表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第5章 119年3月~義兄の魂を奪還に
96/148

第87話:まーち・おぶ・ざ・ぐりーん・くいーん

 お姉さまが決闘でミセスとの模範戦に勝ちました!

 すごいすごいすごい!でもお姉さま倒れてる!



「きゃーーーー!」


「落ち着きなさいよ、ナタリー」



 クリス先輩が言いました。

 ガラスの割れるような音と共にレオナルドさんが舞台に乗り込んでいます。



「おおおおちつけません!お姉さまが勝ったんですよ!

 しかもお姉さまがたくさんいたんですよ!」



 クリス先輩は困ったような表情です。

 ドロシア先輩や最上級生のみなさんたちも厳しい表情をしています。

 監督官のベリンダ先輩が声を出しました。



「これが最上位の魔術師の闘いか……。

 イーリーどう思う?ミセスはアレクサに花を持たせたのか?」



 舞台上ではレオナルドさんがお姉さまを抱えるミセスに突撃しようとしているのを、他の先生たちが止めています。



「……いや違うでしょ。だってわたしたちミセスが化身って分からなかったのよ。そのレベルの化身を創るのにどれだけのコストがかかるのよ。わざと壊させるなんてことは有り得ないわ。

 みんな。誰かミセスが化身だって気付いてたのいる?」



 誰も答えません。そう、びっくりですよね!ミセスのお婆ちゃんの身体が消えたかと思ったらきれいなお姉さんが出てきたんですもの!

 クリス先輩が手を上げました。



 試合前にお姉さまがお話されていたおじさまが舞台に上がられ、巨大な炎をレオナルドさんに叩きつけました。レオナルドさんが炎を一刀両断に割ります。



「化身だとは思わなかったわ、でもちょっとやっぱりと思うところもあるかも」



 へえ?とベリンダ先輩が驚いた顔をされました。イーリーさんが続きを促します。



「えっと、変だなと思っていたことがいくつかあって。

 ミセスって世界最高峰の付与魔術師でしょう、それがなぜ教鞭をとっていたり寮長なんてやってるのが許されるのかなってこと。それと、ミセスがそれなのに新作の魔術具を発表していること」


「あー、確かにそうよね……」



 舞台上ではレオナルドさんにお姉さまが投げつけられ、レオナルドさんが受け止めたところを拘束されています。

 そのまま数人がかりで運ばれていきました。保健室に行くのでしょう。

 お姉さま大丈夫でしょうか……。



 闘技場からディーン寮へとみんなで戻って、食堂でお話の続きをしながらお姉さまたちが戻るのを待ちます。

 夕飯の時間の少し前にお姉さまと、亜麻色の髪の女性、ミセス・ロビンソンが戻ってきました。拍手でお二人を出迎えます。



「お姉さまー!おめでとうございますー!」



 アレクサお姉さまはわたしの声に、ちょっと困ったように微笑まれました。

 普段は夕食を一緒には食べないミセスも今日は食堂に残って食事を楽しまれるとのことで、今日の試合を振り返り、お二人を称えながら食事を楽しみました。



 食後、お姉さまは早めに部屋に戻られました。今日は安静にしているようにと保健室のバーサ先生から指示されたとのことです。

 うーん……。

 ちょいちょいと袖が引かれます。1年生のサリアでした。わたしを廊下の端に連れていき耳打ちします。



「ナタリー先輩、アレクサ先輩のこと心配ですか?」


「そうね。体調が戻られてないというよりは決闘の結果に納得いかれてないのかしら。素晴らしい戦いだったのに」


「……元気づけられる方法があるんですけど」



 ほうほう、なるほど?そんなことで?うーん、むしろ怒られそうだけど。わたしは疑い深くサリアを見つめます。

 力強く頷かれました。むむむ。



 翌朝、今日は闘技場の片付けや来賓の対応に先生が駆り出されていること、貴族の生徒の保護者が見にきていたこともあって臨時の休校です。

 サリアがわたしの部屋にやってきたので、2人でお姉さまの部屋へと移動し、扉をノックします。



――コココン。



「お姉さま、起きておられますか?」



 わたしの声に、扉の向こうから入室を許可する声がします。

 わたしたちが扉を開けると、部屋の机の前に立つお姉さまがいらっしゃいました。朝日を浴びてキラキラと御髪が輝き、神々しくあられます!はーん、お姉さまっ!

