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第32話 二番弟子、家庭教師と再会する

ツクツクピー、ツクツクピー、ツクツクピー……


……やかましいな……

と言いたいところだが、今日は長い1日になる。寧ろ起こしてくれた虫の鳴き声に感謝するくらいの気持ちで、支度にかからねばな。


「妖艶なるもの」の生態系への影響の1つに、「虫の生活リズムが1時間半ほど早くなる」というものがある。

そんなわけで、今はまだ早朝と言えるかも怪しいくらいの、真っ暗な時間帯だ。


まあそれを見越して、俺は昨日夕方アインナハトの森の手前に着くと早々に野宿の準備をし、早めに就寝したわけだが。


せっかく早起きしたわけだし、今日の目標は「日が暮れるまでに『妖艶なるもの』を討伐して森を抜ける」にしようか。

主がいる森での野宿なんて真っ平だからな。


テントなどを全て収納術にしまうと、俺は森の中へと歩み始めた。


☆ ☆ ☆


「変だなぁ……」


森を進むこと約4時間。

「妖艶なるもの」発生時にのみ出現する動く植物型魔物、ケ・アナケアを気炎撃で斬り伏せながら、俺はそう呟いた。


何がおかしいかと言うと、ケ・アナケアの耐久力が想定より少し高めだったのだ。


最初のケ・アナケアに遭遇した際、俺は一撃で倒せるだろうと思い、軽めに気功風刃を放った。

そして、その一撃は確かにケ・アナケアに深手を負わせはしたのだが……即死はさせられなかったのだ。


まあ、それ自体はさして問題では無い。

弱点の火属性を用いた気炎撃でなら即死させられているし、ケ・アナケア程度に遅れを取る事は無いからな。


だが、ケ・アナケアが普段より強い事には、裏があるはずだ。

例えば、「妖艶なるもの」以外に何か、ケ・アナケアの強化の間接的な要因になっている魔物がいるとか。


そんなのがいるとすれば、そいつは高確率で「妖艶なるもの」より強力だ。工夫をすれば倒せない事は無いだろうが、そいつを討伐していては今日中にに森を抜けるのは不可能だろう。面倒なことこの上ない。

「妖艶なるもの」を倒すまでに、そいつに遭遇せずに済めば良いのだが……そうは上手く行くだろうか。


ちょっと、魔力を放って探知してみるか。

何がいるか見当もつかないしな。


「……おおう、何でだ? よりによって今会うのかよ……」


俺が見つけたのは、ケ・アナケアが強化されている原因の魔物……では無い。

いや正確には、人の気配を感じたので「知り合いだったりして」と思いつきで転生探知に切り替えたところ、それが懐かしい人だと判明してしまったのだ。


確かに、彼女に会えること自体は嬉しい。

それに、もし「妖艶なるもの」相手に共闘するとなれば、彼女は相当な戦力になってくれるだろう。


だが……


「『妖艶なるもの』を女性と一緒に倒しておいて、『俺イケメンなんで一人で使います』とは言えないよなあ」


まあ旧知の仲だし、頼めば呑んではくれそうではあるが……


「『キミは完璧な美人だから、妖艶なるものに頼らずとも綺麗だよ』……いやコレ、今の俺が言ったら嫌味でしか無いな」


よし、決めた。


彼女に会うのは、「妖艶なるもの」討伐後にしよう。


何か忘れているような気もするが、何はともあれ討伐だ。


……ん?

どういうわけか、彼女の方から向かってくるな。


あ。

そう言えば、人がこの森にいるのを全く想定していなかったので、逆探知対策を一切してなかった。

ま、しゃあないな。説得は……どうにかしよう。


☆ ☆ ☆


「……やっぱり! テーラスだったのね」


「ああ、マイア、久しぶり。仕事順調?」


手を振りながら、俺は挨拶を交わした。

説得の作戦は、もう決まっている。

世界平和のために、「妖艶なるもの」を独占せざるを得ないって話にするのだ。


「順調よ! 新しい生徒も見つかって、この森の近くの子だしそろそろ実戦の訓練でもさせようかなって思ってたの。で、下見に来てたんだけど……この森、『妖艶なるもの』に支配されちゃってるよね?」


「そうなんだよな。もっとも、俺の狙いこそがその『妖艶なるもの』なんだけど」


「……分かった。美少年コンテストで優勝したいんでしょ」


「半分正解で、半分不正解。美少年コンテストの優勝も、どちらかと言えば目的というよりは手段だな。俺は兵!兵!兵!の芸能枠を狙ってるんだ」


「またまたー。どうせアウラ気流学院との対抗試合に出場しない理由が欲しいだけなんでしょ?」


「全く、流石は元俺の家庭教師だ。でも、それにはちゃんとした動機もあるんだぞ」


「何?」


「こんな事、自分で言うのも何だけどさ……もし仮にも俺があの祭で実力を示し、軍隊にスカウトされたとしたらだ。無意味に世界情勢を混乱に陥れてしまうのは明らかだろう?」


「……言われてみれば」


「だから、だ。俺は、対抗試合に出たいとか出たくないとかじゃなく、『出てはいけない』んだ」


「……なるほど」


「そこでなんだけどさ」

ここまで話の流れを整えた上で、俺は本題に入ることにした。


「今回の『妖艶なるもの』についてなんだが……マイアは女性だし、できれば化粧品が欲しいって気持ちは分かるつもりだ。けど……今回だけは、素材を全部譲って欲しい。頼む」


「……ああ、何かと思ったらその話?」


「ああ」


「それなら、気にしなくていいよ。昔さ、テーラス話してくれたじゃん。『妖艶なるものから作られる化粧品は使用者の骨格から変えてしまうから、確実に美形になれる代わりに副作用も酷い』って。私、確かに美容には気を使うほうだけど、それ聞いて『妖艶なるもの』とは無縁かなって思ってたんだ」


……あ、そう言えば。

そんな話した記憶あるな。


そうなのだ。

前世の芸能人たちも、元が美形とはいえ多かれ少なかれその副作用には悩まされていたって聞いている。

国によっては「妖艶なるもの」製の化粧品は禁止されてたりもしたしな。


俺はと言えば、改竄転生の際「妖艶なるもの」による副作用を0にすることまで考慮して魂を改竄していたから、完全に副作用のことが頭から抜けていたが。


「本当に良いんだな? リミッター解除を習うくらいだから、『それくらい耐える!』とか言うかと思ったが」


思ってたわけじゃないけどな。ふと思いついたので再確認。


「流石に命を守る技とスキンケアは別物かな」


「マイアがそう言ってくれるなら、助かるよ」


「じゃあ、倒しに行こっか!」


「……下見に来たんじゃ? それに、報酬を山分けにできないのに、いいの?」


「何言ってんの。ここで引き返したら、テーラスといた6年間の恩を仇で返すようなもんじゃない。一緒に戦うよ!」


「そうか、ありがとう」


そう言ってくれるとは。ジーンと来るな。

……じゃあ、気を取り直していっちょやったりますか。

またしても、「広義5月4日」で申し訳ない……


はい、と言うわけで今回は元家庭教師・マイアさんの再登場回でした!

次回は、戦闘準備回になりますかね。


では!

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新作始めました! 「俺の前世の知識で底辺職テイマーが上級職になってしまいそうな件について」という作品です。是非読んでみてください!

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あと僕の別の連載も載せときます。本作と同じく、ストレスフリーに読める主人公最強の異世界転生ものです。
転生彫り師の無双物語 〜最弱紋など、書き換えればいいじゃない〜
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