第39話 二番弟子、原子の安定化を図る
連休明け初日の放課後、俺はゴドウィンとともに例の空き地へとやってきた。
「おい、テーラス。なんでクトゥグア対策に、迷宮に潜りに来るんだ」
「だって、無いんなら作るしかないだろ? オーラレールガンを」
「……大丈夫なのか? 作っている間に襲撃されでもしたら終わりだぞ」
「その心配は無い。あいつは、まだまだ宇宙の遥か彼方にいる。この星にやってくるまで少なくとも2か月はかかるぞ」
「まあ、それはそうだが……」
「あと、間に合う間に合わないじゃなくて、間に合わせるしかないだろ。師範やウェルマクスさんみたいな超人がいない今となっては、この方法で倒すしかないんだからな」
「あいつらなんでホントに生身でエイリアンに勝てたんだろうな」
そんな会話をしながら、俺たちは迷宮の奥深くまで潜っていく。
……そう。
今俺たちがやろうとしているのは、オーラレールガンを作成するための材料集め。
エイリアンであるクトゥグアが飛来すると分かった以上、作らざるを得なくなったのだ。
エイリアンとはいえ、クトゥグアは異形級ではない。
つまり、適切な対策を立てさえすれば、今の俺たちでも難なく倒すことはできる。
安全に格上の敵を討伐し、一気に最大魔力量を増やせる機会だと思えば、一周回ってありがたいとさえ言えるかもしれないな。
それでも、オーラレールガンの制作が面倒なことに変わりはないが……それもゴドウィンの協力のお陰で、割と楽できそうだ。
「ふんっ!」
俺たちの周りには何匹かの魔物が集まっていたが、ゴドウィンが巻き起こした風の一撃で全てが木っ端微塵になった。
「……何やってんだ?」
「道を塞ぐ邪魔者どもを蹴散らしたに決まっているだろう。というか、テーラスもちょっとは手伝わんか」
「……魔物ね……」
正直、金属集めが目的で来ている今の俺たちにとっては、迷宮内の魔物たちは邪魔でしかない。
仕方がない。あれをやるか。
「……テーラス? 何をやっている?」
いつもお世話になっているレッサークトゥルフの階層から更に7階層ほど降りたところで、今度は俺たちはレインボーグリズリー5匹に囲まれた。
すかさずゴドウィンが殲滅体制に入ろうとするが、俺はそれを制止する。
「ゴドウィン、ちょっと情報を借りるよ」
俺は転生魔法の初期段階である「転記」の魔法を用い、ゴドウィンの魂の波長を俺自身の魔法に移しとった。
そして……転記したゴドウィンの波長をこっそりと作り貯めておいた倍率魔法にかけて増幅し、迷宮の広範囲に魔法の効果を広めた。
すると、レインボーグリズリーたちは怯えたような鳴き声を発し、一目散に俺たちの前から去っていく。
当たり前だ。迷宮の浅い階層の魔物からすれば、フェンリルは相当格上の存在。
ちょっと威嚇してやれば、魔物たちは本能的に恐怖を感じて逃げていってしまうのだ。
「おい……」
こちらを見るゴドウィンの表情は、「そんなのありかよ」と書いてあるかのようだった。
「もっとちゃんと、自分を活かしてこうな。普段、気配を消して獲物を狙ってる身としてはあり得ない戦法に思えるだろうがな」
「どうやったら、そんな発想になるんだか……」
まあ、ゴドウィンがこの発想に思い至らないのも無理はない。
格下の相手を威嚇するなど、食料が減るだけで損しかないからな。
だが、無駄に体力を消耗するのも馬鹿馬鹿しい。
使えるては全て使って、楽をしていこう。
☆ ☆ ☆
こうして俺たちは、レッサークトゥルフのところから数えて18階層降りたところまでやってきた。
ちなみにあの威嚇以降、魔物との遭遇率は0だ。
「あったぞ」
俺は地面に落ちている、若干光り輝いている石を拾いあげてそう言った。
「いや、あったぞって言われてもな。オーラレールガンの材料に、そんな得体のしれない石ころが必要とは聞いたことないが?」
ゴドウィンは、そう訝しむ。
俺が拾ったのは、前世では「不安定結晶X」と呼ばれていたものだ。
確かに、これはこのままでは何の役にも立たない代物だ。
脆いだけで大して硬いわけでもなく、魔力も殆ど通さない。
一見して、ただのゴミである。
だが、これにはある重要な性質が隠されている。
「いくぞ」
そう言って、俺は不安定結晶Xに一点に集約した気功波をぶち当てた。
すると──不安定結晶Xはみるみるうちに、金色に輝く金属へと変貌したのだ。
「……どうだ?」
「……む! これは……!」
口をあんぐりと開けたまま、まじまじと不安定結晶Xだったものを見つめるゴドウィン。
そう。
これ、実は結晶の一点に強力な刺激を与えてやると、その一点から連鎖反応を起こして結晶全体が純粋なオリハルコンに変わるのだ。
前世でこの事実が発見された時は、たちまちのうちにオリハルコン製品が出回ったものである。
もっとも、後にこの製法でできたオリハルコンの寿命がたった20年と判明した時は、それはそれは悲惨な経済状況となったわけだが。
まあ、近いうちに単発で稼働すればいいだけのものに使用するなら、その点は関係ない。
もっともっと、不安定結晶Xを集めて材料を揃えていこう。
……そう思った時だった。
迷宮内が、ドスンドスンという音とともに揺れ始めたのだ。
……こいつはもしや──
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【次回のあらすじ】
テーラス、とある事情で不安定結晶Xを大量入手します。




