【第一章】第十二部分
美散は狭い通路を使って、大仏殿の方に歩いていき、到着したところで、立ち止まって瞠目している。
「ここにあった大仏様はどこに行ったんだよ?」
「よく下を見ろ。円形のフタが見えるだろ。大仏は夜になると、地下に潜ってオネンネさ。そのあとのスペースがあたいたち、巨人軍のシャワールームに早変わりってワケさ。」
ランボウの声が通路のかなり離れた後ろから聞こえた。
「え~っ⁉ここがシャワールーム?たしかに天井に大きなスプリンクラーが付いてるよ。ということは、ここにはシャワーだけで、お風呂はないの?」
「風呂だと?シャワーがあるだけでもありがたいと思え。贅沢と生意気は人間様の基本的人権だ。巨人軍に人権などねえ。こんなデカいなりだ。存在するだけで、大いなるムダなんだよ。無駄、無駄、無駄、無駄~!次がつかえてるんだよ、早くしろ!」
苛立つランボウの声がシャワールームに響いた。
「わかったよ。すぐに出るから。」
美散はシャワーの栓を捻り、暖かいお湯を頭からかぶっている。
「1日汗をかいたから気持ちいいなあ。生き返る~とまではいかないけど、これでもマシな方かな。」
苦しかったこの日で、ささやかながら、幸福の時を迎えた美散。
美散と入れ替わりで入室するランボウ。
「思いの外、すぐに空いたなあ。ラッキー♪」
「あれ?なんだか、生臭いよ。魚でもいるのかな。」
背中に当てた手が薄ら赤く染まっている。
「こ、これって、お湯じゃない、血じゃない!うわわわ~!」
「ふん、やっと気づいたか。お湯を節約するために、希釈した動物の血液を利用しているのさ。あたいたちはこんなからだだから、相当量のお湯を使う。だから節約志向、エコなんだよ、エコ。せっかくの命なんだから大切に使わないとな。」
「気持ち悪いよ~!」
逃げるように、シャワールームから飛び出した美散。
「はあはあはあ。慌てて走ってきたので、ここがどこか、わからないよ。」
通路を逆走した美散は球場隣接の寮の中に飛び込んでいた。
「ここはどこ?あたしは誰、じゃない、あたしは情野美散だよ。冷静に見ればここは食堂のようだね。」
テーブルは十ほど置いてあるが、食べている選手はいない。
「シャワールームではひどい目に遭ったけど、野球選手なんだから、体力増強のために、食事はきっとスゴいに決まってるよね。お腹すいたし。」
意外にも立ち直りの早い美散。野球選手になることもすでに肯定した様子にも見える。
テーブルの前にはベルトコンベアがある。巨人軍用なので、電車のコンテナでも運ぶようなサイズである。ゴトン、ガタンと大きな騒音を立てながら、大きな皿が肉らしき物を乗せてやってくる。
「あの形はチキンだね。七面鳥とはクリスマスでもなかなかお目にかかれないんだから、スゴいなあ。・・・、何これ?」
揺れながら、やってきたのはダチョウの丸焼きだった。
「これを食べろって言うの⁉」




