第29話 手下をかばいすべての責任を負ったリューナに対し、特待生、黒の覆面更生員テーラスが提案した示談の条件とは……
「上等だオラァ!」
戦いは、リューナの怒涛の魔法ラッシュにより再開された。
対して、俺は身体強化を中心に対抗していく。
あからさまに気を発動すれば、いくら変装に気を使った所で身バレは免れられないだろう。
だが、体内で気の場を整える程度なら、相手から見れば「俺が何らかの気の操作を行っている」というのはまず分からない。
魔法と気の複合技の中で、数少ない気兼ねなく使える技と言えるのだ。
攻撃魔法はほぼ使わない。
リューナの攻撃魔法の流れ弾は、放っておくと周囲に結構な被害を出してしまうので、逆位相魔法での相殺が優先だからだ。
「なるほど、なるほど」
方々に気を配っているせいで戦況が拮抗する中、リューナは何かに思い当たったようにそう呟いた。
「そこまでして周囲の被害を少なくしたいか。実に素晴らしい心がけだな、反吐が出るぜ!」
そう叫ぶやいなや、リューナは取り巻きの1人を俺の動きに合わせて投げつけてきた。
それも──器用にも、俺の拳がちょうどその子の急所に当たる形でだ。
「まじか」
冷静に、俺は自分の拳に回復魔法を纏わせ、殴打のダメージを相殺した。
リューナの手下は吹っ飛ぶが、致命傷には至らない。
「そっちが汚い手を使うなら、俺も飛び道具を使おう」
そう言って、俺は装飾でゴテゴテにしたオーラバズーカを右手にはめ込んだ。
これはブラフで、「魔法使いが気弾を撃てるアーティファクト」という程にする事で俺が気を扱えるのをごまかすのが真の目的だ。
派手な装飾も、そのための事前準備としてしておいたものだ。
「バン」
そう言って、気弾を放った。
掛け声は、引き金の役割──という程だ。
「おい、そんなのあ──グッ」
避ける間も無く、リューナは気弾をモロに食らって吹っ飛んだ。
当たりどころから察するに、右足を骨折したのではなかろうか。
「うぅぅぅぅっ」
蹲って、右足を抑えるリューナ。
もう一発、きちんと威力を調節して撃てばダウンさせられるだろう。
「バン」
2発目を撃つ。これで──
その時だった。
「はっ!」
辛うじて覆面更生員の静止を振り切った不良の1人がリューナを突き飛ばし、気弾の射線からリューナを外したのだ。
忠実な部下を持ったものだな。リューナにとってはありがたい展開だろう。
……そう思ったのだが。
「何すんだ!」
なんとリューナは、リューナを突き飛ばした不良を怒鳴りつけた。
何故だ?
「動けるなら……ウチのことなんか放っといて、あの忌々しい黒を殺しにかかれよ!」
……なるほど、そっちだったか。
リューナにとっては、自分の安否より「俺を殺せるかどうか」の方が重要で、そのためなら自己犠牲をも厭わないということなんだな。
「死んででも殺してやる」というのは、出まかせでは無かった。
仲間を俺に投げつけたのも、卑怯な奴としての行動ではなく、「あらゆる犠牲を出してでも俺を殺す」という意思の表れだった。
そして、その「あらゆる犠牲」の中には当然のように自分も含まれていた。
まとめると、こんな感じか。
ここまで徹底されてしまうと、ちょっと立派だと感じてしまうな。
悪人なのは確かだが、被害者の関係者じゃない人に憎悪を抱かせるタイプでは決してない。
まあ何にせよ、俺の勝ちは目前だ。
次で最後の一撃にしよう。
視線誘導でリューナたちの視界から消えた上で魔法で煙幕を張り、完全に予測不可能な角度から気弾を撃ち込んだ。
「ガッハッ」
リューナが呻き声をあげた。
混乱に乗じて勝てたようだな。
☆ ☆ ☆
「起きたか」
微かに身体を動かしたリューナに、俺は声をかけた。
あの戦いの後、リューナの取り巻きの不良たちは覆面更生員5人と共に生徒指導室へと連れていかれた。
そしてリューナは俺の気弾を食らって気絶していたので、残りの覆面更生員1人と協力して保健室に運び、麻酔をかけた上で回復魔法を使ったのだ。
