【第一章】第十六部分
「あら、これは失礼しましたわ。ランボウちゃん、キャプテンなのに、新人さんをあまりイジメてはいけませんわ。初心者には初心者らしい練習方法がありましてよ。わざわざボールをからだに当てなくても、普通にストライクゾーンにお投げになったらいいのではなくて。新人さんはこのように優しく育てるのがいいと思いますわ。」
トモヨンはひだまりのような穏やかな笑顔で、赤い紙で折り鶴を作っている。
「甘やかすんじゃねえ、トモヨン!新人教育はキャプテンの専権事項だ。冬の冷たい空気に叩かれてこそ、うまいお茶葉はできるんだ。」
鬼神のごとく、再び美散に当てまくるランボウ。
ランボウを見て、柔らかな表情を一瞬引き締めたトモヨン。
「わたくしが鶴を折るのは、荒んだ心をきれいな紙に包み込んで、こうして飛ばすためですわ。」
美散は飛んでくるボールそっちのけで、トモヨンの方を見つめている。
「こんな優しい人もいるんだ。巨人軍も捨てたもんじゃないよ。不幸な方向にしか吹かない風も、向きを変えることがあるんだね。あの人がいるなら、このツラいシゴキにも耐えられるかも。」
「オラオラ、よそ見してんじゃねえよ。余裕ぶっこくのは百年早いんだよ。あたいの心は荒いんじゃいねえ。荒くれてるだけだ!」
「荒さレベル不等式では、荒い〈荒くれだよ!」
美散のツッコミとは無関係に、バッティングマシンの投球間隔はスピードを速めて、次々と美散を襲う。
美散は痛いを連呼していたが、ある一球をひらりとかわした。
「あれっ。うまくよけられたよ。」
「あん?たまたまだろう。まだまだ続くぞ。」
その次も、さらにその次も、投球をかわした美散。
「ほほう。少しは慣れてきたようだな。だが、これはよける練習ではない。バッティング練習なんだからな。」
「あらあら、折り鶴の願いが叶ったようですわね。あら、別にお願いなんかしてませんでしたけど、折り鶴が芋づる式に、願いまで辿り着いたんでしょうか。ほーほほほっ。」
「これはきっとあの人のおかげだよ。よ~し、このままの勢いでやっちゃうよ。」
今度はバットの当たる範囲内に投球されていたが、美散のバットは空を切るのみ、まさにエアバットであった。勢いだけで、二匹目のドジョウを掬えるほど、世間は甘くない。
こうしてこの日の練習は終了の時を迎えた。
「あれ?練習、いつの間にか終わっちゃったね。すごく辛かったけど、終わってみると、こんなものだったんだね。」
奇妙な達成感に囚われる美散であった。さらに、美散には自覚がなかったが、引っ込み思案という長年付き添っていた属性が少々薄れていた。




