第31話 二番弟子、前世のゲームを懐かしむ
まだ……広義5月2日……
(次回更新は5月4日です、すいません)
「ここら辺にするか」
日が落ちそうになったところで、俺は宿探しに入る事にした。
まだ学校終わりで数時間しか馬を走らせてはいないが、今日でゾファレン学宮都市の境までは来ることができた。
ゾファレン学宮都市の境を超えると、その先には一面の田んぼが広がっている。
そこはモミー穀物農地と呼ばれていて、その農地のあぜ道を抜けると、アインナハトの森に辿り着くのだ。
距離的には、もう目的地までの半分は過ぎているのだが……急いで夜に移動する理由も無いしな。
今日はしっかり寝て、明日に備えるとしよう。
……
……
……。
……うん、どこにも無いな。
宿。どんなに探しても、まるで見つかる気がしない。
主要な街道からは結構外れた場所だからな。
宿の経営が成り立つほど、外部の人間は来ないのだろう。
かくなる上は、点在している民家の何処かに泊めてもらうしかないな。
こういう事に処世術を活かすのは前世ぶりか。
1番近くの民家に立ち寄り、コンコンとノックする。
しばらくすると、扉が開いた。
「すいま──」
「あ、立ち話もなんなんで、是非中へ」
出てきたのは、20手前くらいの女性だった。
まだ何の目的で来たかも話していないのに、いきなり腕を引っ張っていこうとしてくる。
ってか、目が怖い。
もうなんか、「突如現れた美少年を決して手離しはしない」って感じの気迫が溢れ出ている感じだ。
寝込みを襲ってくる奴くらい難なく返り討ちにできはするが……これはパスだな。
軽めの電撃魔法を放ち、腕を掴む力が弱まったところで振りほどき、視線誘導で女性の視界から逃れた。
俺なら1軒目で確実に交渉成立させられると自負していたのだが……こういうパターンになってしまうとは。
まああのタイプの狂気は処世術でどうこうできるものではないので、気を取り直して
次をあたろう。
☆ ☆ ☆
結局あの後、俺は二軒目の民家に無事泊まることができた。
そこの家族構成は、30代の夫婦と8才の娘だった。
1軒目がアレだったこともあり、既婚者の家ということの安心感は結構デカかった。
おかげでグッスリと眠れ、俺は晴れやかな気分で家族と一緒に朝食を取ることとなった。
「ねえ、お兄ちゃん」
俺が朝食を頬張っていると、8才の娘・ヒロナが話しかけてきた。
「お兄ちゃんは、これからどこ行くの?」
「俺は、これからモミー穀物農地を抜けて、アインナハトの森に行くよ」
「「は?」」
俺が答えると、何故か両親がそう反応した。
「この時期に、モミー穀物農地のあぜ道を抜けるというのか?」
ヒロナの父、ヘリオがそう尋ねた。
「はい。何か問題でもあるのでしょうか?」
「今の時期のモミー穀物農地には、シルバーウルフの群れが出るのよ。あいつらに囲まれたら、一巻の終わりよ?」
ヒロナの母、セーナはそう説明する。
「シルバーウルフの群れ……ですか。僕一応、こう見えて魔族を一撃で倒すくらいはできるのですが、それでも危険ですかね?」
俺がそう言うと……ヘリオは手に持っていたグラスを落とし、飲み物をブチまけてしまった。
「……魔族を、一撃で?」
飲み物の散乱に気づかないまま、ヘリオはそう言った。
「はい。あ、こぼれたの綺麗にしときますね」
「……それは……その……テーラスは、恐ろしく強いんだな。……となるとまあ、私たちが無理やり止める道理は無い……のか?」
俺が浄化魔法を使う中、ヘリオは独り言のようにそう呟いていた。
うん。ちょっと面倒な事になってるからって、ここから引き返して別ルートってのは嫌だからな。
納得してくれるなら、それに越したことは無い。
