表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/76

【第一章】第十一部分

「そんな指数がどこにある。あたいたちは、他の人間とは全く違う生物なんだよ。これが超重病の巨人女子症さ。一度発症すれば治ることはないとも言われている。あたいたちはここで過ごすしかないんだよ。人は人生を切り開いて生きていく。でもあたいたちは、壊せない墓に囲まれてるんだよ。

「な、なんてことなんだよ。」

「あたしの青春は見えないだけかと思っていたけど、恋どころか、告白する権利もないんだ。ううう。」

「練習は終わったんだ。この後は寮に戻るんだ。」

「寮はどこにあるんだよ?」

「球場に隣接している。球場の一部と言ってもいい。」

「でもそんな巨大な建物なら外から見えるんじゃ?」

「外からは見えない。一般の人間には見えないようになってるのさ。寮に帰る前にからだを洗っていくんだぞ。」

ランボウが指差したのは大仏殿の方向である。

「あっちにお風呂があるんだ?」

美散の頬がこの日初めて緩んだ。日頃からあまり使われることのない筋肉でもある。

「おい。美散よ。お前の進む道を、ひとつは見つけられたんじゃないのか。さっきよりも顔色がいいぞ。」

 ランボウは背中から美散に声をかけた。

「そう言えば、からだは痛いけど、心はちょっとだけスッキリしているかも。」

 美散は少しまわりの空気が軽く感じられていた。


美散は狭い通路を使って、大仏殿の方に歩いていき、到着したところで、立ち止まって瞠目している。

「ここにあった大仏様はどこに行ったんだよ?」

「よく下を見ろ。円形のフタが見えるだろ。大仏は夜になると、地下に潜ってオネンネさ。そのあとのスペースがあたいたち、巨人軍のシャワールームに早変わりってワケさ。」

ランボウの声が通路のかなり離れた後ろから聞こえた。

「え~っ⁉ここがシャワールーム?たしかに天井に大きなスプリンクラーが付いてるよ。ということは、ここにはシャワーだけで、お風呂はないの?」

「風呂だと?シャワーがあるだけでもありがたいと思え。贅沢と生意気は人間様の基本的人権だ。巨人軍に人権などねえ。こんなデカいなりだ。存在するだけで、大いなるムダなんだよ。無駄、無駄、無駄、無駄~!次がつかえてるんだよ、早くしろ!」

苛立つランボウの声がシャワールームに響いた。

「わかったよ。すぐに出るから。」

美散はシャワーの栓を捻り、暖かいお湯を頭からかぶっている。

「1日汗をかいたから気持ちいいなあ。生き返る~とまではいかないけど、これでもマシな方かな。」

苦しかったこの日で、ささやかながら、幸福の時を迎えた美散。

美散と入れ替わりで入室するランボウ。

「思いの外、すぐに空いたなあ。ラッキー♪」

「あれ?なんだか、生臭いよ。魚でもいるのかな。」

背中に当てた手が薄ら赤く染まっている。

「こ、これって、お湯じゃない、血じゃない!うわわわ~!」

「ふん、やっと気づいたか。お湯を節約するために、希釈した動物の血液を利用しているのさ。あたいたちはこんなからだだから、相当量のお湯を使う。だから節約志向、エコなんだよ、エコ。せっかくの命なんだから大切に使わないとな。」

「気持ち悪いよ~!」

逃げるように、シャワールームから飛び出した美散。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