【第一章】第十八部分
次の日の打撃練習で、美散は気合いを入れて臨んだものの、それは空回りし、気合いというより、気負いに変貌していた。
ランボウが操るバッティングマシンに空振り、凡打の山を築いていた美散に、トモヨンは声をかけた。
「バットを長く持って、力押しに押しても無駄な動きとなるだけですわ。鶴のように折り畳んで打つのです。それで余分な力を抜くことができますわ。」
「そうなんだ。ありがとう、トモヨンさん。やってみるよ。」
最初の5球は今までと同じように、凡打を重ねたが、だんだんと感触がよくなってきた美散。
6球目、美散の打球は快音を伴って、ライナーでレフトのフェンスに激突して跳ね返った。
「やった!これだよ、この打球。」
「まぐれだろ。それならこれでどうだ。」
ランボウは、バッティングマシンの球速をさらに高めた。
『カキーン』という金属音が球場に響き渡った。ボールは外野席の芝生に穴を開けていた。
「ちっ、余計なこと、教えやがって。トモヨンはいつもそうやって、あたいのジャマをするんだよな。まあいい。所詮、バッティングマシンの投球だしな。じゃあ練習はここまでにして、次はテストだ。」
「じゃあ、ここからは、巨人軍エース(自称)のわたくしの出番ですわね。」
「えっ?トモヨンさんがピッチャー、それもエースなの?でも(自称)っていうのが気になるけど。」
「細かい呼称は捨て置いてくださいな。わたくしはこのポジションを誰にも譲るつもりはありませんわ。何者もカオスことのできない性域ですわ。」
「トモヨンさん、国語が苦手なんだね。」
「誉めていただいて光栄ですわ。」
「誉めてないよ!」
トモヨンは内角中心に投げていくと、美散はどんどん打っていく。
「このコースはしっかり打てるようになりましたわね。それではちょっとエンジンをふかしましょうか。」
トモヨンは帽子の頂点に折り鶴を付ける。ドラえ●んのタケコプターのようである。
美散はトモヨンの奇異な行動に戸惑った。
「あの折り鶴にいったい何の意味があるんだろう。荒んだ心を折り畳んだとか言ってたけど。」
「よそ事を考えていてはダメですよ。というより、これがわたくしの狙いですけど。」
トモヨンは振りかぶって軽く投球した。
「あれ、あれ。」
美散はさして球速があるとは思えないボールを空振りした。
「それでいいんですよ。どんどん空振りなさいな。ほーほほほっ。」
美散は集中力を欠いて、打てなくなる。
「どうしてバットに当たらないの。あんなへなちょこボールに。」
言葉使いに遠慮を持てない美散。
「野球の技術は教えて差し上げてますのに、わたくしがニガテと仰る国語も、科目追加した方がよろしかったかしら。」
「おいおい、美散よ。球のコースをよく見ろよ。」
「うん。それはわかってるつもりなんだけど。ボールは真ん中に来てるけど、バットが届かないんだよ。」