 でも確かに僅かですがその顔には憂いを秘めているように思えます。



「あら、ナタリー。それにサリアまで。珍しいわね」


「おはようございます、お姉さま!」「おはようございます、アレクサ先輩!」


「ええ、おはようですの」



 やはり、気分がこちらに向いていませんね!わたしとサリアが魔力を練っているのに反応がありません。わたしはサリアと顔を見合わせて頷きます。



「「お覚悟!――〈色玉(Color Ball)〉!」」



 緑色の〈染色〉の魔力が込められた水風船のような球体を魔力で生成し、お姉さまに全力でぶつけます。

 不意を討たれたためか、お姉さまがきゃっ、とかわいらしい悲鳴を上げられ、球体が着弾しました。

 ばしゃりという音と共に、お姉さまの身体が制服が緑色に染まります。

 お姉さまが俯き震えます。



「あー……お、お姉さま?大丈夫ですか」


「ふ、ふふふ、ふはは、はははははは」



 お、お姉さまが邪悪な感じの笑い方を!

 やはりこれダメなんじゃぁ!?

 お姉さまが呟きます。


 

「サリア、今日は何日ですか?」


「もちろん、3月17日ですよ」


「なるほど、わたくしは落ち込んでいたのですわね?」


「そうですよ、アレクサ先輩。いや、アレクサねーさま」



 む、むむむ。

 なにやらサリアがお姉さまと親しそうな雰囲気を!



「目が覚めましたわ。ありがとう、2人とも」


「い、いえ」


「そう、わたくしは緑の日の祝日を祝わなくなってしまっていましたのね」



 昨日の夜、そういうお祭りがアイルランドにはあるとサリアに聞きました。春の訪れを祝福すべく、ポートラッシュの町中を緑に塗りつぶし、食べ物も飲み物も緑のものを用意するそうです。

 この術式もそのためのもので、半日程度の効果時間の〈染色〉の術式なのだとか。



「いいでしょう、派手にやりましょうか」



 お姉さまは窓際に寄ると、鉢植えから三つ葉を毟り、そして朗々と詠唱をはじめます。



「――我は左手を以て君臨し、右手を以て統治する。

我こそ全ての植物の支配者、我こそ緑の女王。

今こそ我は権能を行使しよう、緑の女王の行進を!

さあ、悪い子になりなさい。お前も悪い子になりなさい」



 そういってお姉さまはわたしたちに手にした三つ葉を渡しました。

 恐るべき魔力の込められた葉です。



「ついてきなさい、〈(March)の女(of the)王の(Green)行進(Queen)〉に!」


「「はいっ!」」



 とわたしたちは答えました。サリアが聞きます。



「えっと、これどういう術式なんですか?」


「わたくしが開発しているオリジナル術式で魔力操作系、植物系、転移系の複合術式ですの。あと、クロの神様の力も借りてますのよ。

 効果は、この三つ葉を通してあなたたちが自由にわたくしの魔力を使えますの」



 お、おお、お姉さま使い放題!?

 なにそれドリームランド!?



「クロ、あなたも緑になりなさい」



 お姉さまの魔力がなまこのクロさんを緑色に染めます。

 これは……!



「きゅうりですね」


「きゅうり……いや、ズッキーニ?」



 クロさんがいやいやするように首を振ります。

 お姉さまが笑います。



「ふふふ、今日はクロではなく、ミドリーですわね。いきますわよ」



 お姉さまが立ち上がり、クロさんを浮かせます。ぱんと手を叩くとべちゃりと緑に汚れていたお姉さまの制服がきれいに全て緑に染まります。わたしとサリアに手をやるとわたしたちの制服もお揃いの緑になりました。

 手にされていた三つ葉がすくすくとのび、花輪を作ります。お姉さまはそれを頭に載せました。戴冠ですね!



