大魔王は敗北したい
なろうラジオ大賞2に応募する作品です(/・ω・)/
大魔王は勇者と世界の命運を賭け対峙していた。勇者が勝てば世界は平和に、逆ならば闇に帰す。
が、彼は勝ちたくなかった。それも切実に。大魔王はただの中間管理職で、上には超魔王や絶対魔王などの、もはや役職を聞いただけでは強さの序列が分からない連中が大勢いる。そして彼は上司の超魔王から「人間界を征服できたら娘と結婚」とパワハラ紛いの縁談を押し付けられていた。一番の問題は、娘の姿形がなぜか牛であることだった。ステーキにしたらうまそうだった。
(超魔王は人型だのに、どんな突然変異だ!)
大魔王は結婚に夢を見るお年頃だった。断ろうにも超魔王は彼の7兆倍強い。彼はこの戦いを別次元から観戦しているはずだから八百長もできない。
決闘の最中、絶好のチャンスが舞い降りた。勇者の一撃に乗じて剣を落とすことに成功したのだ。
(さあ来い、死なない程度に負けてやる!)
だが追撃がこない。
「剣を拾え。無手の者に向ける剣など、俺は持っていない」
もし存亡のかかっている人類が聞いたら一斉に罵声を浴びせたことだろう。仕方なく剣を拾う。
「愚かな、大魔王に情けなどと」
「何言ってやがる。あの高潔さがあるからこそアイツは勇者なんだ!」
なぜか解説役に徹している勇者一行の魔術師ワイズマンと傭兵スカーフェイスが干し肉を齧りながら実況している。
(貴様ら加勢しろ。それでも仲間か!)
もちろん抗議はできない。
好機の後に危機が来た。勇者の魔力が尽きてしまったのだ。
「これまでか」
意気消沈する勇者。だが彼が負けて誰よりも困るのは大魔王だった。
「そこの魔術師、回復してやれ。ふっ、これで借りは返したぞ」
もっともらしい理由をつけて急場をしのぐ。
「あ奴め、味なことをやりおる」
魔術師ワイズマンが敵を称賛した。
(何で魔王のクセにフェアなんだよ!)
勇者は心中で罵った。彼は世界を救った暁には、さる王国の王位を継ぐことが決定していた。勝手に決まっていたのだ。世界を救った報酬と考えればそれはいい。問題は、王女との結婚が前提になっていることだ。王国一の美貌と名高い王女は、なぜか姿形が魚だった。いつも水槽の中で口をパクパクしていて、時々水を噴く。
(魚って。血筋絶えるわ!)
彼もまた結婚に夢を見るお年頃であった。
勇者「たまのこし」と大魔王「それなり」の絶対に勝ってはならない戦いは始まったばかりだ!
笑いのツボって難しいですね(/・ω・)/