第46話 二番弟子、圧勝する
魔族をサイボーグ化させたのちは特に何事も起きず、2か月ほどの日々が平和に流れていった。
時々「あちこちで魔族の変死体が見つかっている」という噂を聞くので、順調に討伐を重ねてくれているのだろう。
変死体ってことは、誰が討伐したかは世間では知られていないってことなんだろうが……まああの魔族は冒険者でもなければ、金のために魔族を討伐しているわけでもないからな。
死体を放置している点を含め、なんら不自然な点は無いと言える。
その間、俺がしたことと言えば「妖艶なるもの」を原料とする化粧品を完成させたことくらいだったが……ついに、それを使う時がやってきたな。
そう、美少年コンテストが、今日これから行われるのだ。
収納術から化粧品を取り出し……覚悟を決めて、顔に塗った。
覚悟を決める必要があったのは、この化粧品は骨格レベルで顔を整える効果があるので、塗った際に激痛が走るらしいからだ。
外見を何よりも大事にしていた前世時代の芸能人でさえ、本当に重要な局面でしかこの化粧品を使っていなかったって逸話もある以上……想像を絶する痛みが走るのだろう。
……そう思っていたのだが。
「痛……く、ない?」
逆に全くの無痛だったことに、俺は少し拍子抜けした。
激痛が走るってのは、都市伝説だったのか?
一瞬そう思ったが、直後、俺の頭の中にもっと有力な仮説が浮かび上がった。
おそらく、俺の顔面の骨格は、「妖艶なるもの」産の化粧品を以ってしても修正のしようが無いほどに完璧なのだ。
だから骨格の矯正が一切起こらず、それに伴う痛みも発生しなかったのだろう。
……よくよく考えたら当然か。
俺は改竄転生の際、理論上最も整ったイケメンに転生できるよう、調整を重ねた。
それでいて、「妖艶なるもの」の化粧品による修正の余地が、残されているはずもないのだ。
無駄な覚悟だったな、と思いつつ、俺はホッと息をついた。
俺が「妖艶なるもの」からとれる化粧品を使うのは完全に無駄だったのか、といえば、そういうわけでもない。
確かに骨格の矯正は行われないが、それでももう一つの効果「肌が他のどんな化粧品を使うより数段綺麗に見える」というものは健在だからな。
試しに鏡を見てみると……うん。普段との差は歴然だ。
肌荒れをほぼ起こさない俺でも、質感が大きく修正されてるのは一目瞭然だった。
じゃあ、会場に向かうとするか。
☆ ☆ ☆
「うお……こんなワイルドなテーラス君、初めて見た」
「ほんと何でも似合うんだね……」
「男受けも考えた服装にするって、こういうことだったんだね!」
学園内のコンテスト会場付近まで来ると、何人かのチアリーダー部の上級生に遭遇した。
そして……普段の見た目と違う俺に、彼女らは口々に感想を言った。
ちなみに、そんな感想を貰う今の俺はといえば、髪型がショートのアップバングで服装は黒い革ジャンという組み合わせになっている。
こうしたのは、男子からも「カッコいい!」と憧れられるようにする為だ。
基本的には女子からの人気がモノを言う美少年コンテストではあるが、このコンテストは男子も投票権を持っている。
過去には女子に媚びを売りすぎたせいで、顔面偏差値はぶっちぎりなのに2位止まりとなった出場者がいるくらいには、男子からの票もモノを言うのだ。
ましてや、「二位との票数の差は歴然!」って状態にするには、男子からの票を軽視してはいけないのは明白だろう。
そして俺は、チアリーダー部員を通して、女子票を得る為の根回しは済ませてある。
つまり、多少は同性受けに走りすぎても問題無いのである。
それでも、流石にカッコつけ過ぎと思われる懸念が無かった訳ではないが……この子たちの反応を見る限り、杞憂だったと言えるだろう。
そう考えつつ、俺はその場を後にして控え室に行き、ゴドウィンと合流した。
ネタバレ回避のため、控え室までは別行動にしていたのだ。
しばらくすると入場の合図が鳴り、俺含め6人の出場者がステージ上に立った。
校長の挨拶他諸々の後パフォーマンスタイムになり、決められた順番通りに出場者たちがパフォーマンスを決めていく。
そして、俺の番が来た。
俺と、パフォーマンス時のサポーターとして出場するゴドウィンが、一歩前に出る。すると……
「え……マジ? あれってフェンリルだよな……」
「美少年コンテストで伝説の生物とか、どんだけだよ……」
「ここまで規格外なのって、史上初じゃね?」
観客たちも、いい感じに湧いてきているみたいだな。
全てが順調なのを確認できたところで……俺はゴドウィンに合図して、この日のために準備した新曲を披露し始めた。
☆ ☆ ☆
翌日学校に行くと、美少年コンテストの得票数の掲示が貼り出されていて、そこには結構な人だかりができていた。
いたるところから歌声が聞こえるんだが……これ、俺が昨日披露した新曲のサビだよな。
覚えやすいメロディーにしたのが、功を奏したみたいだな。人気があって何よりだ。
おそらく人だかりに気づかれると面倒なことになるので、視線誘導を使いながらそこに近づく。
そして得票数を確認すると……
【テーラス樹 得票数:679 得票率:97%】
……文句無しの結果だった。
これで、俺は兵!兵!兵!に、確実に芸能枠で出られるな。
その事実に、俺は胸を躍らせた。
★ ★ ★ ★ ★
ペリアレイ魔法学園で美少年コンテストが行われていたのと、ほぼ同時期。
兵!兵!兵!の会場となる街の近くに位置する、戦場と化している国境の一部で異変が起きていた。
「隊長! アイツ……武器も魔法も、一切通用しません!」
「一体どうなってやがんだ……投石機の攻撃が命中しても、石が砂になるだけじゃないか!」
戦地の真ん中を悠然と歩くその男を、敵対しているはずの両陣営がこぞって攻撃する。
しかし、そんな滑稽な状況は、長続きはしなかった。
男は、一言呟く。
「混沌を……執行する」
直後。
両陣営の8割の兵士たちが、一瞬にして木っ端微塵となった。
【次回のあらすじ】
次回から、兵!兵!兵!開催時期の話に入ります。
終盤に出てきた「謎の男」にも迫っていきますので、お楽しみに!




