婚約破棄されてスローライフを送っていたら、いつの間にかダンジョン経営してました。
「そんなに好きならスライムと結婚すればいいんですわ!」
これが彼女から言われた別れの言葉だ。
柔らかくて張りのあるおっぱいを持っていたけど、スライムには遠く及ばない。
彼女は心のどこかで僕の不満を感じて取っていたのだろう、別れるのは時間の問題だったと思う。
独り身になった僕はスライムに囲まれた生活を送るべく洞窟の奥へと向かった。
暗くてジメジメした洞窟の中には様々なスライムが生息している。
普段見るよりも数倍大きなスライム、一部を硬化させて攻撃性を増したもの、たいまつを取り込んで火の玉みたいになったスライムも発見した。
僕はスライムと心を通わせられると信じている。
初めのうちは攻撃されたけど、少しずつ距離を縮めていくと僕の生活を助けてくれるようになった。
金属のように硬くなった体をナイフのようにして貸してくれたり、焚き火を付けてくれる。
何より嬉しいのはスライムベッドだ。
全身にスライムを感じながら眠るのはこれ以上ない幸せだと思う。
一方的にスライムから施しを受けるのは公平じゃない。
僕は彼らの要望を聞いて、壁に抜け道を作った。
人間は通れないけどスライムなら通れる絶妙なサイズだ。
格段に移動効率が上がったらしく、異種スライム間の交流が活発になった。
その結果、新種のスライムが誕生し、洞窟は更に活気を増す。
人間界のしがらみから解き放たれたスライムとの共同生活はまさに天国だ。
―――
「ここですわね」
スライム好きの変態との婚約を破棄してから、私はありとあらゆるスライムを狩り続けた。
気付けばレベルは90。
今なら上位の魔物にだって負けない。
そんな私がやってきたのはスライムだけが巣食うというダンジョン。
なんでも他では見たことのない新種のスライムがいて、並の冒険者では手に負えないんだとか。
この自慢のおっぱいを打ち負かした憎きスライムどもを、わたくしが必ず駆逐してやりますわ!
―――
「お客さんかい? 困ったな。ここはダンジョンじゃないんだけど」
渋々起き上がると僕はレバーを引く。
「家に勝手に入り込むんだから、セキュリティくらいは発動してもいいよね」
ズゴゴゴゴ!
地響きが洞窟内に響き渡ると、スライム達は抜け穴を通って持ち場に向かう。
こうして、かつて婚約者だった二人の戦いは幕を開けた。