第5話 二番弟子、初めてのアクセサリー作り
屋敷に帰ると、俺は裁縫箱から糸を持ち出し自室に戻った。
集めた魔石を使って、簡単なアクセサリーを作るためだ。
今回作るのは、「気」の場を矯正するアクセサリーだ。
「気」は、体内空間の各点で向きと大きさを持つ力。
そして「気」の場を矯正するとは、体内空間の各点の気の向きを揃えることを意味する。
「気」の大きさは戦闘経験を積んでいれば自然と大きくなるが、大きさだけ成長しても向きを整頓できなければ大した威力にならない。
更に、気功波を剣として具現化する「気功剣」という応用技が存在するのだが、その鋭利さは「気」の場の整い具合によって決まるのだ。
そう言った理由から、「気」の場の矯正は気を扱う者にとって非常に重要な工程と言えるわけだ。
「気」の場を矯正する方法としては、日課にしている瞑想の他に、魔力と気の相互作用を利用した方法がある。
魔石で作るアクセサリーを使った方法は、後者に分類されるな。
作り方は至って簡単。
なんと言っても、魔石を糸で数珠繋ぎにするだけだ。
ただ、今の俺には魔石に糸を通す穴を開ける魔法が使えない。
術式自体は前世の知識として知っているのだが、単純に魔石に穴を開けるほどの魔法の威力を出せないのだ。
だから、今回はちょっと変則的な作り方をすることになる。
魔石を一つ一つ縛って固定し、繋げていくのだ。
魔石がすっぽり抜けてしまわないよう縛るのにはちょっとコツがいるが、前世で何度もやってきたのでお手の物だ。
14個の魔石くらい、ものの10分で結び終えることができた。
身につけ方は、ただ腕とか足とかに螺旋状に巻きつけるだけである。
それもそのはずだ。このアクセサリーの原理は、魔力を螺旋状に動かして「魔気誘導」を起こす魔圧訓練と全く同じなのだから。
俺は、このアクセサリーは姉にプレゼントしようと思っている。
弟を養うとか言ったりちょっと変態な一面もあるが、俺のことを大切に思ってくれている良い人なのは間違いないからな。
それに、何と言ったって家族だ。大切にしたい。
俺は自室を出て、姉の部屋へと向かった。
そしてドアの前で姉を呼ぼうとすると──
「ねえねえテーラス、聞いた?」
姉がドタバタと階段を駆け上がって来て、息をきらしながらそう聞いてきた。
……部屋の外にいたのか。
と言うか、その慌てようはなんだ?
「何かあったん?」
「なんかさ、森の外でさ。……10匹ものゴブリンの死体が見つかったんだって!」
ああ、その事か。
で、それはそんなに騒ぐ事なのだろうか。
危険地域から少数の敵をおびき出し、万全の状態で迎え撃つのは基本的な戦術のはずだが。
まさか、たったそれだけの情報でスタンピードの予兆かなんかと勘違いしたわけじゃあないよな?
そう考えていると、姉が続きを話した。
「それでさ、そのゴブリンの死体なんだけど……。全部死体が恍惚状態で見つかったっていうの!」
……あ、やらかした。
そう思った俺は、即座にアクセサリーをポケットにしまい込んだ。
そうだ、ゴブリンを狩る際、容姿を戦術に組み込んでたのを完全に忘れてた。
あの作戦を使った事がバレてしまえば、家族にどんな目で見られるようになるか分かったもんじゃない。
討伐の証明とも言えるこのアクセサリーを渡すのは、なしだな。
予定してなかったけど、自分で使うとしよう。
「何でこんなとこに現れたのかは知らないけど、多分サキュバスの襲撃だろうって言われてるの。テーラス、外出する時は言ってね! アタシが守ってあげるから」
「うん。ありがとう」
俺がそう返事をすると、姉は自室に入っていった。
……サキュバスね。そう来たか。
ぶっちゃけ、その予測はすぐに間違いだと証明されるはずだ。
魔法と気の複合技の一種である「魅了術」とサキュバスの「洗脳魔法」はよく混同されがちだが、実際は全くの別物。
サキュバスは「気」を扱えない魔物なのだ。
あのゴブリンたちには倒す際「気」を用いた痕跡が残っているから、サキュバスではないと気づくのも容易なはずだ。
警戒態勢は、すぐ解かれるだろう。
しかし、次からは気をつけなければならないな。
どんな倒し方をしたかが分からないよう、しっかりと後処理をしなければ。
☆ ☆ ☆
夕食時。
話題はやはり、森の外の10匹のゴブリンのこととなった。
「ねえ、サキュバスは見つかった?」
そう切り出したのは、姉だ。
「いや、あれはサキュバスの仕業ではなかったって結論になったぞ。恍惚状態は、ただ美人の冒険者が倒しただけだろうって話だ」
そう答える父。
やはり、サキュバス説は一瞬にして消えたな。
「なあんだ、じゃあ安心だね」
「だがな、1つ不可解な点が残っているんだ。」
「なーに?」
無邪気に父に問う姉。その様子とは裏腹に、父は声を一段と低くし、こう言った。
「その倒されたゴブリンなんだがな……魔法と気の両方を使って倒されたとしか思えないんだ」
「「はぁ?」」
神妙そうに「不可解な点」とやらを解説した父の発言に、俺と姉の反応が重なった。
……魔物を狩るのに魔法と気を併用するのって、当たり前じゃないのか?
俺はそう思ったが、姉は違った意味で反応したようだった。
「魔法と気を、両方? そんなことできる人間っているの?」
俺には、姉の発言の真意が掴めなかった。
まるで、魔法と気の双方を扱える人間なんていないかのような話しぶり。一体、何の話をしているというんだ?
色々と聞きたい事があるが、ここで不用意に発言してはゴブリンの討伐者が俺だとバレてしまう。
……明日、家庭教師に質問しよう。
そう決意して、その後の家族の会話は聞き流すことにした。
【次回のあらすじ】
最初のヒロイン登場です。
果たして、家庭教師は大賢者の二番弟子を前に「教師」でいられるのか?
【謝辞とひとこと】
僕と、僕の作品を育ててくれている人。それは、紛れもなく今ここにいるあなたたち、読者の皆さんです。
僕はそんな皆さんと、できれば友達になりたいとずっと考えています。
僕と仲良くしたいと言う方がいらっしゃれば、是非感想欄で一緒に盛り上がりませんか?
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