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05 ミズーラ郊外での戦闘5

ミズーラ郊外 MST(山岳部標準時間)AM9:30


 エコー各機がノースに対して繰り返し攻撃を行い、デルタ分隊の作業時間を稼いでいた。そしてデルタ側の準備が終わり、ノースが来るのを待ち構えている。

 デルタ分隊が防衛線を築いている場所までおよそ300m。エコー各機から撃ち込まれる銃弾やロケット弾の位置から、大体の場所がデルタチームでも目視できるようになってきた。


「牽制射撃用意! 撃て」


 デルタワンの指示の下、散発的な銃撃が始まる。それはこちら側に待ち伏せしているという事を分からせて誘い込むための囮であった。ノースは銃撃に怯むことなく走り続けている。

 ロケット弾がノースの後ろに着弾し、衝撃で地面をゴロゴロと転がった。しかし4、5回転した後、そのまま飛び込み前転の後のように立ち上がり、また走り始める、距離にして200m。


「シット!」

 スナイパーがノースの頭に弾を直撃させてしまい、自分のミスに腹を立てる。普通なら頭に穴が開いているはずだが、衝撃で頭が少し揺れた程度で気にせず走り続ける。


「嘘だろ、シット!」

 再度悪態をつきながら、自然な動作で次弾を込め、今度は意図して頭を打つと頭の表面が若干削られ、先ほどよりも大きく頭が揺らいだ。そしてふらつきつつも、それでも走り続けてくる。他の隊員たちが撃つ弾も体に当たっているのが分かるが、弾がはじかれているように見える。


 距離にして150m、設置していたトラバサミの一つに引っかかり、物凄い速度で地面に倒れこんだ。罠は鎖で固定されており、急に足を引っ張られたためだ。そしてそこに撃ち込まれる銃弾。


「うぉおおおお」

 ノースは怒号を響かせると、罠を力任せに取り外し怒りを込めて地面に投げつける。地面に当たった衝撃で大きな音を立てて閉じるトラバサミ。地面の罠を避けるようにゆっくりと移動し、手元に長い、20mはあろうかという槍を取り出した。

 怪しそうなところに槍を叩きつけると、いくつかのトラバサミが閉じられ無効化される。そして歩くルートを確保しつつ注意深く移動し始めた。しかし、そこに撃ち込まれるロケット弾。槍は手を離れて、地面に倒れこむノース。


 片膝を立て、ゆっくりと立ち上がろうとしているところに撃ち込まれる銃弾。スナイパーが放った弾は膝に当たり肉を削って、バランスを少し崩した。次々と弾を足に撃ち込み肉を削っていく。ブボボボボ、ブボボボボ、ノースの体のあちこちに銃弾が命中し肉を削っていく、分隊支援火器のMK48からの連射によるものだ。

 他の隊員達が持っているHK417からの攻撃は弾かれているように見えるが、MK48からの銃撃はノースに傷を負わせているように見えた。すでに服はボロボロでほぼ裸のような恰好をしているため、ダメージの入り方分かりやすくなっている。


 ノースは体が収まる程の長く大きな盾を取り出してデルタ分隊との射線を塞ぎ、回復ポーションをかけHPの回復を計る。


「なんだんだよ、さっきから! どっからあんなものを取り出してんだよ! しかもこいつの弾をはじいてるし、化け物かよ!」

 デルタ隊員が愚痴をこぼしながらHK417の弾倉(マガジン)を外して、新たな弾倉を叩き込む。くそっとこぼしながらセミオートでタン、タン、タン、と狙いをつけながら無駄弾を使うことなく撃ち込み続ける。


 盾の周辺に数多くの土煙が上がる、ゴルフフォーの機体横に付いているドアガンからノースに叩き込まれた、ある程度撃ったところでホバリング状態を止めて遠くに離れていく。ノースは攻撃が止んだのを見計らって再度HPを回復、盾をしまいデルタ分隊の方に向けて走り始める。デルタ分隊までの距離は100m。


