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中編。ドラゴンさんを観察したら、理由はそんなまさかだった。

「さて、どうするアルかね?」

 勢い付いたはいいものの。ジタバタし続けるドラゴンを見て、あたしたちは動けずにいる。

 

 喋ることができないのは、このドラゴンが子供なのかそれとも、暴れる原因になってることで喋れないほど我を忘れてるのか。どっちなんだろ?

 

「なにが理由なのかわかんないってのが、一番厄介よね。怒りじゃないと思うのよね、この感じは」

「そうだな。目付きは怒りってよりは、いらだってる感じだからな」

 

「ねえねえ? 目が細くなったり元に戻ったりしてるよっ、おっもしろーい!」

「ほんとだ、おもしろっ。ん?」

「どうしたのよマグエス。マグエヌにつられて面白がってるのかと思ったら違うみたいじゃない?」

「別にエヌにつられてるってわけじゃないんだけどなぁ」

 ほっぺた膨らませて言うマグエス。思わずそのほっぺをつっつきたくなったけど、ここは我慢。我慢っ!

 

 

「あのね。このドラゴンさんの目の動き。なんかに似てるなー、って思って」

 だてに爆発姉妹ツイン・エラプションの冷静な姉じゃないわね。

 妹と違って、ドラゴンをただ見るだけじゃなくて観察してたみたい。

 

「そのなにかに気付ければ、状況打開の糸口になるかもしれないわね。思い出せそうかしら?」

 期待を込めて、あたしはマグエスの思考を促す。

「まって。もうちょっと。もぉーちょっとなの」

 歯を食いしばってまで思い出そうとしてるマグエス。

 一方の妹は、ドラゴンの動きをまねして目を閉じたり開いたりしながら、ぴょんぴょん小さく飛んで遊んでいる。

 そんな様子には、あたしたちのみならずその姉すら溜息をこぼしている。

 

「あたしも視点を変えてみますか」

 物は試し、あたしもドラゴンの目の動きを注視してみる。

 ドッタンバッタンしてることに注意が行きがちだけど、たしかにマグエスの言う通り。

 この、閉じては開く目の動かし方、なんかに似てる……。

 

 まるで、苦い物でも食べたような感じ……それに近いかな?

 

 

「そうだっ!」

 

 

 パンっと、力強く手を打ち合わせたマグエス。

「思い出したの?」

「うん、思い出したっ」

 すっごい勢いよく、首がもげるんじゃないかってぐらい首を縦に振ったマグエス。そんな勢いで急に首振って大丈夫かな? っあほら、ちょっとクラってなってんじゃない!

 

「そっか。あたしは、なんか苦い物でも食べたのかと思ったんだけど、マグエスは?」

 右腕で体を、左手で首を軽く支えながら、爆発姉妹の姉に聞く。

 男性陣が、あたしたちを見て仰天した顔。爆発妹も、ピョコタンやめてこっちを見てる。

 

 

「わたしは違うと思うな」

「なら、なんだと思う? あの顏」

 ドラゴン、疲れたのか勢いが落ちた。それでもまだ地面を踏み鳴らしている。

 ーーなんか、だんだん踊ってるように見えて来たわね。

 

「あの、ギリギリ目を瞑り切らないで、中途半端に開けてを繰り返す感じ。かゆいの我慢してる時、わたしこんな感じになるんだよ」

 

 突拍子なく出て来た答えに、

「かゆい!?」

 と全員同時に驚きな疑問の声が出た。勿論、発言者以外ね。

 で、その発言者はその通りと言わんばかりに、偉そうに「うむ」と、ゆっくり深く頷いた。

 

 

「まさか、かゆみとは。予測もつかんかったアルなぁ」

「でも、言われてみればたしかに。かゆみを我慢してるって話なら、たとえば突然暴れ出したにしても納得はできる……けど、だ」

「なによカーク?」

 

「ドラゴンを刺すモスキーなんて、いるのか?」

 

