第54話 二番弟子、再会する
2日後。
仕掛けた盗聴用の魔道具を回収した俺は早速、どんな情報を回収できてるかの確認作業に徹していた。
「……これも収穫無し、か」
3本目の盗聴内容を確認したところで、俺は軽くため息をついた。
フーリエ変換を利用したデジタル式の録音魔道具の利点は、アナログな蓄音装置では不可能な倍速での再生ができることである。
再生速度を上げて確認している分、確認の作業量はかなり減らせているはずなのだが……いかんせん、魔道具自体の量が多い。
気が遠くなりそうになるのも、無理はないというものである。
「4本目も……ん、待てよ?」
しかし。
ありがたいことに、転機は割と早く訪れた。
いつも通り無音かと思っていたら……椅子をガタゴトと動かすような音が、途中から流れ出したのだ。
しばらく再生を続けていると、こんな声が聞こえてきた。
「それで……例の男への対策案は、何か見つかったのか」
「……いえ。それが……」
……例の男、か。
いきなり、気になる単語が出てきたな。
そもそも、ここが本当に問題となっている戦線かの確信すらない状況ではあるが……とりあえず、続きを聞いてみる価値はありそうだ。
「……ただ、男について、1つの特徴を発見することはできました」
「……ほう、何だ? 言ってみろ」
「ある偵察員の話なのですが……望遠魔法でその男の動きを確認していると、何もかもが木っ端微塵になる直前、男が何やら呟いていたのが確認できたそうです」
木っ端微塵。
俺はその単語を聞いて、一つの可能性を連想した。
……まさか、違うとは思うがな。
というか、違うと思いたい。
一旦気持ちを落ち着かせてから、俺は魔道具を再び再生した。
「その男は……おそらく、『混沌を執行する』と呟いていたんだそうです」
俺はその再生内容から……最悪の予想が的中してしまったことを、確信してしまった。
「混沌を執行する」というトリガーの後、何もかもが木っ端微塵になる。
これが……ニャルラトホテプ の仕業でなくて、何だというのだ。
この惑星から発生する、唯一の異形級。
1000年に一度発生するかしないかという、あの異形級。
本当に、迷惑すぎるタイミングで発生してくれたもんだ。
「男」というのは、ニャルラトホテプ は現在、仮の姿として、人間の男の容姿をとっているという意味だろう。
そして、被害の規模が戦場1つ程度に収まっているということは、おそらくそのニャルラトホテプ は、まだ生まれて間もないのだろう。
それでも、現段階でも、この前倒したクトゥグアなんかよりは圧倒的に強いだろうがな。
1つ救いがあるとすれば、それは早期の段階でニャルラトホテプ を発見できたことだ。
宇宙空間を渡ってくるエイリアンのように、過酷な環境に耐えるために絶えず強力な障壁を張っているわけではないニャルラトホテプ は、「LC共振探知に引っかかった段階だと既に手遅れ」となる確率もそれなりにある。
だが……そうはならずに済んだのだ。
よし。
……もう一度、転生しよう。
この時代の人類は、絶滅に近い状況に追い込まれるだろうが……それでも、強力な魔物の被害は得てして大雑把なので、人類が完全に滅亡してしまうというのは考えにくい。
生き残った人類の、子孫に転生する。
もはやそれ以外に、生き残る道は無い。
俺は、転生術の術式を構築し始めた。
☆ ☆ ☆
転生術の術式が、1割ほど完成した時。
ふと空を見上げると……ボロボロの恰好で空から落ちてくる、1つの人影が目に入った。
「テーラス……あれ、お前が改造した奴ではないか?」
同じく、その存在に気づいたゴドウィンが、そう呟く。
そう。
どういうわけか……俺が改造したサイボーグが、こんなところを飛んでいるのである。
俺は手を振り、サイボーグを呼んだ。
「テーラス博士……こんな見苦しい姿を……すみません」
開口一番、サイボーグはそんなことを言った。
「……『木っ端微塵にする男』の仕業か?」
単刀直入に、俺はそう聞いてみた。
これは何も、当てずっぽうに質問しているわけではない。
クトゥグアの魔石を動力源を持つ今の彼を──ここまでボロボロにできる奴など、それくらいしか考えられないから、そう聞いたのだ。
「……はい」
「……何で、わざわざそいつを倒しに行こうとしたんだ?」
俺はこのサイボーグを、魔族だけを攻撃するように設定した。
いくら強い相手とはいえ……それだけの理由で、こいつがニャルラトホテプを狙いに行くなど起き得ないはずなのだが。
「……初めは、普通の殲滅対象だと思ったんです。ですから通常通り、倒しに行こうと思いました。ですが……奴の強さは、尋常ではありませんでした」
俺はそれを聞き……構築途中の転生術を、解除することにした。
ニャルラトホテプは恐ろしく強い。
普通の方法では、手も足も出ないような相手だろう。
その上、サイボーグがそのニャルラトホテプを殲滅対象と見なしたということは……ニャルラトホテプ には、ワートの魂までもが入り込んでいるということなのだろう。
常識的に考えれば、状況はより絶望的だ。
だが……俺にとっては違う。
俺にとって……敵が魔族であるということは、「敵には脆弱性がある」という意味でしかない。
要するに、勝ち筋が見えたってことだ。
異形級による災害は、食い止められるなら食い止めるに越したことはないからな。
ここでは諦めず、討伐に向かうことにしよう。
【次回のあらすじ】
VSニャルラトホテプ !
お楽しみに!