こうしておけば、リューナとて冷静に話し合わざるを得ない。
「んだよ、黒の覆面更生員か」
「一つ、質問いいかな」
「チッ」
「何故、風紀委員たちを殺した」
「ハッ、そんなことかよ。アイツらが、ウチにきちんと校則を守れとか言うからだ! 校則を守らせたいなら、校則を守らせるだけの力を示しやがれってんだ、当然だろ? アイツらにはそれが無かった」
「お前、なんてこと──」
怒りの声をあげようとした覆面更生員を、俺は手で制した。
せっかくリューナと話し合いできる機会で、こちら側が冷静さを欠いてどうするというのだ。
「じゃあ、俺が言えば聞くのか?」
「やだね。……けど、お前がその気になりゃ結果論的にそうなるだろ」
「まあ、そうだな」
我儘な奴だが、俯瞰的な視野は有るときたか。
じゃあ、せっかくなのでこちらからも妥協案を出してやるか。
「一つ、賭けの提案があるんだが、良いか?」
「何だよ」
「俺は今から、お前をカッコよく仕立て上げる。気に入ったら、卒業まで真面目に過ごせ」
「……面白そうなこと言うじゃねえか。やってみやがれ」
「じゃあ、ちょっと催眠魔法をかけるぞ。出来上がるまで待つのも癪だろうからな」
そう言って、俺はリューナを眠りにつかせた。
作業、開始だ。
☆ ☆ ☆
「できたぞ」
俺はリューナの催眠魔法を解き、持ってきた鏡にリューナを写した。
「おう……なっ!!!!」
リューナは鏡に写る自分を見て絶句した。
相当な衝撃のようだな。
俺がやったのは、ヘアセットだ。
染髪魔法で完全に金髪にし、盛り髪をセットしたのだ。
前世で言うところの、「キャバ嬢」って奴らがよくやっていた髪型だな。
根が不良なら、気に入ると踏んだのだ。
「どうだ?」
「かっこ……いい……!」
「そうか。じゃあ、これからは他の学園生に迷惑をかけないって約束できるな?」
「まあ……しゃーねーな」
「特に、1年A組のテーラスって奴が今日来なかったこと、根に持って1年A組に八つ当たりしたりするなよ」
「……どっからその情報を!」
「学年を超えた特待生の情報網だ」
さり気なく、本人じゃないフリをしておく。そして、こう続けた。
「って、そんな事はどうでもいいだろ。それより、盛り髪のやり方は今から教えてやるから、しっかり自分でマスターするんだ。お前はそこそこ顔立ちも整ってるが、顔面偏差値お察しなお仲間たちはすぐにでも飾ってやらないと目も当てられないだろう? あと、髪を染める方法は、約束を守れたら卒業の時に教えてやる。約束を守れたら、だからな」
「分かったよ、しつけえよ。あと、ウチのダチのこと顔面偏差値お察しとか言うのやめてくんないかな」
「HAHAHA、事実は変わらないだろう?」
前世の俺レベルの奴もいたぞ。そんなことリューナに言ったところでって話だが。
「ま、でもありがとうな。お前みたいなのが特待生なら……案外悪くねえ」
「それはどうも」
「ちゃんと、卒業したら教えてくれよな」
「ああ」
そう言って、後処理は付き添いの覆面更生員に任せる事にした。
黒の覆面更生員としての今回の俺の役目は戦闘補助だけなので、仕事はここで終わりだ。
この後リューナにどんな処分を下すのかは、先生方の役目だからな。
リューナの運命は、リューナの卒業時に決まる。
素行が悪いまま卒業すれば、「更生失敗」と見做され、学生時代の罪を遡求して刑罰が与えられる。
そうなれば……まあ、死刑は確実か。
あんな約束をしてしまった以上は、是非ともこれからは真面目に生き、罪が全て帳消しになる「更生成功」の判定をもぎ取って欲しいものだな。
ここで、黒の覆面更生員編は終わりです。
次回から新章スタートです!
【次回以降のあらすじ】
みなさーん、ゴールデンウィーク楽しんでますかー?
テーラスも、これから大型連休に入り、少し学園を離れます。
とある伝説の生物が出てきたりもするのでお楽しみに!




