6 やってしまってる…
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「やってしまってる…」
声が震えている、絶対、やってしまってる。でも、確認しなきゃ…。
「あの、あの・・・・この中にサングラスかけて髭もじゃなのに、頭はツルツル、服装はいかれた原宿の若者って感じのおじいさん、います?」
「あんまり適切な表現じゃないけど…。正確にいうと、ピカソとシャガールを足して2で割ったような、都会的な雪山遭難者、な感じよ。でも、まあ、知ってたのね、秋田さんのこと。」
「さ、さっきスタジオに勝手に入ってきた一行がいて、てっきり見学者だと思って、追い出しちゃいました。」
「あらー、後で血見るよ、アタシ、しーらないっと。」
そこへ、まるでピカソとシャガールを足して2で割ったような雪山遭難者が黒服の執事を連れてゆったりと歩み寄ってきた。彼らは、僕にだけやくざ顔負けの凄味を聞かせた後、監督の方に向き直って恭しく一礼した。その物腰は英国紳士のようにまろやかで自然だった。そう、そのいでたちも含め一枚の絵のように。安川は初めて人間に芸術を感じた。監督がピカソ、シャガールと言った意味が分かった気がした。
改めて、顔を上げた雪山遭難者は口を開いた。
「監督・・・」
声まで芸術レベル。オペラ歌手みたいだ。ま、オペラは学校で聞いた魔王しか知らないけど、あの魔王の声、そうそう、そんな感じ。
「監督、お久しぶりです。本当に呼んでいただけるとは思っていませんでした。感謝しています。こっちのが今使ってるアシスタントで春山って言います。まだ、十代なんですが、よくやってくれます。」
僕は、ふーんと、黒服を覗き込んで肌の張りを確認した。本当に十代みたいだ。なのに、師匠にこんなに褒められるなんて、しかも、顔もスタイルもカッコイイ。単純に羨ましくなってしまった。
黒服は、よろしくお願いいたしますと、頭を下げた。そんな姿も様になっていて、僕は見とれてしまう。
「ふーん、いい顔してるじゃない?表にも出せそうよ?」
「あははは、お手付きは勘弁願いますよ。こいつの両親は古い知り合いなんでね。」
「わかってるわよ。アタシはね、スタッフには手を付けない主義なの。だから、ヤスカワちゃんだって、ねえ?」
おもむろに怪しい笑顔をむけられた僕は、ちょっとした寒気に襲われた。
「ねえ、って。ねえって?監督、何を…。」




