第53話 二番弟子、潜入に向かう
軍隊主催の祭り。
延期。
極秘事項。
ここから導き出される結論はただ一つ。
「国防が危うい」ということだ。
これが介入すべき事案かどうかは、「なぜ国防が危ういか」によって変わってくる。
単純に敵国が攻め込んできているというだけなら、介入するに値しない。
人間同士の争いにオーバーテクノロジーで首を突っ込んだところで、不毛でしかないからだ。
家族とか、身近な人間さえ脅かされなければ、別にこの国なんてどうなったっていい。
だが……戦線の状況悪化が人間同士の争いの域を超えたものだとしたら、傍観しているわけにはいかないかもしれない。
例えば、敵国がこちらに攻め込む為に魔物を大量発生させたはいいものの、その敵国までもが魔物を制御できない事態になっているとしたら。
この場合は、後始末に力を貸さなければ、人類全体にとっての損失が起きてしまう。
最悪、この時代の文明レベルを考慮すれば……人類滅亡に近い状況になってもおかしくはないだろう。
自然災害は、ワートと違って強者だけ狙い撃ちで済ましてはくれないしな。
何にせよ、まずは、問題が発生している戦線についての詳細な情報を手に入れる必要がある。
そのためには、軍の拠点に忍び込み、会議を盗聴するなりしなければならないだろう。
となると……最初にやるべきことは、そもそも軍の基地がどこにあるかを把握することか。
冒険者ギルドに行って、地図でも見せてもらうとしよう。
☆ ☆ ☆
「いらっしゃいませ。……って、テーラス樹様じゃないですか? 本日は、どういったご用件で?」
ギルドに入ると……今日受付に立っていたのは、俺のSランク昇格の手続きをしてくれた人だった。
「すみません、この辺一帯の地図って、見せていただくことはできますか?」
「地図、ですね……。分かりました。少々お待ちください」
そう言って受付嬢は、首に提げてある鍵で引き出しを開け、1枚の紙を取り出した。
「こちらをどうぞ」
俺は受付嬢からその紙を受け取り、ざっと目を通した。
地図には、かなり詳細な情報が載っていた。
森や山、平地などは細かく色分けがしてあり、国境もちゃんと示されていて、戦地も検問所も一目で分かるようになっていたのだ。
わざわざ鍵付きの引き出しから出していたんだ。
おそらく、Sランクとか、何か一定の条件を満たした人しか見ることのできない貴重な書類なのだろう。
おかげで、欲しい情報が一発で全て手に入るというものである。
いくつかある戦線を、どの順番で巡ると最短時間で回れそうか目星をつけた俺は、「ありがとうございます」とだけ言って、地図を返してギルドを出た。
もしかしたら、「今どの戦場が状況が悪そうですか?」とか聞けば、ギルド経由で「極秘事項」を聞き出すことはできたかもしれない。
だが、それはあまり得策ではないだろう。
「国からの依頼に応じる際は、軍が所有するいかなる武器でも無条件に借りることができる」とかいう福利厚生が存在するくらいだ。
情報と引き換えに軍に協力しろ、なんて話に持っていかれる恐れは、無くはない。
まあ断ればいい話ではあるだろうが……不審に思われそうな行動は控えたいしな。
ここからは、自力で情報を集めていく方がいい。
「ゴドウィン、あの方向に飛ぶぞ」
俺は最初の戦線の方角を指差しつつ、結界グライダーを展開した。
☆ ☆ ☆
基地の数km手前で俺たちは着地し、そこからは歩くことにした。
あまり飛行状態で近づきすぎると、軍の人間に気づかれる恐れがあるからだ。
飛ぶという行為は目立つからな。
目立たないようにする技術である視線誘導を以ってしても、こればっかりはどうしようもない。
「そういえばテーラス、さっきは一体何を作っておったのだ?」
歩きがてら、ゴドウィンが質問してきた。
「盗聴用の魔道具だ」
「盗聴用の魔道具? そんなもの、軍は対策をとっておろう」
「……お前はこの時代で、一度でもフーリエ変換型の盗聴器を見たことがあるか?」
「……あ」
そう。
今回情報収集に用いるのは、盗聴用の魔道具──それも、この時代では使われていない仕組みの盗聴器だ。
ここまでテーラス樹として生きてきた中で、フーリエ変換を用いた音声の魔力信号への変換方法が知られていないことは確認済みだ。
それが知られていないとなると、この時代での盗聴対策は「音声を魔法でアナログに記録する機構を探知する」という方法に限られるはずだ。
つまり、デジタルに音声を記録する方法を使えば、盗聴対策に引っかかりようがない。
もはや、対策されてないも同然だ。
量産もしたことだし……会議室っぽい部屋に片っ端からこの魔道具を仕掛け、「極秘事項」に関する会議を聞き出していくとしよう。
【次回のあらずじ】
「謎の敵」の正体が明らかになります!




