第3話 二番弟子、魔物を狩る
転生前の記憶が戻った日、俺は「大賢者グレフミンの伝記」なるものを読み、その内容に計り知れない違和感を覚えた。
そして、今の時代について、師範関係を取っ掛かりにいろいろ調べていこうと決意した。
だが、それから2か月がたった今。俺はまだ大した情報を手に入れられないでいた。
というのも、父・ロムニク樹に「大賢者グレフミンは本当に死んだのか」と聞いたら「大賢者グレフミン? そんなのはおとぎ話の存在だろ?」などと返されてしまったのだ。
よくよく聞いたら、俺が読んだ「大賢者グレフミンの伝記」はタイトルに伝記とあるものの、架空の物語なのだそうだ。
なあんだ。それなら安心だな。大賢者の死は架空の話なのか。
俺はそう思っ……た、訳がない。
もしそうなら、父は大賢者グレフミンそのものを架空の存在だとは言わないはずだ。
俄かには信じ難い話だが、我が師範はとうの昔にお亡くなりになり、更には何らかの事情で歴史上からも消されてしまった。
そう結論付けるしかなさそうなのだ。
そして、そうなると大賢者グレフミン関係を取っ掛かりにこの世界に起きた異変を調べるのは不可能だ。
俺にできることは、世界中を旅して地道に今の世界を知っていくことしかなくなったのだ。
だから、とりあえずは毎日魔法と気の鍛錬に明け暮れようと決意した。
明日には、俺に魔法を教えるための家庭教師が来るという。
その人からも色々な情報を聞けるかもと思うと、少し楽しみだな。
さて、今日何をするかだが、俺はそろそろ魔物を狩りに行ってみてもいいんじゃないかと思っている。
この2か月間、他にすることも無いので暇つぶしにかなりの鍛錬を積んできた。
おかげで、交流魔流訓練では1秒あたり20回の切り替えが可能となり、1発の魔法で最大魔力量の8%は消費できるようになった。
魔圧もそれなりに強まり、かなり稚拙ながらも「気」を扱うこともできるようになった。
「気」を扱えるようになってからは、「気」の場を整える修行である瞑想も鍛錬メニューに加えるようにした。
流石は大賢者直伝の鍛錬方法というだけはある。
普通に考えれば鍛え始めて2か月の子どもが魔物と戦うなど言語道断であるが、今の俺は弱い個体くらいなら倒せる実力を身に着けてしまったのだ。
実戦に出ることで、今まではできなかった最大魔力量の増加が可能となる。
訓練の成果も加速度的に出るようになるだろう。これからが楽しみだ。
俺は屋敷を出て、隣接している平原に来た。
この平原には、通常はホーンラビットという最弱の魔物しか出ない。
初級者に最適な狩場ってなわけだ。
俺はまず、戦いの前準備として「身体強化」を発動した。
身体強化というのは、魔力と気の併用で身体能力を向上させる基礎的な技だ。
右手の中指と人差し指と親指を互いに直角の関係にし、中指を魔力の流れる方向、人差し指を気の場の方向とすると、親指の向きに力がかかる。
このことは我が師範が発見し、後に「グレフミンの右手の法則」と呼ばれるようになった。
そして、その応用として師範が開発した技術こそがこの「身体強化」なのだ。
遠くに見えていた、白くて小さな魔物に向かって全速力で駆ける。
そして――
「気功風刃」
気功波に風属性魔法の風刃を上乗せした複合技、気功風刃でその首を刎ねた。
魔力と気は出力元が別なので、基本的には単体で使うより複合技の方が威力が上がる。
本来これは気功波を風魔法でアシストする技なのだが……気の扱いが稚拙なせいで、風魔法を気でアシストしたみたいになってしまったな。
まあ、思った通りホーンラビットを狩る程度は問題なくできたわけだが。
戦闘が終わると、俺は最大魔力量と気の量が少し拡張されたのを感じた。
これだ、これを味わいたくて俺はここに来たんだ。
前世では、そこそこ強い魔物を倒しても無視できるくらいしか魔力や気が増えないところまで来ていたからな。この感覚は実に懐かしい。
俺はホーンラビットを解体し、魔石を取り出した。
魔石は今後使い道があるからな、どんどん回収していこう。
ちなみに肉は見た目に反してびっくりするくらい味が無いので、回収する必要性はほとんどない。
今回はちょっと使い道があるので、1匹分だけは持ち歩くがな。
狩ったばかりのホーンラビットを引っ提げ、更に平原を歩いていく。
実戦では体外に魔力や気を放出するので攻撃回数には限界があるとはいえ、今の魔流の練度ではそうそう限界を味わうことは無いはずだ。
早く、次の獲物を見つけたいものだ。
【次回のあらすじ】
テーラス樹、今の実力では強敵となるはずの相手を「とあるズルい作戦」であっさりと乱獲します!