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【完結】陰陽師のお仕事 〜歴史の証人〜  作者: カズモリ
1.後編 再び、時戻り
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13. 再び時戻り

 燈と太常が再び土御門家を訪れると先日の人物とは異なり、筋骨隆々の男性の人形が案内してくれた。屋敷の中の一室に案内され、茶菓子を食べていると杏が現れた。杏がどの人物なのか不明なため、太常は「少し、話を整理しましょう」と言って、ノートを開いた。


 すると杏が「ありなが、土御門有脩(ありなが)だよ」とむすっとした声で応えた。

 太常と燈がなるほど、と納得した表情を見せたが、やはり、整理しましょう、と言って太常が続ける。


「まず、本能寺の変が生じた天生10年(1582年)の当時の6月2日(6月21日)に戻ってみましょう。その時期の織田制は、こんな感じですよね?」といって、ノートにさらさら書き始める。


 織田信長:京都

 織田信忠:京都

 羽柴秀吉:天正10年3月5日~備中国

 徳川家康:河内国

 神戸信孝(信長3男):大阪。摂津。

 丹羽長秀:和泉(大阪)

 柴田勝家:魚津城攻め。新潟(越中)、石川(加賀)

 佐々成政:魚津城攻め。新潟(越中)、石川(加賀)

 前田利家:魚津城攻め。新潟(越中)、石川(加賀)

 佐久間盛政:魚津城攻め。新潟(越中)、石川(加賀)


「やはりこれだけ主要武将がいないのに、なぜ京都でお茶会をしようとしたのか、気になりますね」

 太常が腕組みをした。


 燈はノートをトントンと指で叩き「そもそもだけど、本能寺には女子供も連れていたそうですよ。信長の是非に及ばず、という言葉は本能寺の変で逃げた女官の話だそうで。そうなると、わざわざ連れてきたのか気になりますよね」


 暫く沈黙があったが、「そりゃ、男だから」と、太常と杏の中にいる土御門有脩が声を揃えた。その後に来る言葉こそ是非に及ばず。


 燈は「そこじゃないです。そんなところは問題視してないですよ」と言って続ける。


「お忍びで移動するのに、女はまだしも子供がいる必要ないですよね? それに火を放っても火葬場じゃないから、遺体の判別がつかないほど完全に焼け落ちるまでいく可能性はひくいです。まあ、術者が燃やしたなら別ですけど。仮に遺体を従者が運ぶ場合、光秀に包囲されている状況を鑑みると、そもそも不可能ですよね?」


 杏が燈を促した。

「つまり、何がいいたい?」


 燈はにこりと笑って「信長は逃げたんだと思います。女装して。あるいはーー」と応えた。

 太常も杏も腕組みをして、押し黙った。


 時戻りの日は碧が学校に行く平日の昼にした。ただし、前日、透が帰るまでの間、燈は別れの時間を充分に取ることにした。そのため、青と杏も家に招いた。碧が学校から帰ってくると青は燈の手伝いをしており、見知らぬ女性が甲高い声で碧の名前を呼んで近づいてきた。


 碧は勢いに押され、辿々しく杏に挨拶をした。

「燈ちゃんの周りって見目麗しいものばかりね!! 式のコウちゃんもそうだし、碧ちゃんもそうだし、青くんだってイケメンじゃない」


 杏の言葉に燈は「子供の顔や性格は私の意志の介入でどうこうできません。青くんに至っては青くんの両親の存在が大きいかと……」と言った。


 碧は燈の袖を掴むとツンツンとひっぱり、式を見たい、とせがんだ。燈は碧に押し切られる形で、コウをだした。碧はコウを抱き上げ「君がコウちゃんだね? 小さいねぇ」と言って、コウの顔に碧は顔をこすりつけた。


 コウがクゥーンと鳴くので、燈がコウを自身の中に戻した。碧が「あっ!」と言って燈に不服そうに見ると太常が「先日の怪我の件で、燈も考え直したんです。急がば回れ、ですよ」と言って碧に耳打ちをした。


 青はそれを横目で見ており、怒りで持っていた皿をパリンと割った。杏がひぃ!と言って叫んだ。


 翌朝、碧を学校へ見送ると燈はその足で自宅に帰った。一通り家事を済ませると、質素な着物を羽織ると扇子を開く。右手には英家宗家当主を指す指輪をはめている。


 燈の家に泊まった杏は「遅くなってごめん」と言って、大股で歩いていて近づいてきた。杏ーー有脩が背負っている特大サイズのリュックが燈の視界の端に入った。燈は荷物のサイズに、ギョッとしたが、視線を扇子に戻した。


 どうやら昨日の杏とは別の、蘆屋道満に襲われた際一緒にいた土御門の霊のようだった。杏は燈の肩に手を置いた。それを見ていた太常は「失礼します」と言うと、燈の中にヌッと入る。


 白い光が当たりをいっぱいにして、奇妙な浮遊感を感じながら眩しさで瞼を瞑る。光が消えていく気配を感じ、ゆっくりと目を開くと、リビングから土埃の舞う外に着いていた。


 しまった。靴を持っていない。


 燈が視線を足元に落としていると、杏が親指を立ててニカっと笑った。


「大丈夫!」どでかいリュックから、草履と鬘が出てきた。


 3人は燈の時戻りの力で安土桃山時代の天生10年6月2日戻ったのだが、燈が物陰に隠れて草履をはき、燈と杏は頭にカツラをのせた。

「じゃあ、手筈通りにお願いしますね。各自、持ち場の配置へついてくださいね」

 燈が扇子を懐にしまいながら話した。


 杏――今は土御門 有脩(ありなが)が入っているらしいが、彼は天正5年に死亡しているので、この時代には詳しかった。土御門杏の能力は霊魂との媒介だが、どの霊魂が出るかはランダムである。ただし、今回はこの土御門有脩が頻繁に現れていた。


