【第一章】第十一部分
「そんな指数がどこにある。あたいたちは、他の人間とは全く違う生物なんだよ。これが超重病の巨人女子症さ。一度発症すれば治ることはないとも言われている。あたいたちはここで過ごすしかないんだよ。人は人生を切り開いて生きていく。でもあたいたちは、壊せない墓に囲まれてるんだよ。
「な、なんてことなんだよ。」
「あたしの青春は見えないだけかと思っていたけど、恋どころか、告白する権利もないんだ。ううう。」
「練習は終わったんだ。この後は寮に戻るんだ。」
「寮はどこにあるんだよ?」
「球場に隣接している。球場の一部と言ってもいい。」
「でもそんな巨大な建物なら外から見えるんじゃ?」
「外からは見えない。一般の人間には見えないようになってるのさ。寮に帰る前にからだを洗っていくんだぞ。」
ランボウが指差したのは大仏殿の方向である。
「あっちにお風呂があるんだ?」
美散の頬がこの日初めて緩んだ。日頃からあまり使われることのない筋肉でもある。
「おい。美散よ。お前の進む道を、ひとつは見つけられたんじゃないのか。さっきよりも顔色がいいぞ。」
ランボウは背中から美散に声をかけた。
「そう言えば、からだは痛いけど、心はちょっとだけスッキリしているかも。」
美散は少しまわりの空気が軽く感じられていた。
美散は狭い通路を使って、大仏殿の方に歩いていき、到着したところで、立ち止まって瞠目している。
「ここにあった大仏様はどこに行ったんだよ?」
「よく下を見ろ。円形のフタが見えるだろ。大仏は夜になると、地下に潜ってオネンネさ。そのあとのスペースがあたいたち、巨人軍のシャワールームに早変わりってワケさ。」
ランボウの声が通路のかなり離れた後ろから聞こえた。
「え~っ⁉ここがシャワールーム?たしかに天井に大きなスプリンクラーが付いてるよ。ということは、ここにはシャワーだけで、お風呂はないの?」
「風呂だと?シャワーがあるだけでもありがたいと思え。贅沢と生意気は人間様の基本的人権だ。巨人軍に人権などねえ。こんなデカいなりだ。存在するだけで、大いなるムダなんだよ。無駄、無駄、無駄、無駄~!次がつかえてるんだよ、早くしろ!」
苛立つランボウの声がシャワールームに響いた。
「わかったよ。すぐに出るから。」
美散はシャワーの栓を捻り、暖かいお湯を頭からかぶっている。
「1日汗をかいたから気持ちいいなあ。生き返る~とまではいかないけど、これでもマシな方かな。」
苦しかったこの日で、ささやかながら、幸福の時を迎えた美散。
美散と入れ替わりで入室するランボウ。
「思いの外、すぐに空いたなあ。ラッキー♪」
「あれ?なんだか、生臭いよ。魚でもいるのかな。」
背中に当てた手が薄ら赤く染まっている。
「こ、これって、お湯じゃない、血じゃない!うわわわ~!」
「ふん、やっと気づいたか。お湯を節約するために、希釈した動物の血液を利用しているのさ。あたいたちはこんなからだだから、相当量のお湯を使う。だから節約志向、エコなんだよ、エコ。せっかくの命なんだから大切に使わないとな。」
「気持ち悪いよ~!」
逃げるように、シャワールームから飛び出した美散。




