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【第一章】第七部分

数十分後、ようやく泣き止んだ美散は女の子座りのまま、辺りを睥睨した。

「こ、ここはどこだろう。ずいぶん広い空間だね。こわいよ~。」

美散が見上げたところには、ドーム球場のような白い屋根がある。小心者には大きな建物は恐怖の大魔王に見えてしまう。

『ドスン、ドスン、ドスン』

「じ、地震だよ!弱り目に祟り目だよ!」

「おい、貴様。寝転がってる場合じゃないぞ。貴様が新入りか。よくこんなところに来たな。」

そこに腕組みをして立っているイカツい女子。

長い茶髪は背中まで伸びて先が尖って四方八方に広がっている。こちらも美散と同じ白い服を着ている。帽子から見える目と口元は斜めに切れ上がり、右頬にあるキズとマッチしている。顎もシャープで、性格はかなりキツく見える。さらに手に黒いバットを持っている。

「そこのデカい人。だ、誰ですか、あなたは。すごくこわそうなんですけど~。」 

 からだをブルブルと震動させている美散。恐怖心が脳内最大シェアとなっているのは明白である。すでに5メートルの幅を置いているが、さして距離があるように感じられない。

「いきなり、デカい、コワいとは失礼なヤツだな。大きさなは貴様と同じぐらいだぞ。それに新人が先に名前を名乗るのが礼儀だろ。名乗らないなら、こうだ。」

イカツい女子は、いきなりバットでノックを始めた。ボールは凶悪な音を立てて、美散の左横を通過した。人間サイズであればとてつもない大きさであるが、すでに巨人女子となっている美散には、大きさはノーマルな感覚になっていた。

「ひゃあ。危ないよ!」

「危ないだと?こんなゆっくりな打球はないぞ。とにかく名前を言え!」

「あ、あたしは美散、情野美散だよ。中学三年、在学中だよ~。だからイジメないで~。」

「美散か。いいだろう。あたいはランボウだ。ジャイアンツのキャプテンだ。よく覚えておけ。って、そんなヒマはないかもな。」

美散のイジメ回避懇願をスルーしたまま、ランボウは次々とボールをノックする。

「どうしてあたしがこんなことしなくちゃいけないんだよ~。何も悪いことしてないのに~。」

 頭を抱えて、悪代官に直訴する農民状態の美散。顔を顰めて目を強烈に閉じている。

「こ、こんな体になって、あたしの進む道はもともとイバラが敷き詰められてたけど、それが全部通行止めになっちゃったよ~。もう何もしたくないし、できないよ~。」

顔を灰色に染めて、グラウンドにうずくまった美散。

「そうだな。こんな掃き溜めに送り込まれたら、そんな風になるのは当たり前だよな。そんな地に墜ちたカラスで汚れた痩せ土地を均すのが、掃除屋たるあたいたちの仕事だからな。」  

ランボウは黒光りするバットでさらにノックの連打を継続した。

「痛いよ!あたしはどこに連れてこられたんだよ!」

「まだわからないのか。自分のいる場所をよく見ろ。」

美散は恐る恐る目を開いて足元を見た。そこには正四角形のマットがあった。

「な、なにこれ?野球のベースみたいだけど。」

「ベースみたい、じゃない。そのものだ。周囲全体を見回してみろ。」

ランボウに言われるままに、轆轤のように、頭をゆっくり回してみた美散。すり鉢のようなスタンドに、スコアボード。それに三角ベース、つまり、ホームベースと一塁・二塁ベースがあって、マウンドを囲んでいる。

「ここって、や、野球場?」


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