第56話 二番弟子、異形を討つ──中編
ゴドウィンにオーラレールガンに魔力を流してもらっている間、俺は照準を微調整し……すかさず、2発目の気弾を発射した。
今のニャルラトホテプは体勢が悪いだけでなく、1発目の時に比べて距離も近い。
もう今気づいたところで、逃れることは不可能だ。
「……当たったな」
直後……轟音と共に、ニャルラトホテプがいた場所に大量の土煙が立った。
望遠魔法でその様子を詳しく見ると、ニャルラトホテプの首が吹き飛ばされているのが見て取れた。
とりあえず、命中はしたってところだな。
「これがニャルラトホテプでさえなければ、今ので完全に勝負ありなんだがな……」
俺はそう呟きつつ、改めて気を引き締め直した。
首といえば、殆どの生物にとって急所である。
その事実は、エイリアンであれど変わらない場合が多い。
だが……ニャルラトホテプは変幻自在だ。
今までは人間の男の姿をしていたが……その首が、ニャルラトホテプの急所であったとは限らない。
急所でも何でもない場所に当たっただけって可能性も、無くはないのだ。
注意深く観察を続けていると、ニャルラトホテプの形が戻り始めた。
……うん、これはおそらく、急所ではなかったパターンだな。
「急所だったにもかかわらず、あまりダメージが入らなかった」というケースも考えられなくはないが……それはあまり考えたくない。
まだ敵の動きが鈍いうちに、2発目を撃ち込まねば。
そう考えかけたが……そんな考えが、一瞬で吹き飛ぶ光景が目に入ってしまった。
「……まずい! ゴドウィン、サイボーグ、ここから離れろ!」
ニャルラトホテプが、ブツブツと何かを呟き始めたのだ。
間違いなく、あれは『混沌を執行する』の前触れだろう。
そして今、俺たちはその効果範囲にいる。
何が何でも、その効果範囲の外に脱却しなければならない。
俺は叫んだ後……ニャルラトホテプから遠ざかるゴドウィンたちとは反対に、俺はニャルラトホテプに向かって突っ走っていった。
おそらく、全力で遠ざかったとしても、それで『混沌を執行する』の効果範囲から逃れることは不可能だ。
その上、もしニャルラトホテプが相打ち覚悟でいるとしたら、オーラレールガンをもう一発命中させたところで、『混沌を執行する』の発動を止められるとは限らない。
となると、残された選択肢は一つ。
俺が近づいて呪詛活性化を放ち……苦痛で強制的に『混沌を執行する』の発動を妨害するのみとなる。
「グギャアアアァァァァァ!」
呪詛活性化を発動すると……ニャルラトホテプは苦しみもがき、そこかしこにその余波を撒き散らしだした。
(……今だ)
俺はタイミングを計り……呪詛活性化を中断して、結界での防御に全力を注いだ。
直後、悶絶するニャルラトホテプが放った強烈な衝撃波で、俺は一気に上空まで吹き飛ばされた。
ニャルラトホテプは、みるみる遠ざかっていく。
随分と荒い方法だったが……これで何とか、俺も『混沌を執行する』の効果範囲から離脱することができただろう。
風魔法で落下地点を調整し、ゴドウィンたちと合流する。
すると……俺が地面に着くか着かないかくらいのタイミングで、周囲の光景が一気に粉砕された。
……これが、間近で見る『混沌を執行する』か。
結構、ギリギリだったみたいだな。
ため息を吐きつつ、俺は頭を抱えた。
何とか、『混沌を執行する』を回避することには成功した。
だが……問題はここからだ。
俺とゴドウィンで放ったオーラレールガンは、ニャルラトホテプにあまり有効な攻撃とはならなかった。
あれを何発も命中させたとて、まず決定打にはなり得ないだろう。
それに、仮にあと数発でニャルラトホテプを討伐できるとしても、それまでに2度3度と放たれるであろう『混沌を執行する』を全て避け切れる保証はない。
このままでは……確実にジリ貧だろう。
何か、この状況を覆せるものはないか。
そう思っていると……サイボーグが、とんでもないことを言い出した。
「もし、奴を倒すのに有効なら……俺の動力源を使ってください」
サイボーグは、真剣な目でそう訴えてきた。
サイボーグの動力源……クトゥグアの魔石のことか。
確かに、クトゥグアの魔石を装填したオーラレールガンなら、従来のやり方の十数倍の威力は出せる。
その上、クトゥグアの魔力は、ニャルラトホテプにとって最悪の相性だ。
それを考慮すれば、確かに試す価値は有るのかもしれない。
だが……設計上、今のサイボーグにとっては、クトゥグアの魔石は心臓のようなもの。
それを取り外すということは、サイボーグの死を意味するのだが……本人はそれを分かっているのか?
「確かに、クトゥグアの魔石は有効かもしれ──」
そこまで言いかけた時。
サイボーグは、その言葉を待ってましたとばかりに……自らの身体を抉り、クトゥグアの魔石を取り出してしまった。
「奴をこれで殺せるなら……それで本望……です……」
その言葉と共に、サイボーグは倒れ伏した。
……マジか。
ここで先手を打たれては……もはや、四の五の言ってる場合ではないな。
俺はサイボーグが握りしめていた魔石を手に取り……サイボーグを、収納術にしまった。
こうなった以上は、何が何でも、次の一撃でニャルラトホテプを殺す。
【次回のあらすじ】
いよいよ大技ですね! 次回もお楽しみください!
【お知らせ】
新作、「前世の知識で特殊な進化をさせた魔物を使役してたら、底辺職だったテイマーが上位職に置き換わってしまいそうなのだが」始めました。
第1章完結まで書き溜めありまして、40話まで1日2話投稿する予定です(本日既に9話まで出してます)。是非読みにきてください!
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