「デルタワンから各チームへ。捕獲に入る攻撃を控えろ」


 エコー各機やゴルフフォーはいつでも支援できる状態で空中を移動しながらノースに狙いをつけている。ノースはデルタ分隊に向かって走るが途中途中木に結ばれている鎖や紐が邪魔で少し進撃速度が遅くなっている。邪魔な紐の一つを鉈のようなもので切り落とすとその紐に結ばれていた対人地雷が爆発し多数の鉄球がノースがぶち込まれる。


 それでも近づいてくるノース。ただ紐が多い場所は避けるようになり、デルタ分隊が誘導したい場所に向かっていく、デルタ分隊との距離40m。ノースの足元でカチッという音がし、爆発音が響き、爆煙と土が舞い上がったあと、シャワーのよう土が降り注ぐ。バランスを崩して倒れた先でも爆発音が響き、爆煙と土が舞い上がり、土が降り注いだ、そのたびにノースの体が転がる、地雷原だ。


「今だ! 特殊攻撃! 撃て!」

 複数の隊員が武器を持ち替え、別の武器で攻撃を始めた。倒れているノースにダーツの矢の様な物が飛んで行く、麻酔銃による攻撃だ。しかしノースには刺さらず弾かれて地面に落ちていく。また針のようなものがノースに当たるがそれも弾かれて地面に落ちていく。ワイヤレス式のスタンガンだったが、針が刺さらないため電撃が流れない。


 立ち上がろうとしてるところに、投網のようなものがノースの上に掛けられた。鉈のようなもので振り払うが固定されていないため力が分散されて上手く切り払えず藻掻いている。

 抜け出そうとしているところに、再度同じものが被せられる。そこに大量の泡のようなものが吹きかけられる。直ぐにそれは固まり始めるがノースの怪力により簡単にヒビが入って壊れてしまう。


「ガス戦用意! 状況ガス!」「状況ガス!」「状況ガス!」「状況ガス!」

 デルタ分隊は個々に復唱しながら一斉にガスマスクをかぶり始める。


「催涙弾装填! 順次撃て! 撃て!」

 銃の下に付けた投擲発射装置に弾を込める、ポン、ポンと打ち出されるが、近すぎ勢い余って通り過ぎてしまう、それでも何発かがノースに当たり足元に落ちた。


「ゴファッ! ゴッホ、ゴッホ!」

 網の中でより一層ノースが激しく咳き込み藻掻き苦しんでいる。再度泡を吹きかけるが、固まるや否やヒビが入って壊れる。

 これ以上打つ手が無い、もってきた捕獲装備はこれで全部だ、どうしよもない。想定では麻酔銃あるいはスタンガンで行動を阻害させた状態で泡で固めて捕獲、あるいは動けなくなったところを鎖で縛りあげる予定であった。


「デルタワン。捕獲失敗、捕獲失敗」




 隊員たちのヘルメットに付けられた映像で、司令本部でも状況は把握出来ている。捕獲が失敗した場合のセカンドプランは殲滅だ。作戦士官等に確認し殲滅に同意したため、殲滅に切り替える。


「デルタ撤退。ゴルフフォーは直ぐにピックアップして。他は支援。ゴルフワン、ゴルフスリーも呼び戻して。これより殲滅に方針転換」

 グレースの指示が繰り返され、各チームに伝達される。司令本部ではオペレーターや作戦士官が慌ただしく行動を行う。


「周辺に展開している部隊をハイライトして」

 グレースの指示で正面のモニタが衛星写真に切り替わり、そこに展開中の部隊が色付きのアイコンで表示されていく。そしてアイコンのいくつかは少しずつ移動している。目につくのは、州兵を表す緑色のアイコン。クリアウォーターに向かっているストライカー歩兵中隊、殲滅するには十分な戦力だ。


