第57話 二番弟子、異形を討つ──後編
空中に飛び上がり、俺はニャルラトホテプに手を振った。
手を振ったのは、俺たちが無事だとアピールするためだ。
このニャルラトホテプは今まで、『混沌を執行する』で効果範囲内のあらゆる物を壊滅させてきた。
おそらく、彼は今までそれで破壊し損ねたものなんてなかった事だろう。
そんなニャルラトホテプに、「お前の攻撃食らったけど生きてるぞ」とアピールしたらどうなるか。
「こんなはずはない」という動揺と挑発された怒りに、完全に呑み込まれてしまうはずだ。
自分の実力に絶対的な自信がある相手だからこそ、こんな簡単な事で十分な挑発になるのだ。
そうして怒り狂ったニャルラトホテプが次に出る行動は……まず間違いなく、俺たちの居場所に猛然と突っ込んでくる事だ。
そうなれば、また「呪詛活性化」が使える。
そうして、ニャルラトホテプにさっきと同じ轍を踏ませたら……オーラレールガンにクトゥグアの力を乗せ、容赦なく攻撃できるってわけだ。
「2…………1…………」
今度もまたタイミングをバッチリ合わせ、呪詛活性化を発動。
緊張を緩めず、俺は淡々と攻撃態勢を整えていった。
ニャルラトホテプが通過したら、すぐさまオーラレールガンを収納術から取り出す。
そして、魔石を嵌め込めるように作ってあった部分に、俺はクトゥグアの魔石をはめ込んだ。
(早く発射準備完了しろ……)
0.1秒さえ、永遠のように感じられる中。
ニャルラトホテプを注意深く観察していると……やっと、オーラレールガンの魔力の循環が最大となった。
「終わりだ」
完璧に照準が合っているのを確認した俺は全力で気功波を放ち……ニャルラトホテプに命中させた。
今までとは比べものにならないくらい、激しい轟音が鳴り響く。
威力が集約されている分、巻き起こる土煙の規模は『混沌を執行する』には遠く及ばないが……『混沌を執行する』をも超えるであろう攻撃を命中させられたという確信は、はっきりとあった。
視界が明瞭になると……そこには男の姿などなく、ニャルラトホテプ本来の姿と思われる不定形の代物が微動だにせず横たわっていた。
おそらく死んでいるだろうが、油断はできない。
そう思いつつ、LC共振探知を発動すると……そこでようやく、俺はニャルラトホテプの死を確信できた。
☆ ☆ ☆
さて、俺にはまだやり残した事がある。
ニャルラトホテプを倒した俺は、可能な限り急いでニャルラトホテプの元へと駆け寄った。
「……まだ、死後硬直は始まってないな」
ニャルラトホテプの死体の様子を確認し、俺はそう呟いた。
そして俺は気功剣を発動し……ニャルラトホテプの魔石に近い部分を、切開し始めた。
ニャルラトホテプの死後硬直が始まってしまうと、それが終わるまでは俺を含め誰も近づけなくなる。
そうなる前に、魔石だけは回収しないと。
そう思い……俺は、慎重に切開を進めた。
そして……ついに、俺は魔石の回収に成功した。
「良かった……。これで、アイツを蘇らせられる」
俺は安堵の息を吐き……収納術から、クトゥグアの魔石を失ったサイボーグを取り出した。
収納術は、基本的には生きた生物は収納できない。
だが仮死状態の生物は、収納術においては「死んでいる」と分類されているので、収納することが可能だ。
自らの魔石を取り出した後のサイボーグの状態は、いわゆる心停止のようなもの。
つまり、仮死状態だ。
だから俺は、その状態のうちからサイボーグを収納し、時間の止まっている空間に保存する事でサイボーグを死なせないようにしたのだ。
今なら……ニャルラトホテプの魔石を嵌め込めば、まだサイボーグは蘇る。
こんなことになるとは全く想定してなかったが、俺が手術を施したこのサイボーグは、ニャルラトホテプの魔石という超強力な動力源にも何とか耐えられる。
「ここに嵌めて……止血して……」
一連の作業を終えると、サイボーグが生体反応を起こしたのが確認できた。
蘇生、成功だな。
今はまだ意識を失っているが、それは回復魔法で何とでもなるだろう。
俺は残りの魔力を振り絞り、サイボーグを回復させた。
☆ ☆ ☆
回復魔法をかけてやると、サイボーグが目を覚ました。
「良い知らせと、良い知らせがある」
俺はそう声をかけた。
「……はい? というか俺、どうして生きているんですか?」
狼狽えるサイボーグ。
俺はサイボーグに微笑み返し、こう続けた。
「まず最初に、良い知らせだ。お前のお陰で、無事ニャルラトホテプを討伐できた。そして、もう一つの良い知らせは……今日からお前の動力源は、そのニャルラトホテプの魔石だ」
【お知らせ】
新作、「俺の前世の知識で底辺職テイマーが上級職になってしまいそうな件について」始めました。
43話まで書き溜めありまして、本日は第23話を更新します。是非読みにきてください!
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