第33話 二番弟子、「妖艶なるもの」の居場所に辿り着く
そろそろバレンタインデーかなーって思ったんですが、よく考えたら今5月でした。
「ねえ、テーラス」
「なんだ?」
「リミッター解除……しといた方がいい?」
「いや、いらないな」
「え……そう?」
「俺は単独で『妖艶なるもの』と戦うとすれば、リミッター解除を使うつもりだった。だが、2人ならそれは必要無い。俺も、マイアも、リミッター解除無しで大丈夫だ」
「でも……私まだ、戦力として十分かどうか不安で……」
「安心してくれ。『妖艶なるもの』と戦う際のサポートは、有ると相当な助けになるがやる事の難易度は低い。だから、足を引っ張る心配はしなくて大丈夫だ」
「まあ、テーラスがそう言うならそう思っとくね」
「あと、だ。そもそも、マイアは1人でリミッター解除できるようになってから1か月くらいしか経ってないだろ? そんなんじゃ、魔流倍増のメリットより痛みによる動きの鈍りのデメリットの方が大きいぞ」
「あ……」
「そんなことより、だ」
適当に気炎撃で近くのケ・アナケアを倒しながら、俺は話題を変えた。
「新しい生徒はどんな人なんだ? また転生者だったりしてな」
「流石にそれは無かったよ? ってか、それだったらまた私何も教えられないじゃん」
「ハハハ、流石に冗談だ」
そもそも転生術なんて、改竄無しならほぼゴミ見たいな術だしな。
ワートから逃げるために使用、って言う例ならなくは無いのかもしれないが……少数派だろうな。
戦闘能力を極めた者は、統計的な話、敵わないと思っても逃げずに立ち向かうものが殆どを占めるのだ。
アイツの暴走に恐れを為して転生で逃げ出すような奴ならば、強くなる事がトラウマになるのがオチだろうし。
転生して、もう一回実力を付け直す例なんてまず無いだろうな。
あと根本的な話、転生術を使った時期が同じでも、転生先の時代はまず間違い無くバラバラになる。
不老魔法を使いまくったとして、人生で1回転生者に会えるかどうか、それすら怪しいってとこだな。
「でもね、この時代規準で言うと、結構優秀な子だと思うよ! 魔流の訓練は順調に進んでるし、もう少しすれば気も習得できそうでね」
そう言って、マイアは目を輝かせる。
割と、お気に入りの生徒みたいだな。
「そうか。結構、ストイックな子なのか?」
「うん。って言うか、真面目さだけならテーラス以上だよ、多分」
「それは有難いな」
「……なんで?」
「俺が最強扱いのうちにひと財産築くとしてだ。まあおそらく20年後くらいには、マイアや教え子たちの方が俺より強くなるだろ? その頃を見計らって、俺は引退するんだ。そしたら、美味しいところだけ頂いて世界の治安はこの時代の人々に任せられる。最高の流れだ」
「ゲスいなあ、もう。11歳にして引退を視野に入れるとか、聞いた事ないし。でも、テーラスが転生してくれなかったら、最悪人類滅亡もあり得たんだもんね! それくらいは、恵まれてもいいのかも」
「そう思って頂けるのは嬉しいな」
「あ、でも魔族はどうするの?」
「流石にあの残りカスどもだけは俺が蹴散らす」
「はは……。テーラス、魔族のこととなると口が悪くなるね」
「まあな」
……っと。
話しているうちに、ケ・アナケアとの遭遇頻度が上がってきたな。
ケ・アナケアの密度は、「妖艶なるもの」に近づけば近づくほど上昇する。
この感じだと、あと20分くらいで攻撃可能な場所まで来れるな。
「んじゃ、そろそろ『妖艶なるもの』の具体的な倒し方について説明するぞー」
「あ、それ聞いとかないとね」
「『妖艶なるもの』が実体を持たない魔物だってのは、前に言ったことがあるよな?」
「そうそう。それで、なんか特殊な呪文があったんだよね。ちょっとの間だけ、『妖艶なるもの』を実体化させられる……えーと……何だっけ」
こうして、俺はマイアに「妖艶なるもの」の性質と、今回の倒す手順について話していった。
そして、ちょうど作戦会議が終わった頃。
遠くの方に、ユラユラと動く何者かが見えた。
その動きは明らかに、ケ・アナケアのものではない。
「あ、あそこに今一瞬見えたな」
「……うん」
「行くぞ」
「よし!」
ちなみに言っておきますが、今回の話は転生者と会うフラグではありません。
というか、この話でテーラス以外の転生者が出現する予定はないです(魔族は別として)
【次回のあらすじ】
言うまでもなく、戦闘開始です。
作戦の内容も明らかになります。お楽しみに!




