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【完結】陰陽師のお仕事 〜歴史の証人〜  作者: カズモリ
1.前編 はじまり
5/50

5.帰宅

 英碧はたった1日で自分の常識が崩れた。


 母親は不思議な力があり、目の前には安倍晴明がいる。


 安倍晴明の式神である太常(たいじょう)は、人間の形状をしているが、人間ではない。


 先刻、晴明が太常に碧を守るよう伝えると、太常は「はい」と言って頭を下げ、碧と重なるように、碧の中に入っていったように見えた。


「燈は一人でも問題ないですが、この子は何の力もない。若い目を確実に摘みとる、と言う意図でもこの子に危害を加える可能性のほうが高いので、太常をつけることにしました。碧、鬱陶しいとは思いますが、慣れてください」


 晴明の言葉に碧の頭の中で『素直じゃないですね』と、反響し、碧は頭を抱えて混乱した。


「言葉が反響しますか? 式との対話はそのようなものです」


 碧は変わらず頭を抱え「会話もできますか?」と晴明にと問う。


「もちろんです。碧の中に入っている限り、碧の考えのある程度は太常も感じとれます。視覚、嗅覚、触覚、聴覚は、貴方のものです。太常と碧がこれらを共有することはできない」


 碧の片手を晴明は頭から外す。


「自身の式ならば五感の共有もできますが、他者の式とは条件付きで貴方に貸与してるんですよ。仕方ないことです」


 碧が頭を下げて、晴明に礼をする。


 晴明はにこりと笑い「ただしーー」と言って無表情になる。


「碧が陰陽師試験及び歴史の証人試験を受けるときは、太常を外してから受験しなさい。私は実力のない人は嫌いですからね」


 碧は色々思ったが、晴明の無表情と声色にすっかり萎縮し、思わず「はい、わかりました」と応えていた。


(え、あれ。私、歴史の証人になるつもりなの? というより、試験って何?)


「ところで、その歴史の証人になるには、どのようなことをすれば良いですか?」


 晴明と燈は表情を固まらせた。

 しまった。なにも説明をしていなかった。


 晴明が「太常、あとで説明をしなさい。加えて、色々教えてあげなさい。いいですか? 燈?」

「私は異論ありません」


 碧の意見を聞かずに話がまとまったようだ。


『はい、よろしくお願いしますね。碧』


 頭の中で声が響いた。


「さて、戻りますか」


 燈が碧を手招きする。

 手を離してはダメよ、と言って燈が碧の手を自分の胴体に巻き付けた。


 碧は燈の腹部にしがみつくと、扇子をバサッと開いた。

 

碧がぶつぶつつぶやくと扇子からオレンジ色の光が放たれた。光はますます強くなり、碧は目を瞑った。瞼を介して周囲が真っ白に変化するのを感じた。

 光が収まってくるのを感じ、ゆっくりと目を開くと、見慣れた我が家のリビングにいた。


♢♢♢♢


 碧は安堵をしたのか、思わず「帰ってきたー」と言って、伸びをした。

 そのままソファにもたれようとすると、燈が慌てて碧の腕を引っ張り、座らせないようにする。


 碧の体は斜めになり、燈が支えている。


「お母さん、なに、これ?」


 燈の顔が赤くなってくる。


「絶対に体が汚れているから、お風呂行ってちょうだい」

「え? 安土桃山に行く前にお風呂は入ったけど?」


 碧は一歩後ろに足を動かし、体勢を立位へと正した。


 燈は自由になった指で、自信の足の裏を指さし、靴下を脱いで見せた。

 靴下は真っ黒だった。


「ひっ! 真っ黒」

「わかった?」

 碧は燈の質問に首を上下に振って同意を告げる。


 風呂を出てから暫く立っているはずなのに、湯舟が温かった。

 

 湯船につかると疲れが取れた。今日1日で自分の価値観が180°変わった。


 碧は顔を上げて風呂場の天井をみた。

 水滴が落ちてきそうで落ちない。


「歴史の証人ってなんなのよぉ」

 小声だが、思わず、口に出していた。


 すると、太常の声が頭に直接響いた。


『歴史の証人とは陰陽師の仕事の一つです。まず、陰陽師試験に受かってから、歴史の証人試験に合格して初めて、歴史の証人になります。そうですねぇ、こちらの世界でいうと……、医師国家試験に受かった後、呼吸器内科や循環器の専門医の認定試験を受けるでしょう? それと同じですよ』


 なるほど、よくわかる。腑に落ちる。

 だが、なぜ太常はこちらの世界のことを知っているのだろうか。


『あなたの意識と連結しているんです。あなたが知っていることは私もしっているんですよ』

「その理屈でいうと、太常の知っていることはと私も知っているんじゃないの?」


『それは晴明さまが禁じてらしたでしょう? 歴史の証人に係る件については手助けをしてはいけない、と。それに碧さまも同意されていたじゃないですか』


 碧はちゃぷん、と鼻まで湯船につかった。

 少し不服そうに頬を膨らませた。


 はい。言いました。確かに、言いました。


「どうしたら陰陽師になれるかな? まずは陰陽師になって、そのあとは歴史の証人だから、スタートの資格はどうするのかな、と」


『まずは五行説を覚えましょう。それと並行して、体に気を溜める訓練をします。その後、自分の系統を極めます。人によっては私のような式を作り、実体化するものもいますし、自然の力を利用する者もいます』


 なるほど。


 覚える概要はわかった。

 だが、気を溜める訓練なんてどうすれば良いのか分からないが、太常か燈に聞こうと思い、碧は風呂を出た。


 燈が碧の長風呂に一言文句を言うので、碧はごめん、ごめん、と言って謝った。


「お母さん、五行説について教えてほしいんだけど、五行説が載ってる本ってあるかな?」

「あるけど、あんた、歴史の証人やるつもり?」


 碧はへへへ、と笑い、首を縦に振って応えた。

 まだ濡れた髪の毛から水滴がこぼれ、床に落ちた。


「やってみたいと思ってる」


だって、望んでいた知らない世界とやっと繋がったから、自分の未来を変えるのは自分しかいない。

 頑張るしかない。

 そうしたら、きっと未来が開けていく。


 燈は子供のキラキラした目に感慨深くなり、ふっと笑った。


――いつの間にこんなに大きくなって。


「言っとくけど、厳しいわよ。普通の人と違う道を選ぶということは、人より大変なの。たくさん努力しても叶わないかもしれない。それでも、頑張れる?」

「頑張れる」

「わかった」

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