第10話 二番弟子、魔族と対峙する
「へえ、色んな部活があるんだな。どれどれ、剣術部、魔術研究同好会、蹴鞠部……あ、俺にピッタリなのあるじゃん」
マイアさんが家庭教師になって、約5年の月日が流れた。
そんなある日、マイアさんがOBとしてペリアレイ魔法学園のパンフレットを入手してくれたのだ。
「テーラスが入りたいのって、どれ?」
「チアリーダー部」
「ぶっ」
そう答えると、マイアさんはいきなり笑い転げだした。
人の真面目な選択に対する反応がそれか。失礼なやつだな。
「いやあのさ、チアリーダー部って普通女の子しかいないよ?」
「子どもの性別なんて、あってないようなもんだろ」
イケメンあるある。
それは、「子どものころはかわいい」というものだ。
どうやら俺も例外なくその道を歩んでいるようだし、少なくとも二次性徴までは女の子の中に紛れていても違和感は無いはずなのだが。
「テーラス、あんたってさ、自分の外見の良さに自覚あるの?」
「当たり前だろ。だから俺の応援だって、女の子と遜色ないくらい他人を鼓舞できるって自負してんだよ」
「いやそうじゃなくてね。その外見レベルの男子が一人入り込んだら、テーラスの取り合いで女子の友情崩壊待ったなしって言いたいのよ」
「ああ、その心配は無い。俺の世渡り力は、そんなに安くはないからな」
マイアさんの心配も理解できなくは無いが、はっきり言って思春期の女子の間で人間関係のバランスを保つくらい、道場全体で中の下の実力で師範の二番弟子でいることに比べれば大したことはない。
誰の青春も壊さずに、楽しくやっていけるはずだ。
「ま、つっても入学は一年後のはな——」
「大変よ!」
俺とマイアさんの他愛もない雑談は、姉が勢いよくドアを開けて入ってきたことで中断された。
何なんだ、騒がしいな。
「領地に……魔族が現れたわ」
姉、バーウェ樹の宣言に、俺の思考は完全に持っていかれた。
魔族。
架空の伝記で、「大賢者グレフミンを殺した」と言われている種族だ。
師範関連の情報を入手するのはほぼ諦めかけていたところだが……解明のきっかけの方から舞い込んで来てくれるとはな。
「分かった、俺も行く。マイアもついてくるか?」
そう言って出かける準備をしようとすると。
──姉がそれを遮ってこう言った。
「『俺も行く』って……ちょっと待ってよ。確かに、テーラスの実力が我が家で一番なのは認めるわ。それでも、私にとってテーラスは大事な弟。危険な戦地には連れ出せないわ」
「逆に考えろ。自分が『危険な戦地』と判断するところに一人で行って、仮に死んでしまったとして弟が悲しまないとは思わないのか?」
自分で言うのも何だが、家族の危機に最高戦力が出向かないのは間違っているとしか言いようがない。
それに、次期当主なら直接戦闘の負担は少ない方がいいんじゃないか……と思う。
「止めたって行くぞ」
そう念押しして、俺は屋敷を出た。
うん、姉だけでなくマイアさんもついてくるみたいだな。
☆ ☆ ☆
「あいつがそうか」
「ええ、そうね」
俺の問いに、姉が答える。
姉が魔族だと断定した奴は、5人の冒険者を相手に余裕を見せていた。
外見上の特徴は、頭に生えた2本の角とオッドアイ。うん、目の前の奴は、それに完全一致しているな。
……ん、待てよ。
何故だろう。あの魔族の目の色には、どこか見覚えがある気がするぞ。
ふとある仮説が頭をよぎった俺は、「転生探知」を発動した。
転生術は魂に関係する術で、その術式を探知魔法に組み込めば相手の魂の識別が可能となる。
もし俺の術式が上手く作動すれば……師範を殺した奴は、ほぼほぼ確定できてしまうな。
結果。
俺の予想は的中した。
魔族の魂には、「奴」の魂の一部が憑依していたのだ。
「そうか、そうか。つまりお前は、本当に師範を裏切ってしまったわけだな」
全ての謎が解けた俺はそう呟き、全身に気を巡らせた。
「リミッター解除」
全身のツボを気で刺激し、魔流を平常時の倍に増やす技で戦闘準備を終えた。
目の前の魔族相手には過剰戦力かもしれないが……ちょっと全力で叩きのめしたい相手なのでな。
そして、姉とマイアさんにこう告げた。
「奴は俺一人で始末する」
【次回のあらすじ】
魔族を瞬殺した後、その正体が明かされます。
そして……テーラスの飛び級の準備が整ってしまったようです。
【謝辞とひとこと】
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僕はそんな皆さんと、できれば友達になりたいとずっと考えています。
僕と仲良くしたいと言う方がいらっしゃれば、是非感想欄で一緒に盛り上がりませんか?
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