式の特性です。攻撃性の少ない式ということは、彼自身は攻撃面では不得手ではないということですよ。そして、能力が未熟なうちから、攻撃面がかなりの手練れだった、とも言えます。ね、碧」


「その辺は親切に話してくれなくても分かるよ。そして改めて自分の力と比較して、己の未熟さを感じているよ」


 ――いや、でも本当に、己の未熟さが分かる。


青くんは本当にすごいんだ。追いつかなくては。この人に追いつかないと。


「青くん、宜しくお願いします」


 青は、はい、こちらこそ宜しく、と言って頭を少し下げた。


 その後すぐに、すいません、と言って奥から店員を呼ぶと青はアメリカンコーヒーを注文した。


 同じタイミングで、太常もアメリカンコーヒーを頼んだ。


「式を創る時、2つ方法がある。1つ目は自ら式神を創る方法。2つ目は他人が所有している式を奪う方法」

 青は顔の前でピースを作って2通りを強調した。


「1つ目は自身の能力を俯瞰してみること。これは誰かと手合わせをするとわかりやすいと思う。例えば英は、木に属するから、植物系が得意だし、十二支なら、虎、卯、辰がベースのが良いと思う」


「うん」


「2つ目は他人の式を自分の術を使って使役する。だけど、これは、現実的ではないよ。だって未熟なものが既に式を有している者から奪える可能性は低い。簡単に奪えるなら、みんな自分で式創らないしね。今の碧についている式も安倍晴明(たにん)から借りているから、他人から奪った時と状況は似ているようなものだけど、自分の欠点を補うために式を持つのだから、そんなことはほとんどおきないよ」


 それもそうだ。


「式を創る前に、碧の能力について教えてくれる?」


「えっと、文送りと一樹百獲、枯木枯草だよ」


 碧はそう言って燈が撮影したスマートフォンの動画を見せた。

 動画には数本の木が成長した後、パッと消えたところまで映されていた。


 一樹百獲とは草木の成長のことを言う。枯木枯草はその名の通り、草木の枯れるさまを指す。


「木の成長なんて、何に使えるのかわからないんだけど、でも最初の頃と比較すると成長してるな、って自分で思ってしまってるよ」


「碧の言うように「『一樹百獲』だけではたいして使えないけど、この術は応用がかなりきくと思う。植物は元々薬として使っていたんだよ。麻薬や毒薬もできるし、治療薬も作り出せる。木で結界もできそうだし、実に英らしい万能な技だ」


「そっか。応用かあ。え、麻薬? 毒薬」


「薬物の大半は植物から作られているからね」

「そうなんだ……」


(なんだか、物騒な話だな)


「よし、じゃあ、おばあちゃんの家の山で手合わせしてみようか」


「あ、うん。いいの? 嬉しい」 

 碧は思わず、笑顔になった。


 話が一通り終わったところで店員が青と太常にコーヒーを運んだ。

 コーヒーをゆっくり啜りながら、青は太常をチラッとみた。


「そもそも俺なんかに頼むより、この太常に指南してもらった方が良いんじゃないのかな、とは思ってるけど、きっと理由があるんですよね」


「お察しの通りですよ。私がこちらに来たのは別の仕事がメインですからね。いつまでも護衛だけをするわけにはいきませんから」 


「なるほど。それで俺の出番ということか。手っ取り早く碧を成長させる指南役として」



「はい。貴方にも悪い話ではないと思いますよ」

 太常も青のようにコーヒーを啜った。


 暫くして、豪快に吐き出した。


「にがっ!」


 太常が顔を上げると碧の顔にコーヒーがかかっていた。


「太常さん、何か言うことは?」


 碧は冷静に聞いた。


 極めて冷静に。


「すいません……」


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