「「女王様!」」



 わたしとサリアの声が被ります。



「さあ、行進せよ」


「「はい、陛下!」」



 サリアが扉を開けて廊下に出ると、お姉さまと同学年のニーナ先輩が目の前にいて、わたしたちを見てぎょっとした顔でこちらをみました。



「やれ」


「はい、陛下!〈色玉〉!」



 わたしがニーナさんに緑の魔力玉をぶつけます。

 凄い、わたくしの魔力が減らない!お姉さまが!お姉さまの力が流れ込んできます!



「ちょっと!何よ!」



 声を聞きつけたのか、クリス先輩が部屋から顔を覗かせます。



「やれ」


「はい、陛下!〈色玉〉!」



 今度はサリアがクリス先輩に〈色玉〉を投げつけました。



 クリス先輩は扉を閉めて〈色玉〉を避けます。扉が緑に染まりました。



「ミドリー、やれ」


『……御意』



 クロさんがお姉さまの魔力を使ってクリス先輩に術をかけます。扉の向こうにいたクリス先輩がこちらへと〈瞬間転移〉してきました。驚くクリス先輩をお姉さまが抱きしめて捕まえます。



「〈染色〉」



 お姉さまの腕の中のクリス先輩が緑色に染まります。



「ああ、緑の日の祝日ってやつ……?」



 クリス先輩はじと目でお姉さまを睨みます。



「ふふふ、クリス、ニーナ。我が軍門にくだるといいですの」



 お姉さまは2人の髪に三つ葉を挿され、指を鳴らしました。

 するとそれぞれの手にはクリス先輩の使い魔、毛玉うさぎのフラッフィーとニーナ先輩の使い魔、蛇のペンタが捕まえられています。



「くっ、人質?」


「ふはは、そんな面倒なことはしませんの」



 ニーナさんの声にお姉さまが邪悪に笑い、フラッフィーとペンタが緑色に染められます。緑色の球体となったフラッフィーを見てお姉さまが呟きました。



「マリモ?」


「ぷーぷーぷー!」



 フラッフィーが抗議しています。サリアが2人に説明し、クリス先輩とニーナ先輩が仲間になりました。



「後で怒られるのにわたしを巻き込むんじゃないわよ!」



 と叫びながらクリス先輩が緑色の球を大量に作成して、階段上から階下に投げつけます。上がる悲鳴と嬌声。

 いや、絶対怒られると思います。

 ニーナ先輩は窓を開けて外に飛び出し、黄色いディーン寮の外壁を緑に染めていきます。



 緑色に染められたドロシア先輩とモイラ先輩が階段を駆け上がり、真紅の〈色玉〉を作って射出してきました。

 クリス先輩が被弾し、頭から真っ赤に染まります。



「いやー、赤くなっちゃったからなー、これは赤の軍門に降るしかないわー!」



 とクリス先輩は棒読みで叫ぶと、今度は赤い〈色玉〉を投げ始めました。



 ……結局、3月17日の休日は赤と緑の陣取り合戦の様相を示し、戦いは昼過ぎに建物中が緑に染まったところで、部屋から出てきたミセスに制圧されて終わりました。

 敗因はもうみんなの魔力と体力が切れていたことですね!



 昼以降ですか?もちろん全員で反省文を書かされていましたよ。でもまあ、お姉さまも穏やかな顔になっていて良かったなと。



「ね、サリア」


「ですね、ナタリー先輩」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
設定集や裏話もあるんですよ! 「なまこ×どりる」設定集はこちらから! i360194
― 新着の感想 ―
[一言] 中盤、〈緑の女王の行進〉のちょっと前のところ、アレクサが三つ葉を二人に渡す描写が被ってる……気がします。 先に毟って渡したはずが、もう一回渡してる……ような。
[一言] すぷら……げふんげふん
[良い点] みんな良い子 [気になる点] ミセス全力で制圧しそうですよね(笑) [一言] いつも楽しませて頂き ありがとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