第35話 二番弟子、「妖艶なるもの」を倒す
「いいか。接近戦が始まったら、とにかく『妖艶なるもの』を実体化させ続けてくれ。例え、俺の居場所がわからなくなってもな」
「うん」
視線誘導は、「妖艶なるもの」が生み出した強化版ケ・アナケアにも有効だ。
よって、視線誘導を使っていれば、ケ・アナケアに邪魔されず「妖艶なるもの」だけを集中的に攻撃できる。
だが視線誘導発動中の俺の居場所が分からなくなるのは、マイアも同じこと。
だから、マイアに先ほどの指示を出したのだ。
「強化版ケ・アナケアの討伐は、最低限の自衛をする程度でいいからな」
「分かった」
当然のようにそう返事をするマイアだが、強化版ケ・アナケアは1匹でレッサークトゥルフ2匹分に匹敵する程度の強さがある。
この時代の人間でメニイコール中の「妖艶なるもの」に近づけるのは、マイアを置いて他にはいまい。
確かにサポート役は「ピアヴェルピアと叫ぶだけの、簡単な仕事」ではあるのだが……そのサポート役を守りながら戦う必要が無いというだけでも、かなり楽になるな。
いよいよ、「妖艶なるもの」まであと数歩というところで、強化版ケ・アナケア達がこちらに気づいた。
彼らの視線から、取るべき行動ルートは……
「こっちだな」
即座に判断して、進路を変える。
すると強化版ケ・アナケア達は標的を見失ったからか、戸惑ったような動きを見せ始めた。
「ピアヴェルピア!」
マイアの掛け声と共に、半透明だった「妖艶なるもの」はほぼ不透明になった。
実体化している証拠だ。
そこに、タイミングを見はからいながら気功風刃を放つ。
できれば気炎撃の方が与えられるダメージはでかいのだが……それはあくまで視線誘導を継続させつつ、気功剣のリーチまで近づける時限定にしなければならないからな。
「妖艶なるもの」本体は流石に直接攻撃を受けている分俺の位置を把握できているが、本体そのものが有効な反撃手段を持っていないので攻撃し放題だ。
これほどまでに視線誘導が効果的な戦闘は、これが唯一のケースだろうな。
「そろそろ、気功風刃の軌道を調整するか」
「妖艶なるもの」にダメージが蓄積されていくと、徐々にメニイコールの頻度が高くなってくる。
そうなると、攻撃の際にケ・アナケアが邪魔になる場合が増えてくる。
だから、気功風刃の風魔法部分を斬撃力強化に使うだけでなく、空気抵抗で軌道を変化させるのにも使うといった工夫が重要になってくるのだ。
この軌道調整はなかなかに難しい技ではあるのだが、俺には前世の経験があるので問題なく行える。
「妖艶なるもの」はと言えば、メニイコールで大して戦況が変わらないからか、随分と苛立っているように見える。
いい調子だ。
そして、更に10分が経過した頃。
「ピアヴェルピア! ……ピア……あっ」
「そろそろ離れるぞ」
メニイコールによる強化版ケ・アナケア召喚速度が8体/秒を越えだしたあたりで俺は戦闘を離脱し、マイアに声をかけた。
理由は1つ。
今、「妖艶なるもの」は激昂し、自分の体力の限界を全く考慮せずに強化版ケ・アナケアを召喚している。
つまり、「妖艶なるもの」はわざわざこれ以上俺が攻撃しなくても、勝手に力尽きてくれるのだ。
である以上は、一旦距離を取って様子を見るのが得策というものである。
マイアを引き離してしまわない程度に身体強化を使い、素早く離脱。
視線誘導を保てなくなってしまい強化版ケ・アナケアが付いてくるが、逃げるスピードの方が上なので問題ない。
そうしていると……ある程度逃げた段階で、突如強化版ケ・アナケアが動きを止めた。
「力尽きたみたいだな」
「そうね」
強化版ケ・アナケアは通常のケ・アナケアと違い、召喚主である「妖艶なるもの」が消えると機能停止に陥る。
そして、ちょっとでもダメージを負っている強化版ケ・アナケアは、その数秒後に消えてしまう。
残るのは、無傷の強化版ケ・アナケア。
そいつらが、俺の求めている化粧品の原料となるのだ。
強化版ケ・アナケアは見た目こそ通常のケ・アナケアと変わらないが、特殊美容効果のある化粧品の原料となり得るのは「妖艶なるもの」に召喚された個体だけだ。
それが、「妖艶なるもの」由来の化粧品と言われる所以である。
ちなみに当の「妖艶なるもの」は、メニイコールのし過ぎで過労消滅している。
あれそのものが原料となる訳では無いので、気にすることでは無いが。
「じゃあ、集めるか」
「うん」
そう言って、俺たちは強化版ケ・アナケアの機能停止体の回収に入ることにした。
☆ ☆ ☆
約一時間後。
「ふう……これで全部かな」
「まあ、殆ど回収できはしたんじゃないのか? これ以上探しても時間ばかり経ってしまいそうだし、ここら辺で回収は終わりにしよう」
そう言って俺はマイアが回収してくれた強化版ケ・アナケアを受け取り、収納術でしまい込んだ。
「じゃあ、帰るか」
「そうだね……ねえテーラス、まだ授業再開まで日にちってある?」
「……どうした、急に?」
「せっかくだからさ……今の私の教え子に、会って行ったらどうかなって思って」
「なるほど。それいいね」
マイアの提案には俺も乗り気だが、俺は野宿した場所に馬を繋ぎとめたまま来てしまっている。
とりあえずはそこを回収しに行かなければならないので、結局俺たちはまず馬を回収し、それからマイアの教え子の元へと向かうことにした。
……と、その時だった。
「おい」
ふいに、空から低く響く声がした。
見上げると……そこにいたのは、威風堂々たる風貌の、白銀の狼だった。
【次回のあらすじ】
を書きたいところですが、白銀の狼の正体をここで話してしまうのもなんかアレなんで次回にご期待を!




