第28話 覆面更生員の戦い2
なかなか予定通りに更新とはいかないものです……すみません……
1人目の不良撃破から約3分、漸くリューナの取り巻き全員が取り押さえられた。
取り巻きたちは1箇所に纏められ、2人の覆面更生員が見張り役となった。
残り4人が、リューナと戦うみたいだな。
「心してかかるぞ!」
「「「おう!」」」
そんな掛け声と共に、覆面更生員たちは一斉にリューナに向かって魔法を放つ。
だが……その魔法は、リューナの1撃によっていとも簡単にかき消された。
まあ、こうなるよな。
倍率魔法の強みは、「1発の魔法を複数の倍率魔法のフィルターに通すと、その威力が2の枚数乗の強さになる」という点にあるのだから。
3枚もの倍率魔法を一気に通せば、こうなるのも無理は無い。
そして、リューナはまだ発動中の倍率魔法を残している。
それらは、攻めに転じる用か。
「やはりその程度か雑魚め。弱小が何人集まったところで、先公の言うことなんざ聴く気にならんな!」
言いながら、爆発魔法の術式を組むリューナ。
素の威力も、この時代基準だと結構高めだな。
初対面の時のマイアさんよりもかなり上ってトコだ。
「来るぞ!」
「避けろ!」
危険を感じ取り、防御魔法を展開しながらリューナとの距離を開ける覆面更生員たち。だが──
──うん。正直、間に合わないな。
リューナが放とうとしているのは、魔法の効果範囲を広げることに特化した爆発魔法だ。
爆発魔法の中では威力は最弱の部類だが、彼女の場合はその欠点を倍率魔法で補っている。
距離を取ろうとしているとはいえ、覆面更生員たちは効果範囲外まで出ることはできないだろう。
そして……残りの倍率魔法の枚数を考慮すれば、防御魔法を張っているとは言え、戦いに不利になる程度の怪我は負うだろうな。
結界を張るのは簡単だが、ここは敢えて見守ろう。
流石に即死するような状況では無いし、後で回復魔法をかける形の方が覆面更生員たちも納得が行くはずだ。
案の定、爆発により覆面更生員全員が大怪我をした。
皆、四肢のいずれか1本以上の骨折は確実そうだな。
「ここで交代ということでよろしいでしょうか?」
覆面更生員たちにそう問いかける。
「あ、ああ……。すまないが、やはり君無しでは無謀だったようだな。ここからは任せていいか」
「分かりました」
覆面更生員たちの許可は得た。
ここから、1騎打ちだな。
「ようやく黒のがお出ましか……。気に食わねえんだよな、特待生なんて所詮は先公どもの犬だろ!」
「いいよな金持ち家族は。のびのびと不良やれて」
嫌味には嫌味で返す。これが俺のポリシーだ。
……と見せかけての、歩み寄るための一言だったりもするがな。
口数の多い奴には、処世術が刺さる場合がある。
「面白えこと言うじゃねえか。どこから怪我したい? 言ってみろよ」
「怪我も何も、そのための準備の倍率魔法は使い切ったんじゃないのか?」
「……何故それを!」
技を見抜かれたことで、結構動揺したようだな。
ここからは、こちらのペースで行かせてもらおうか。
「俺は怪我した仲間を治療しなきゃならないからさ、そのうちにもう一度倍率魔法の手はずを整えておいたらどうだ?」
そう言って、俺は覆面更生員たちの方へと戻っていき、治療を開始した。
「……随分とナメた真似してくれるな!」
リューナは回復魔法をかけている俺に向かって迫ってくる。
どう育ったらそんな無慈悲な行動ができるというのだ。
「俺も使えるから、真面目に準備した方がいいぞ」
込める魔力を倍に増やしながら身体の周りを1周ハンドリングした甲羅弾を、リューナに向かって投げつけた。
上手くやれば、これで倍率魔法だと勘違いさせることができる。
「……!」
咄嗟に防御を張りつつ、すんでの所で甲羅弾をいなしたリューナ。
ダメージは小さいながらも、倍率魔法を用意する方針には切り替えてくれたようだ。
これで、覆面更生員たちの回復に専念できるな。
「おい、できたぞ」
3分後。6発の倍率魔法を展開させたリューナが、そう声をかけてきた。
奇襲はしないのか。
慈悲があるのか無いのか、謎な奴だ。
「おつかれさん。じゃあそれ、全部消すね」
そう言って、俺は低威力な代わりにスピードに特化した小規模攻撃魔法を乱発した。
──転生探知偽装を重ねがけし、魔法の波長をリューナに似せた上で。
そう。
実は、ここが倍率魔法の最大の弱点なのだ。
倍率魔法は、敵の魔法で暴発しないよう、「術者の魔法かどうか」を魔法に含まれる魂の波長で識別するようにできている。
だが、それは逆に言えば、「術者の魔法を偽装できる者」が敵の場合、簡単に自滅させられる技ということでもあるのだ。
もっとも、転生探知偽装自体が(改竄転生に比べれば大幅に簡単とはいえ)かなり難易度高めの魔法なので、これが重大な脆弱性かと言われればそんなことも無いのだが。
いずれにせよ、リューナはまさしく相性最悪の人間を敵に回してしまったわけだな。
「ば……倍率魔法が……」
かなり追い詰められたようだな。
さて、そろそろ謹慎処分の具体案の議論に──
「ちくしょうめが! お前だけは死んででも殺してやる!」
……ごく稀にいるタイプの方だったか。
いるんだよな、こういう「死という形以外の敗北を決して認めないタイプ」って。
こういう相手には、こんなルール変更が有効だ。
「じゃあ、こういう決まりにしよう。お前が生け捕りにされるか自決したらお前の負け、俺がお前を殺してしまったら俺の負けだ」
【次回のあらすじ】
いよいよバトルのクライマックスです!
果たして、リューナに「負けを認めさせる」ことは可能なのか?