「あ……」

 マグエスが固まった。

 かゆいと言えばモスキー。めっちゃくちゃ暑い日の夜に耳元で飛び回って、一撃で叩き殺せるわりにはすばしっこくって、気が付いたら刺されてかゆい。

 そんな、天才アサシンって言っても過言じゃないことやってる、動きを分析すると恐ろしい虫。

 

「とはいえ、このまま水掛け論しててもしょうがないわ。マグエスの話を信じてみましょうよ。動かないよりは、どんな可能性でも動いて見る方がまし、でしょ?」

 

 

「ううむ。それも、一理あるか。が、どうする?」

「調べてみればいいじゃない。ちょうどやっこさんも疲れが出てるみたいだし、今ならあたしの拘束魔法でもいけるはずよ」

「なるほど。任せる」

「暴れ潰しはお任せください、ってね。じゃ」

 言うとあたしは、みんなよりも前に出る。

 

「さて、と」

 意識を集中し、足を肩幅まで開く。

 

 

「コネクト!」

 声と同時に拳を握って両腕を振り上げる。

 これで精霊に、自分がいったいどんな属性の魔法を使うのかを示すのと同時に、じゅつとして魔力を行使することを伝える。今のは無属性ってことで、属性の無い純粋なあたしの持つ魔力を使うって意味になる。

 

 もしかしたら無属性魔法の場合、この動きは必要ないのかもしれないけど、精霊に黙って魔法を使うことに後ろめたさを感じてしまう。この世界で魔法を使う人間は、みんなそうなんじゃないかしら?

 って言っても、武術の一環で魔力を扱うウルチパみたいなのとか古代語を扱うエラップス姉妹みたいな例外組が、こう思ってるのかはわかんないけどね。

 

 あたしの両手が淡く白い光を放ち始めた。詠唱開始だ。

 

 

「エイチ」

 両手の指を四本立てながら言って、両腕を前に付き出し、同時に左の足を後ろに 右の足を前に開く。

 

「オー」

 今度は両手を開き再度前に付き出し、同時に足を戻して肩幅まで開いた状態にする。更に開いた右手で、指差すように前へと突き出す。

 

「エル」

 今度は両手共三本指にして、やっぱり指差すように前に付き出す、これを二回。

 

「ディー」

 左手を小指以外の四本を開き、同じく指差すように押し出す。

 

「インビー!」

 左手を胸の前に戻すのと同時に、右手を握って天へと突き出す。

 

「アイード!」

 これで最後。

 右足を前に踏み込むのと同時に、右腕を開いて振り下ろした。

 

 光ってた両手からその光が右手に移って強い光になったかと思うと、魔力の光はまるで白く輝く糸のように、あたしの五本の指からドラゴンへと急速に伸び、その体と四肢を縛り付けた。

 

 

「んじゃ、後おねがいね。あたし、この拘束維持するんで動けないから」

 ドラゴンにおもっきし見られてるけど、うなってるだけで抵抗する様子がなくて、とりあえずは一安心。

「了解したアル」

「難儀な魔法だよな。術者じゅつしゃが動けねえ魔法なんてよ」

 この魔法、複数人で行動したり魔動人形マリオンを使ったりして、この魔法を担当する誰かと動ける誰かがいっしょにいることが前提の魔法で、カークの言う通り難儀な魔法ではある。

 

「拘束魔法は、相手の拘束を維持しなきゃほぼ無意味だもん、しかたないけど扱い難くはあるわよね」

「でも、魔法使う時のダンス、わたし好きだけどなぁ」

「うんうん」

 珍しくマグエスから喋り始めて、それに頷くマグエヌの声。ちょっと会話として繋がってない気はするけど、動きが好きって言われていやな気はしない。

「ありがと、二人とも」

 

 

「さてと。どう調べる? ツイン・エラプションが調べるのは骨が折れる。一番適任なのはウルチパだけど?」

「わかたアル。モスキーに食われたかどうかを調べるんアルよね」

 カークに答えたウルチパ。食われるって言う言い方は、ウルチパの故郷やそれと似た部分のある文化を持つ国ならでは、なんだそうだ。

 

