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【完結】陰陽師のお仕事 〜歴史の証人〜  作者: カズモリ
1.後編 再び、時戻り
21/50

21. 帰宅後の種明かし

 燈の時戻りの術で、帰宅すると今朝出発した時のままだったが、とても懐かしく、安心できた。


 青は疲れたから家に帰って休む、と言ったが、燈は風呂に入りなさい、と言って無理矢理風呂に入れる。

 その隙に燈は青の服を洗濯して、夫の服を着替えとして置いた。杏も泥だらけなので風呂にいれたいところだが、今現れているのが晴明のため、風呂をすすめるのを辞めた。


 貴人は燈の家に来るまでは腕組みをして不機嫌さの権化のようだったが、燈の家の家電が珍しいのか、太常に質問してはボタンをポチポチ押している。


 式には複数あるが、貴人や、白虎、天空のように、体現化したままの式を体現式と言う。

 ショウコのように体現化していない式を非体現式と言う。

 また、太常やコウのように体現化をしたり、しなかったりする式を自由式と言う。自由式のメリットは物理的高下の回避である。体現化しているときにナイフで刺されれば当然ダメージを受けるが、体現化していない時にナイフで刺されてもダメージは受けない。

 だが、陰陽術の攻撃は体現化の有無に関わらず、ダメージを受ける。

 先刻、太常が瀕死の状態になったのはこのためである。自由式は主が作った器を己の采配で出し入れできる。器がなくなれば、また新たに作れば良いが、基本的に術による攻撃は回避不可であることから、器が先に壊れることはない。


 このことを踏まえると、太常が自由式である、と言うことを知っている可能性が高い、と晴明が言った。

「つまり、燈、青、杏、有脩、太常が疑わしいってことになります」

「その中で青くんは本能寺には訪れていないので、無関係でしょう。燈も道満と対峙していたので、関係ないと思われる。そして太常は自らリスクを負う必要はない」

「そうなると、杏さんまたは有脩殿のいずれかになります」

 青と燈が黙って有脩を見る。有脩はあからさまに不愉快そうな表情をした。

「土御門を疑うのか?」

 懐にから風呂敷を出し、先刻包んだ水球を見せる。

「それなら、この中にいる道満を見てみましょう」

 晴明が「破!」と言って、水球を破裂させた。中から道満は出て来ず、人形が出てきた。


 有脩が人形を見るなり逃げようとするので、貴人が結界を張った。

「分かりやすく逃げていただきありがとうございます。有脩様」

 手のひらサイズの人形を掴み背中を見せると、土御門の紋様が出てきた。

「そりゃ気になりますよね、息子さん無事かどうか不安ですよね」

 燈と青が納得したような表現を見せ、有脩は膝をついた。晴明は有脩の前に人形を置く。


 有脩はカッとして人形を放り投げ「なぜ、いつもいつも英なのだ! 安倍晴明の分家は土御門! 土御門こそ陰陽師の発展に貢献した! それなのに、なぜ重要な案件は英を介すなど」と大声で喚く。

