第0話 二番弟子、転生する
「さーてと、今日でこのブサイクフェイスともお別れちゃんだな……」
転生術の発動準備を終えた俺は、そう呟いた。
俺、レーロンは大賢者グレフミンが師範を務める道場の二番弟子だ。
容姿のレベルは、下の中くらい。
イケメンに生まれ変われるノウハウを完成させられたので、さっそく今から転生しようと思う。
別に、顔が醜いからって辛い人生を送ってきたわけでもない。
強いて言えば付き合ってた彼女に外見を理由に振られた事は1度あったが、あれは実質自然消滅だったしな。
だから、「やっと辛い人生から解放される!」みたいな喜びは特にないのだけど……イケメンに生まれ変われる能力があるのに、実行しない理由だって無いだろう。
興味本位で、やってみようと思うのだ。
ちなみに言っておくと、俺は二番弟子だからと言って道場で2番目に強いわけじゃあない。
俺はただ俺流の処世術を駆使して大賢者に取り入り、愛弟子になれただけの雑魚だ。
流石に一般の弟子の中でなら中の下くらいの実力はあるが、俺など三番弟子の足元にも及ばない。
一番弟子のワートって奴に至っては戦闘力だけなら師範を超えるって噂だが、正直雲の上過ぎる話だ。
奴と張り合おうなどと思ったことは一度も無いな。
美少年に転生する際、戦闘の天才にもなれるよう調整するのか?
結論としては、それは面倒なのでしないつもりだ。
ぶっちゃけ、俺の実力が低い原因は8割方俺自身だしな。
高すぎる処世術能力任せに厳しい修行をサボりまくってたら、実力ではたくさんの後輩に抜かされていったのだ。
それは自覚しているから、俺は「才能があれば~」とか情けない言い訳をする気はないのだ。
外見の調整だけでも、途中で投げ出したくなるほど大量に術式への不正な介入をしたんだからな。
もうお腹いっぱいだ。
外見の調整さえ大変だったのには理由がある。
転生術ってのは本来、生まれ持つスペックを変えるために使うものではないのだ。
転生術の原理は、「魔法で自分の魂のバックアップを取り、それを自身の『気』で後世に送り届ける」というもの。
本来であれば、自分の魂そのもので生まれ変わるのに、生まれ持つスペックが変化するわけが無いのだ。
だから、醜い容姿の俺が転生したところで来世でもブサイクになるのが道理なんだけど……俺は、俺にしか使えない打開策にたどり着いてしまったのだ。
師範の大賢者でさえ使うことのできない「改竄転生」という技を使うのだ。
改竄転生。
文字通り、魔法で取る魂のバックアップ情報を改竄してしまう魔法だ。
「魂を直接いじるのは不可能でも、そのバックアップ情報なら可能なんじゃないか」
そう仮説を立ててコソコソ実験してたら、本当に可能だと判明してしまったのだ。
道場内では中の下の実力というモブofモブな俺だが、ただ1つ、転生の才能だけは他の追随を許さないレベルで恵まれた。そのおかげで開発できた、自慢の高等技術だ。
改竄転生を使い、来世で俺は絶世の美少年になるのさ。
その話を師範にしてみたら、「お前とうとう頭がおかしくなったか」と一蹴されてしまった。
大賢者が否定した魔法を信じる者などまずいない。特に、道場内では。
妄想でも何でもなく現実に可能なのだから、誰か1人くらいには信じてもらいたかったものだがな。
……ま、転生術になど誰も興味を持っていない以上は仕方ないか。
長生きしたければ転生より遥かに難易度の低い不老魔法で十分だし、転生には「それまでの努力が振り出しに戻る」という重大なデメリットもある。
転生術を使える程の実力があれば(俺みたいなただ転生の才能があるだけのケースを除けば)余裕で勝ち組ライフを謳歌できるし、これまでの努力をドブに捨てるなど普通は言語同断ってとこだろう。
さらに言えば、転生術は(魂のバックアップ自体は練習できても)発動はぶっつけ本番、チャンスは1回限りで失敗すれば即ち死だ。
そんなハイリスク・ローリターンな転生魔法をただ容姿の為だけに使おうなど、側から見ればトチ狂った奴にしか見えないだろうな。
まあ、俺にとってはハイリターンなのだが。
グッバイ、不細工のハードモード(?)人生。そしてウェルカム、美少年の快適ライフよ。
俺は自分が持つ全ての『気』を魔法でできたバックアップ情報に流し込み、生まれ変わる為命を絶った。、
【次回のあらすじ】
転生後の世界で、レーロンは最初の異変に気づく。
「魔法の適性がある=落ちこぼれ」という評価になっていたのだ。
これは一体、何を意味するのか?