第51話 二番弟子、異変を目の当たりにする
色々あって、更新が遅れました。すみません……
気を回復させる方法は、大きく分けて2つある。
それは、「気の自然回復力を強化する方法」と、「自然回復力に頼らない気の回復方法」だ。
前者は「比較的時間がかかる代わりに単純な機構で大きな効果が見込める」のに対し、後者は「やり方が複雑で効果もそこそこだが、工夫次第で急速回復を可能とする」という特徴がある。
これらは、両者に存在する数々のメリットデメリットの中でも、最も大きな部分を占めるものだ。
では、宿屋で採用すべきはどちらか。
言うまでもなく、前者である。
宿はゆっくりと休むための場である以上、ふんだんにある時間を活かした回復方法をとるべきだからだ。
逆に、戦場など即時的な回復が求められる場所では、後者が重宝されることとなる。
だが……この時代では、残念ながらこの基準で気の回復方法を使い分けることは為されない。
なぜなら、前者は魔力と気の相互作用を応用した方法が主流となるのに対し、後者ではそれを必要としない方法が多数あるからだ。
この宿でも、その理由から、宿という場所に置くには非効率な「自然回復力に頼らない回復装置」が採用されてしまっている。
だから……俺はこれから魔力と気の相互作用を応用した気の回復装置を作り、寄贈しようと思う。
実は、その装置の原理は至って単純だ。
というのも、気の自然回復量は、気の場の整い具合と正の相関があるのだ。
つまりこれは、「魔力の流れを使って気の場を整えてやれば、その空間にいる人の自然回復力を高めることができる」ということを意味する。
要は……気の回復用の魔道具なんて、魔石と螺旋状に巻いたミスリル導線さえあれば、ほぼ完成とすら言えてしまうのである。
というわけで、早速作っていこうと思う。
人体の気の流れは、どこをとっても均一な速度ではあるが……それは決して、「気がスムーズに流れている」ということを意味するものではない。
身体のさまざまな箇所にある気流の「淀み」が、律速段階と化してしまっているのに過ぎないのだ。
だから、まずはその「淀み」における気の流れを、集中的に加速させられるよう、螺旋状の魔力の回路を寝具内部に取り付けていく。
これだけでも、この寝具で寝ている人の気の流れは、圧倒的に良くすることができる。
ちなみに、寝具の使用者の寝相は、実はあまり考慮しなくていい。
なぜなら、人間の寝相というものは、寝る人が最も快適だと思う姿勢に帰着するものだからだ。
寝具に気の回復装置がある場合、人はその装置の配置に最適化された姿勢を「最も心地よい」と感じるようになる。
だから、ある程度一般的に無理のない姿勢を想定して作れば、あとは使用者側がそれに合わせてくれるのだ。
あとは仕上げに、寝具全体の気の場を全体的に整える大型回路を設置し、仕上げとする。
これで──この宿にあった旧来の魔道具より、何倍かの回復力が見込めるようになっただろう。
収納術からこれまでに溜まっていた魔石をいくつか取り出して装置の動力源とし、寝っ転がってみる。
「おお……気持ちいいな……」
数分と経たず、俺は眠りについてしまった。
☆ ☆ ☆
次の日の朝。
シェルポ亭直属の飲食店で朝食を食べていると……ドタドタという音を立てて、亭主が走ってきた。
「テーラス様……あの寝具は、一体……?」
ああ……そういえば、この宿では、宿泊者が食事をとっている間に、部屋の掃除等をしてくれるってことになってたな。
退室手続きの際にでも言おうかと思っていたが……先に気づかれてしまったか。
「あれは……寝具に備え付けてあった気を回復させる魔道具が非効率的だったので、より効率の良いものに作り変えたんですよ」
そう返事をすると……亭主は目を丸くした。
「あ、あれは……この王国全体から集めた魔道具職人に作らせた、最高級の回復魔道具だったんだぞ? それを……たったの一晩で、何倍もの効果を持つものに作り変えたというのか?」
「……ちょっとコツに気づけば、すぐ作れるものですよ」
「コツに気づけば、って……そんな簡単にいくはずがないんだが……」
亭主が尚ごにょごにょと呟いている中、俺は2品目のおかずに手を出した。
そして、食べ続けていると……こんな提案をされてしまった。
「分かった……。今回は、代金は貰わないことにしよう」
……は?
ここって、最高級宿だよな?
しかも、俺が泊まったのはその中でも特別な部屋。
料金設定だって、決して低くはないはずなのだが……それを、無料にするだと?
「……いえ、流石にそういうわけにはいきませんよ」
俺は、その話は断る事にした。
その話は結局、朝食時には決着がつかず、最終的には退室手続きにまでもつれ込んだのだが……最後は、俺が正規の代金を払う事で話がついた。
借りができてしまっているより、多少でも貸しがある方に傾けておきたいところだったからな。
そこは、処世術を予断なく発揮させてもらったってわけだ。
☆ ☆ ☆
リハーサルのためにやってきた、兵!兵!兵!の会場に着くと……俺は1つ、異変に気付いた。
あまりにも、人気が無さすぎるのである。
兵!兵!兵!開催時期の前後は、その周辺も混むと聞いていたが……この場所へ来る途中、俺は1つとして人だかりを見ることはなかった。
まだただのリハーサル時期なので、客が入っていないのは理解できる。
だが……それにしても、これがかなりに規模の祭りである以上、リハーサルにきた出演者だけでも結構な人だかりになると予想していたのだ。
それが、その様子すら一切無かった。
不思議に思いつつも、俺は自分の控え室を探し、会場内を歩いていった。
……その時。
俺は、あり得ない光景を目にした。
会場準備のスタッフと思われる人が……どういうわけか、宣伝用のポスターを剥がして回っていたのである。
【次回のあらすじ】
テーラス樹、めんどくさいことに巻き込まれそうになるのを華麗に回避します。お楽しみに!




