【第一章】第六部分
どれぐらい走ったのかわからないが、トラックは突然停車した。
「あいたた。腰を打っちゃったよ。ぐすん。」
トラックの荷台から、腰をさすりながら降りる美散。目隠しは外されたが、すでにぐずっている。
「目的地に到着しました。荷台からすぐに降りて下さい。」
「ここはどこなんだよ?」
地面に立った美散は、宅配便業者に声をかけた。かなり遠く離れているのか、姿が小さく見える。
「スーパーダッシュで、あたしから距離を置いたみたいだね。これだけ離れてると、コワくないし、普通に話せるね。でもちょっと離れ過ぎてるから声がよく聞こえるように、少しだけ近づこうかな。」
普段の人見知り状態ならとても近づけない宅配便業者に美散は近寄る。二歩歩いたら、何かにぶつかった。
「あれ?障害物があるね。さっき見た時は何もなかったように見えたけど。」
当たった物に手を伸ばして、感触を確かめた美散。
「うにゅ?ぷにぷにしてる。それにゴツゴツしたところもあるね。」
さらに手を動かした美散。
「ほよよ?これって柔らかいマッチ棒みたいなモノがあるよ。つんくつんく。」
マッチ棒らしきモノを指先でつついた美散。
「ああ!」
蚊の鳴くような声がどこからか漏れたが、あまりに小さくて美散の耳には届かなかった。「むむむ?よく見ると、これって人じゃない。それもどこかで見たような気がするよ。た、宅配便の人?どうして、こんなにちっちゃいの?」
「ちっちゃいんじゃないですよ!あなたがデカくなって、私を蹴飛ばしたんですよ!いててて。」
宅配便業者は頭を抱えながら、立ち上がった。
「いったい、何が起こったんだよ。天変地異なの~?」
美散は騒ぎながら、宅配便業者を見下ろした。圧倒的にデカい美散の怪訝そうな顔に睨まれて、怯えたカエル状態の宅配便業者。
「ば、化け物だ~!すぐそばで見ると、はるかにデカいですよ~!コワい~。ぎゃあああ~!」
宅配便業者は大パニックの中で、慌ててトラックのエンジンをかけていずこかへ走り去った。
一瞬、何が起こったのかわからず、呆けて口を開けたままの美散。やがて、自分が新たなステージに立っていることに気づいた。
「ま、まさか、これが巨人女子症?あたし、ホントに巨人になっちゃったの~?人生、終わったの~!」
美散は、地面に跪いて、大地を殴りながら、しばらくの間、泣きわめいていた。