「モンタナ州兵の司令本部に救援要請、優先度は1!」

「州知事に連絡開始!」「モンタナ州兵司令本部と回線つながります」「作戦認証コード、受信完了を確認。ストライカー歩兵中隊に指示可能」

 グレースの指示で直ぐに必要な行動が取られていく。オペレーターが優先度1の作戦認証コードをモンタナ州の司令本部に送信し、それが州兵司令本部のコンピュータにて自動確認が行われ、指揮命令系統の上位に立つことが出来た。しかしそれはそれとして口頭でもしっかりと伝える、当然指示には従うだろうが変な軋轢(あつれき)は無い方がいい。




「撤退! 撤退!」

 2人が殿(しんがり)を務め、他の隊員が走ってある程度下がったら、下がった隊員が後ろを振り返り、殿だった2人を呼び戻す。順々に交代しながら距離を取る。藻掻いているノースに、カバーに入ったエコーフォーからチェーンガンが撃ち込まれる。

 デルタチームに当たらないようにするため、ノースに近づいて攻撃していた。念のためフレアをまき散らしながら撃ち込んでいたが、ノースから放たれた光がエコーフォーに向かって飛んでいく。幸いにもばら撒いていたフレアに当たり、エコフォーは緊急回避して距離を取る。


 ゴルフフォーが開け場所に降りるとデルタ分隊が乗り込み始める。ドアガンがブロオオオオと物凄い音を立て、ノースに向け撃ち続ける。


 殿を務めていた2名の兵士に向けてデルタワンが指示を出す。


「M72!」

 撤退する前に一撃喰らわせて撤退のための時間を稼ぐ。使い捨てのロケット弾を構え、もう一人は後ろを含めて周囲を確認し、クリアの掛け声と射撃手のヘルメットをコツンと叩く。ポンという音とともにノースに向かって飛んで行き、ノースに命中し小さな爆発が起きた。


「ぐぉおおお」

 あまりのダメージに思わず声を漏らすノース。


「早く乗れ! 乗り込め!」

 ガンナーが支援攻撃をしながら叫び続ける。ドアガンが物凄い勢いで弾を射出し続ける。


「ゴーゴーゴーゴー」

 全員が乗り込んだところでデルタワンがパイロット席に向けて声を出し、手ぶりで離陸を促す。しかし2,30m上昇した辺りで光がゴルフフォーに直撃した。態勢が崩れてヘリのローターが地面にぶつかり周辺に破片が飛んでいく。


「ゴルフフォーロスト」

 オペレータの声以外でも映っている映像で落下したこと、そしてヘリからの映像が映らなくなったことでも状況が理解出来る。司令本部の左側面に表示させているデルタ分隊の心拍数を見ると既に4人が心停止していて、残りの8人も脈拍が大きく乱れている。モニターしているのは特殊部隊のみであり、パイロット達の生死は分からない。それでも何人かのデルタ分隊のカメラは無事なようで、落ちたヘリコプターの機内が映し出されている。


「デルタワン状況を報告せよ! 早く脱出しろ!」

 

「デルタワン了解」



 ヘリは横に傾いて倒れていた。明らかに首の骨が折れている者、頭部から出血している者、一目で無事だと思える方が少ない。誰が死んで、誰が行動可能かを確認し、比較的軽傷な者が重傷者をヘリから降ろしていく。


 幸いにも横になった機体と地面の間には、人が出れるほどの隙間があり外に出ることが出来た。ヘリのローターも破壊されているため、脅威にならなかったのもついていた。少し離れた民家の裏に隠れ状況を報告する。


「デルタワンからグランマへ。デルタフォー、シックス、セブン、ワンゼロ、死亡。スリー、ファイブ、エイト、重症。行動可能は、ワン、ツー、スリー、ナイン、ワンワン、ワンツー。ゴルフフォーの3名は軽傷」

 デルタワンはヘリに残してきた隊員たちのドッグタグを回収しグッと握りしめた後、ポケットにしまい込んだ。

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