「でも、気をつけてね。万が一ってことが無いように」
セーナは震える声ながらも、そう言って心配してくれた。
「お兄ちゃん、よく分からないけどすごいんだね!」
ヒロナは目を輝かせていた。
この調子で、純真な子に育って欲しいものだな。
そんな事を考えているうちに俺たちは朝食を食べ終え、いよいよお別れの時間となった。
「お馬さん、またねー!」
庭に泊めさせてもらっていた俺の駿馬を撫でながら、そう話しかけるヒロナ。
実に心温まる光景だ。
「それでは、また」
馬に跨り、俺は3人に別れを告げた。
「帰りに、またうちに寄ってくれよ。元気なのを確認したいからな!」
「もちろん!」
ヘリオのお見送りの言葉に、俺は快諾した。
泊めてくれた恩返しに、元気な姿を見せるというのもいいもんだからな。
そう思いつつ、俺は馬を走らせる。
いざ行こう、モミー穀物農地のあぜ道を。
☆ ☆ ☆
「お、来たか」
昼過ぎになった頃。
シルバーウルフの周波数に合わせたLC共振探知に、計11匹が反映された。
前方に6匹、後方から5匹だ。
丁度挟まれた形になってしまったな。
モミー穀物農地に植えられる中麦という穀物は、初夏に植えられる。
その為、今田んぼには何も植えられておらず、ただただ浅い沼が広がっているようになっている。
そんな状況の中、前方のシルバーウルフはあぜ道を走っている。
後方のシルバーウルフは田の中にいた時こそ動きはゆっくりだったが、あぜ道に上がると一気にスピードを上げてきた。
じわじわと距離を詰め、挟み撃ちにしようという戦法か。
馬のペースを少し上げると、前方の集団に近づいてきた。
まずはあいつらをどうにかしよう。
「まず1匹」
自分に最も近かった奴を、甲羅弾で倒した。
前方集団、残り4匹。
「ここ、ショートカットいけるな」
あぜ道は、ところどころ曲がりくねっている。
だからといって、真っ直ぐ進むために田んぼに入っては大きく失速してしまうのだが……ちょっとなら、田んぼの上に結界を張ることでそのデメリットなく直進できるのだ。
ショートカットにより、更に2匹を抜いた。
4匹に挟まれた形になると、前の2匹が少し速度を緩め、4匹は一気に近くへと迫って来た。
今の状況なら……アレが使えるな。
「はあっ!」
俺は、気で全方向に向けた衝撃波を放った。
シルバーウルフたちはそれを受け、皆田んぼの中へと吹っ飛んでいった。
「さあ、これで何とか1位に躍り出たわけだが……後ろから、凄く速いのが1匹来てるな」
おっと。
つい、「1位に躍り出た」などと言ってしまった。
今の状況から、前世で一時期ハマっていた魔導4輪車のレースゲームを連想してしまったせいでつい、な。
で、もし1匹だけ猛スピードで迫ってくるシルバーウルフがロケットに変身してでもいたら、某ゲームそっくりで笑えるのだが……流石にそれは無いか。
ただただとんでもないスピードで走って来てるだけだな。
「んー、ここバクスナポイントだな」
バクスナ。
自分を追いかけてくる奴を、後ろに魔法を放って妨害する技「バックスナイプ」の略称だ。
本来は甲羅弾でやることが多いのだが……ヘリオから昼食にと貰っていたバナナの皮で代用してみるか。
「お、いい感じに行ったな」
シルバーウルフはバナナの皮をふんずけて滑り、田んぼの中へとドボンした。
これで──
「2位との差は歴然! あとは追いつかれなければ良いかな」
自分が先頭を走っていて、後続が著しく遅れている時の決め台詞を口にした。
結局、この後は後続のシルバーウルフに追いつかれる事はなく、俺はアインナハトの森の目の前までやって来た。
【次回のあらすじ】
テーラス、「妖艶なるもの」の影響で生態系の変わった魔物と戦闘開始です!




