第49話 二番弟子、「目立つ」の意味を知る
「え……今討伐とおっしゃいましたか?」
「はい。死体回収ではなく」
「そ、そんな。た、たったの2人でですか?」
受付嬢は困惑したような表情で、俺とゴドウィンを交互に見つめた。
「とても信じ難い話のように思えますが……とりあえず、お二人のギルド会員証をお見せください」
受付嬢がこちらに手を差し出した。
困ったな……。ゴドウィンはフェンリルだ。
そもそも冒険者登録をしていないので、ギルド会員証なんて持っていない。
どうしたものかと思ったが、とりあえず俺は自分のギルド会員証だけ手渡し、こう素直に言ってみた。
「あの、冒険者登録をしているのは僕だけなんですが」
「……え?」
受付嬢は、キョトンとした表情のまま動かなくなった。
……あー、こうなるんだったら、ゴドウィンには外で待機しておいてもらっとけばよかったか。
まあ、今更仕方がない話だがな。
俺は幻影魔法の術式を一部組み替え、受付嬢にのみゴドウィンがフェンリルだと分かるようにした。
「この通り、こいつはフェンリルで……まあ、俺の仲間であることには違いないんですが。これで、納得していただけますか?」
「……今一体どこからフェンリルが!?」
受付嬢が素っ頓狂な声をあげたので、俺は思わず唇に人差し指を当てた。
「ギルド内が騒ぎにならないよう、幻影魔法で人に見えるようにしていたんです。あんまり大きい声をあげると、それが無意味になってしまうので……」
「す、すいません……」
受付嬢のテンションが下がったところで、俺は聴覚を強化し、冒険者たちの反応に耳を傾ける。
「……今どっかからフェンリルって聞こえたような……」
「そんなんいるわけねえだろ」
「だよな」
……セーフ。
このままでは埒が開かないので、さっさと話を進めてもらおう。
「それで、そちらが俺のギルド会員証です」
「あ、かしこまりました。なるほど……Bランク、ですか。失礼しました、少人数で魔族を討伐したというのがどうしても信じられませんでして……では、こちらに魔族の死体を置いてください」
そう言われたので、俺は収納術から魔族の死体を取り出し、指示された場所に置いた。
「幻影魔法で、死体を見えないようにして持ってきてくださったんですね。そういう人目への配慮ができる冒険者って、素晴らしいと思います」
受付嬢は、嬉しそうな顔をした。
幻影魔法……ああ、そうか。
収納術、魔法と気の双方を扱える人がいない今の時代では、使い手がいないからか。
先程話題に出したこともあって、そこに結びついてしまったんだな。
まあ……そう思われていた方が都合はいいので、勘違いは直さないでおくか。
俺そう思っている間、受付嬢は魔族の死体の検分をしていた。
そして、
「確かに、変死体の回収ではないみたいですね。分かりました……討伐実績を、記録しておきます」
と言い、会員証を機械に通し始めた。
……それにしても、どうやって死体から誰が倒したかを見分けているんだろうか。
気になったので、俺は聞いてみることにした。
「どうして、魔族の変死体の回収ではないと判断できたのですか?」
「変死体には、『目から脳天に向かって貫くような攻撃の痕が残っている』という共通点があるんです。それが、この死体からは見られませんでした」
なるほど。
あのサイボーグ、そんな器用な魔族の殺し方をしていたんだな。
さすが「同族嫌悪」をかけただけあって、サイボーグも効率的な殺し方に必死になってるんだなあ……などと感慨に耽っていると、受付嬢からこう促された。
「失礼ですが……まずそちらのフェンリルさんに受付の奥の個室に入っていただいて、その後職員の方から指示があったタイミングでテーラス様もその個室に来ていただけないでしょうか?」
どういうことだ、と一瞬考えたが、理由はすぐに分かった。
俺は幻影魔法を外して、ゴドウィンがフェンリルだということを受付嬢に見せたが……ギルド側からすれば、逆に俺が幻影魔法で冒険者をフェンリルに見せてる可能性も拭えないだろうからな。
一度、職員以外に見られないところで、完全に幻影魔法を切って欲しいんだろう。
「分かりました」
こうして、俺たちは別室に案内されることになった。
◇
程なくして、ゴドウィンの正体が本当にフェンリルであるということが認められた。
その後、俺たちは10分ほど個室で待たされたのだが……ようやく、先程対応してくれた受付嬢が、部屋に戻ってきた。
その手には、1枚の見慣れないカードが握られていた。
受付嬢の第一声は、こうだった。
「おめでとうございます、テーラス様。ただ今、あなたはSランク冒険者に昇格なさいました」
……ん?
Sランク昇格って言ったか、この人?
ちょっと待て。俺はついさっきまで、Bランクだったはずだ。
それがなぜ……Aを飛ばしてS?
「……魔族の討伐って、Aランクをすっ飛ばすほどの功績なんですか?」
そう聞いてみると……受付嬢が、真相を話してくれた。
「いいえ。魔族の討伐は確かに大きな功績ですが、2階級特進に値するほどではありません。しかし…… ペリアレイ魔法学園理事長のジャミー氏より、このような通達が国内の全冒険者ギルドになされていたのです。『覆面更生員によるエイリアン討伐の功を、秘密裏にテーラス樹の功績として計上せよ』と」
……なるほど、そっちだったか。
確かに、なんだかんだで、俺はクトゥグア討伐以来冒険者ギルドを訪れなかったな。
そのせいで、ギルド側が俺のランクを上げられないでいたんだろう。
受付嬢から、真新しいギルド会員証を受け取りつつ……俺は、マリカが昔言っていたことを思い出した。
『もうちょっと、目立つことやってみたらいいんじゃない?』
彼女は、確かそう言っていた。
あれ……イケメンアピールをしろとかいうことじゃなく、この時代の常識から外れた実績を出せって意味だったんだな。
思った以上にギルドで書くことがあったので、前話の後書き通りの内容にはできませんでした。
ちょっとしたエピソードを挟みますが、大きな路線変更はありません。
【次回のあらすじ】
Sランクの会員証には、ある機能があるようです。