 床をだん、と悔しそうに叩き「納得できるわけがない」と言った。


 晴明は扇子をパタパタ仰ぎ、しゃがみ込む。

「そう言うところが、私は大嫌いなんです」



 晴明が今回の経緯を話してくれた。


 碧に文送りをした際、既に土御門は情報を入手していた。それ故に燈、碧が晴明に呼ばれたとき、久脩が隠れて聞いており、それを現代の土御門へ伝えた。

 燈が現代に戻ってから、現代の土御門の者に人形を作らせ、その中に道満を入れた。

 道満が裏で糸を引いているように思わせたい土御門は、杏に晴明を入れ、道満が見え隠れしているので、晴明ら敢えて黒の文書に署名をさせた。

 そして、燈を土御門に誘いだし、まんまとこの本能寺の変の証人へとなった。


 晴明が親、と思った点は、道満がなぜ都合よく土御門の屋敷を襲ったのか、と言う点だった。あの時点では土御門と燈を紐づけて攻撃をするには、確証がないと不可解だ。

 加えて屋敷や人形が破壊されていたのに、土御門からは英に文句の一つもない。

 ただひとつ疑問なのが杏は知らされてはいないだろう、と言うことである。

 もし、杏が知らされていれば、安土桃山で杏が晴明を依代にはしないだろう、と言うことがわかる。晴明を入れる事で、燈の手助けになってしまうからだ。

 杏の両親は既に他界している。現代の土御門で、糸を引いていた人物は、杏でないなら、一体誰だと言うのだ。


 燈は「あの、人形なの?」と呟いて、有脩を見た。有脩の耳がぴくり、と動く。

「あの、給仕をしていた人形! あれは、久脩様なのね!」

「人形は再現できないんじゃない。いや、杏さんは再現出来ないけど、あなたたち土御門の霊魂はコントロールできるって事ね」

 有脩が顔を上げる。

「杏がもっと、特別な力があれば! 私たちもこのようなことはするものか! この娘は凡庸すぎるほど凡庸なのだ」

 燈は有脩の頬を叩き「うるさい! 死んだ奴がごちゃごちゃ言うな」と怒鳴った。燈の対応に驚いたのは青と晴明、太常である。

 青は小声で「あ、あかりさん」と言ったが、燈は聞こえていないのか有脩へ怒りをぶつける。

「凡庸の何が悪いの? こんなくだらない仕事続ける必要なんてないのに、あんたたちのせいで巻き込まれて、何なのよ! 馬鹿野郎」


 燈は碧を歴史の証人に巻き込みたくなかった。できることなら普通に暮らしてほしい。それなのに、今回の件に巻き込まれ、あの子は家業を受け継ぐだろう。守ってきたものが壊れる。命の危険もあり、過去を知ることで知りたくもないものを嫌でも見させられる。


「土御門においては英と異なるのだ! 分家ごときが土御門よりも上をいくなど、お前に何がわかる! 300年に一度の神術者(神術者)に」

 燈は「だからなんだと言うの? そんなもの運の他ならない。だから、私を殺そうとしたと言うの? あなたのくだらない矜持がなんだと言うのよ。道満をそそのかして操り、式とはいえ太常さまを殺そうと企てたり、そんなこと、許されざることだわ」と言い返す。


 陰陽術には水、木、金、土、火と5つの属性があり、主となる属性はひとつと言われている。

もちろん、安倍晴明のように全属性を使用できるものもいるが、それは例外である。燈は木、火、金の属性を有しており、そのように複数の属性を有する人間を神術者と呼ばれた。

 一方で、杏はのように属性や式も持たない術者は、半術者と呼ばれ、冷遇されていた。


 英家は生まれた時に子の属性を確認する。青、碧は木属性だったが、燈は火、金、木の能力が現れた。


♢♢♢


 燈は本日、安土桃山に行く前に杏が言っていることを思い出した。人形や依代を沢山作る杏に声をかけた。

 杏は笑顔で大丈夫、と応えた。

「私はこれしかできないもの」

「そんなことないですよ。依代凄いことです」

 杏は座り直し「燈ちゃん、私、土御門だけど、式も使えなくて、五行の術も上手く使えなくて、使えるのは依代だけなの」

 燈は杏に何も言えなくなった。

「お母さんもお父さんも小さい時に死んじゃっていないし、おばあさまが育ててくれたの。だけど、私が半術者と知って落胆してた」

 杏は球状の依代を起用に手をクルクル回して作りながら続ける。

「だけど、私、おばあさまの期待に応えたくて、諦めたくないの」

 杏は燈にほほ笑み「だから、私、今、私の能力でみんなの役に立てて嬉しいの」と言って頭を下げた。


♢♢♢


 燈は彼女の気持ちを考えるといたたまれなくなる。ずっと昔から、冷遇されていた杏を気の毒だと思う。そして、目の前のこの死者の霊魂にすら、馬鹿にされている。

 燈は、何かに気づいたのか、は!とした。

 燈は「コウ」「チョウ」と叫んだので、太常が「晴明さま」と叫ぶ。

「現代で裏を引いてる人物がわかりました」

 燈の言葉を聞いて晴明が「貴人、白虎、燈の式について行きなさい」と言って指示を出す。

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