 天生10年6月2日 朝8:30分。


 本能寺の火災を見に来る野次馬の中に燈はいた。その時、明らかに身なりが良い男――身長はおよそ170cm、中年というより老人に近い雰囲気を纏っている人物がいた。


 その男が本能寺から立ち去ろうとするあの人であるかを確認するため、燈は太常を出し、声をかけた。太常は「術は持っていないみたいですね」と応えた。

 周囲が混乱し、煙で埋め尽くされている本能寺の火は鎮火し始めていた。その人は自身の軍とともに本能寺から離れようといていた。


 その時、「もし、あなたは明智光秀様ではないですか? お話がございます」と、男を呼び止める人物がいた。

 燈は鋭い眼光で声のする方を睨んだ。


 突然、呼び留められた『明智光秀』は声のする方を振り返った。ただし、燈からはその表情は見えない。


 燈はコウを出すと、蝶の形にして飛ばした。コウの見ている映像が燈にも共有できるためである。コウから共有された映像では20代頃の男性のようだった。頭に烏帽子をかぶり、指には見覚えのある指輪をはめていた。


『土御門久脩!!』


 燈と一緒にきた土御門有脩は天生5年に死亡するまで織田信長の臣下であった。現在は息子の久脩が、信長の臣下をしているはずである。そして、ずっと先の話になるが久脩は明智光秀の親戚から嫁を貰いうける。


 この時代はまだまだ陰陽師の位が高く、今でいう中央省庁の一つに該当する〈陰陽寮〉という役所があり、その役所のトップを陰陽頭といっていた。


 土御門家は代々その陰陽頭を担っていた。特に信長は占いや易学に興味があったため、土御門が織田家家臣でも知っている人は少なくない。

『――だが、このタイミングはまずい』

 燈は可能な限り距離をとるため、群衆から離れようとするが、人が多すぎて思うようにいかない。


 光秀は久脩の指輪を見ると「そうですか。土御門さんですか……」と言って、頭を下げる。

「私は陰陽師ですが、織田家の家臣でもあります。なぜ、このようなことを?」

「陰陽師とはそのようなことまで介入しますか」

「雇い主が殺されているので、黙ってはいられないでしょう?」


 二人の会話を聞きながら、その場から離れようとする燈に太常は『燈さん! 久脩さんは術を使っています』と教えてくれた。

 なに? それって――。

『そう、陰陽師法からの逸脱、違反者です』


 陰陽師法とは、陰陽師がむやみに術を使うことを禁じた法であり、陰陽師はこの法の下で管理されている。

 歴史の証人である燈も陰陽師であるため、当然この法律に遵守している。


 陰陽師法違反が見つかれば即座に免許をはく奪できる。ただし、現在燈は時戻り中であり、ここで安土桃山時代の人物に介入することは禁じられている。


 これもまた陰陽師法である。ただし、とある1名は介入を許可されている。


 太常は杏の作った人形をだし、自身の懐から黄色の小さな飴玉サイズの結界球を割って「ソワカ!」といった。


 すると人形は白色に輝きだした。人形は20代半ばの男性の姿になると、さて、と言って人形は懐から扇子をだし、久脩と光秀の前に現れた。扇子はきらびやかな蝶の模様とある人物を現す五芒星が記されていた。


「後世において、明確な結論と至らなかったものを調べ、白日の下にさらすのが私の役目です。あなたが今起こした事件、のちに〈本能寺の変〉と呼ばれますが、その件で伺いたいことがございます」


 本来ならば、事件を起こした者に話を聞くことはない。ただ、この事件は陰陽師法違反が疑われている。


 今回のように陰陽師が自身の力で他人の生死に影響を及ぼした場合、介入した陰陽師を捕まえなければならない。そしてそれはたった一人が許されている。


 事件の当事者と接点を持つ場合は、質問した者から記憶を消さなければならない。そのような場合、問い合わせする際、自身の家紋を見せる。話した後、再度家紋を見せ、家紋と家紋で挟まれた記憶を削るという術である。


「先ほど火を放ちましたが、あの寺に織田信長は本当にいましたか?」


 可燃については明らかに術を使った可能性はない。つまり、遺体が燃え尽きることはない。それならば、信長公の遺体は初めからなかった、と考えることができる。


「質問の仕方を変えます。信長はどこに逃げたのですか?」

 そういって、人形は扇子で口元を隠しながら、光秀ににじり寄る。

「ねえ、久脩に化けた道満さん?」といった。



 燈はゴクリ、と喉を鳴らして唾をのんだ。


 おかしいと思う点は沢山ある。女子供を寄越す必要がない、だが本能寺にはおり、すぐに女子供は解放されて生き延びていた。


 それは数で撹乱させ、逃げやすくするための布石となった可能性がある。


 後世に言い伝えられているのは、今まで仲の良かった信長と光秀が宴の席で突然不仲になった、と言う説である。

 その原因は光秀の粗相と信長が酩酊したことに起因するといわれているが、そもそも信長は下戸とされているから、そのため、宴の席で信長が光秀を叱責する可能性は極めて低い、と燈は考えた。


 これまた後世では明智光秀は非常に頭が良い、と言われている。頭が良い人が誰もがわかる程度に上司に嫌われるだろうか、と考えると否である。

 燈が考えによれば、これは織田信長と光秀の共謀と考えることもできた。そして仮説が正しければ、本能寺から数百メートル先にあるそこの地が鍵となるはず、と燈は思った。


 だが、蘆屋道満が出ては、これ以上深入りをすると命の保証がなくなる。


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