「目と手で調べるっきゃないアルな。んじゃ、おさわり行かせてもらうアルよドラゴンさんー?」

「なんか、ヤラシイ言い方ね、それ」

「アブニエさんの言葉と視線がいてえアルが、鋼の精神で耐えるっ」

「わざわざ言う?」

「おっとっと。心の声が駄々漏れてたアルかな?」

「ニヤニヤすんじゃないわよ」

 

 

「さて。もしモスキーが食ったとするなら、どこら辺りアルかなぁ?」

 見当を付けてるようなことを言いながら、ウルチパはドラゴンの鱗を触り始めた。それも表面だけじゃなく、鱗と鱗の隙間……があるのかあたし知らないんだけど、とにかく、そういう隙間っぽいところに爪を差し込むようにして念入りに調べている。

 

「俺も剣使ってその、ウルチパが調べてるとこを調べたいところだが。ドラゴンの鱗の隙間に刃を差し込むのは、どうにも後が怖くてな」

 

「「「わかるー」」」

 

「ならみんなはそこで眺めてるとヨロシ。んー、モスキーがもしドラゴンを食ったとすれば、肌の硬さで力みすぎて絶命してる可能性があるアル。とすれば、不自然に血痕がある可能性があるアルなぁ」

 

「なんか、頭よさそうなこと言ってるわね、ウルチパ」

「喋り方は間抜けっぽいのにな」

「しつれいな!」

 

「結婚? モスキーとドラゴンが結婚するの?」

「違うわよマグエヌ。ウルチパが言ってるのは血の跡って意味の、まあ 難しい言い方ね」

「ほへー」

「言葉って難しいよね」

 しみじみ言ったマグエスに、あたしはうんうんっと声を出しながら二回頷く。

 

 

「お、見つけたアル。不自然にある血の跡。ほら!」

 指を指してんのは言葉でわかるけど、場所があたしの視線が向けられない位置だ。

「ほんとだ。よく見つけたな」

「「すっごーい!」」

「だてにパーティ一、六感が鋭くないってことアルな」

 

「すっごい勝ち誇ってるわね……こっちは見たくても見えないってのにっ!」

 右手を思わず握り込んでしまった。そのせいでだろう、ドラゴンが痛そうにうめいた。

「やば」

 

 

「で、エスちゃんの言うことにはかゆくて悶えてたってことアルが、そうなんアルか?」

 首に魔力の糸は伸びてなかったおかげで、ドラゴンは首を縦に振った。

「よ、よかった。怒られなくて済みそう」

 

「掻いてほしいってことアルかな?」

 また首を縦に振るドラゴン。

「よし、わかたアル。ちょっと痛いかもしれんアルが我慢するヨロシ!」

 言うが早いか、ウルチパは魔爪変まそうへんと気合の声を上げた。

 これは指先に魔力の爪を出現させる物で、使い手しだいでその魔力の爪の長さや形は思いのまま、って技だ。

 

「ほれほれほれ~!」

「た……楽しそうね」

 心なしかドラゴンの体から、力が抜けてるように見える。どうやら、しっかりと患部を狙ってるみたいね。

 

「んーっと、ここだけ麻痺にでもできればかゆみ止めになるんアルが、あいにくその手の技には覚えがないアル。いつまで掻いてればいいんあるかなこれ?」

 声色が心底困ったって風だ。そりゃそうよね。

 

「ドラゴンさんドラゴンさん。もういいよって時に声出してあげてよ」

「お、珍しく気が利くなマグエヌ」

「ずっとこのままなのいやだもん。ドラゴンさんボリボリやってるの見てるだけなんてつまんないし」

「なるほど、たしかにな」

 カークの笑顔声につられて、あたしたちも笑っちゃった。

 あたし、カーク、ウルチパの笑い声に混ざって、

「でしょー?」

「そうだね」

 って言う姉妹の声が聞こえた。

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