第30話 二番弟子、休暇に入る
ココから新章です!
おそらく、この章がこの作品で最も「ファンタジーらしい」話の展開になると思います。
バトル色の濃い章となりますので、お楽しみに!(もちろんしっかり無双します!)
校舎裏に呼び出された日以来、俺は黒の覆面更生員として特に何かするでもなく、平穏な日々を過ごしていた。
リューナも順調に、「更生成功」への道を辿っている事だろう。
そして、あの日から約1か月が経った今日。
連休前の最後の授業が終わり、俺は清々しい気分で校門を出た。
「ねえ、テーラス」
振り返ると、マリカが走ってついてきていた。
「なに?」
「テーラスはさ、この9連休、何して過ごすの?」
「俺は化粧品の材料が欲しいから、連休は森に入ろうと思ってるよ」
「化粧品……また何でそんなものを?」
「ほら、夏休み前にさ、『ペリアレイ魔法学園美少年/美少女コンテスト』があるだろ? 俺はその美少年の部で優勝したいんだ」
「……すっぴんでも十分いける顔してると思うんだけど……」
「違うんだよな」
俺は人差し指を左右に揺らしながら、こう続けた。
「俺が欲してるのは、ただの優勝なんて生温いもんじゃない。全校生徒の9割の票を獲得したいんだ」
「……は?」
「その為には、化粧品の力が必要。そう思わないか?」
「……そこまで行くと、化粧品でどうこうできる範疇を超えてると思うんだけど……ってかさ、何で森なの? モイスチャースライムなら、校内の迷宮にいるんじゃない?」
「まあ、いるだろうな」
マリカの言うことはもっともだ。
迷宮にどんな魔物が出るかは、ある程度推測が可能だ。
例えば、レッサークトゥルフが出る迷宮なら、その2階層くらい奥にモイスチャースライムが出る確率が極めて高い。
俺がタコわさを提供したことから、マリカはその事に思い当たったのだろう。
だが、それでも俺が森を目的地に定めたのには、それを踏まえての理由があるという事だ。
「けど、俺が欲しいのはモイスチャースライムから作れる化粧品じゃ無いんだよな」
「……ん? モイスチャースライム以外に、化粧品の原料になる魔物っていたっけ?」
「ああ。それを倒しに、俺は森へ行くんだ。アインナハトの森の主、『妖艶なるもの』を討伐しに、ね」
「……んなぁ!?」
マリカはこれでもかというくらい目を見開き、変な声を出した。
「……よ、よ、妖艶なるもの? あの災厄を、当然のように倒しに行こうとするなんて……」
「災厄? 最弱の間違いじゃないか、それ。森の主の中では、1番討伐しやすい奴なんだが」
「そういう問題じゃないでしょ! 森の主は森の主よ! 実際、Aランク冒険者のパーティーが何度か返り討ちに遭ったって話は聞くし……」
マリカはそう叫ぶが、実際そんな事はない。
森の主が森の主たる基準の1つに「存在するだけで森の生態系をガラリと変えてしまう」というものがあるが、「妖艶なるもの」はこの条件を満たしているだけで、強さは標準的な森の主より2ランクは下だ。
だから、前世では俺も討伐したことがある。
前世では、広域通信魔法番組で活躍する「芸能人」という職業の人々が、「妖艶なるもの」を加工した化粧品を愛用していたからな。
ひっきりなしに依頼があったのだ。
「大丈夫。ちゃんと生きて帰って来るから。美少年コンテストで優勝するための準備で命を落としたら、元も子もないだろう?」
「……うーん、テーラスがそう言うなら止めはしないけど……ホント気をつけてね」
「そう言えば、マリカはこの連休、どうするんだ?」
「私? 初めは、テーラスと一緒に連休過ごしたいなって思って声かけたんだけど……流石に『妖艶なるもの』と共闘するのはパスね。実家に帰るわ」
「そうか。そっちこそ、元気でな」
そう言って、俺はマリカと別れ、盗賊から奪った駿馬を管理してもらってる場所へと向かった。
俺がここまで美少年コンテストでの優勝にこだわるのには、理由がある。
それは、俺は半年後にある軍隊主催の音楽祭、「兵!兵!兵!」を見据えているからだ。
兵!兵!兵!は音楽を主体とした祭だが、その他にも様々な余興が行われる。
そしてその余興のうちの1つに、「ペリアレイ魔法学園とアウラ気流女学院による、対抗試合」という物があるのだ。
何もしなければ、俺は間違いなくその選手に選ばれてしまうだろう。
しかし、だ。
実は、ペリアレイ魔法学園からは、もう1つ別の方法で「兵!兵!兵!」に出場することが可能だ。
それは、美少年/美少女コンテストにおいて圧倒的な成績を残し、「芸能枠」として出場するという方法だ。
芸能枠による出場者は、祭の行程の都合上対抗試合の選手にはなれない。
よって、俺は芸能枠で出場する事で、対抗試合出場を免除にできるのだ。
ぶっちゃけ、敵の強さという意味合いにおいては、アウラ気流女学院の生徒なんかより「妖艶なるもの」の方が圧倒的に強いはずだ。
だが、俺が対抗試合でアウラの生徒を蹴散らしてしまえば、俺は軍隊にスカウトされ、人間同士の殺し合いなどというニヒルなものに一生を費やす羽目になってしまうだろう。
そうなるくらいなら、今だけは敢えて強敵と戦った方がいい。
それが俺の判断だ。
まあ「妖艶なるもの」からの戦利品によるスキンケアなど無くとも、美少年コンテストで圧倒的勝利を収める事は可能だろうが……人事は尽くしておきたいしな。
芸能枠で何をするかに関しては……まあ、チアリーダー部員でもバックにつけて、ヒップホップでも踊ればいいんじゃないか?
伝説の踊り扱いらしいし。
そう考えつつ、俺は馬を走らせ始めた。
【次回のあらすじ】
は、明日じっくりプロット立てるんで一旦お休みさせてください。
(話の大まかな構想は出来上がってますが、確かなことが言えないんで)
あと、前回の後書きで書いた「伝説の生物」ですが、これは「妖艶なるもの」の事ではなく、テーラスサイドとして妖艶なるもの討伐直後に登場します!




