第85話:決着の行方……!
わたくしの前に立つ鋼人形を右手の槍で穿ちますの。螺旋の力を発揮し、貫き、引きずり倒して前へ。
ラーニョがこちらに糸を射出するのも躱し、他の鋼人形は間に合わない。後はミセスの背中に槍を突き刺すのみ!
その時、ミセスの車椅子が嗤いましたの。車椅子の背もたれに突如、眼と口があらわれて、その口が大きく開けられると、陽気な声が響きました。
「ははっ!〈魔力の矢〉!」
わたくしの眼前に数十本の魔力の矢が顕現します。槍を一閃して打ち払い、左手の盾を前に進みます。大半は盾で止め、幾本かは身体に当たりました。ダメージは無視できるほどのものですが、衝撃がわたくしの突進の威力を抑え込みます。
そして突き出した槍はミセスの〈魔術障壁〉を貫くには至らず、止められましたの。
車椅子にあらわれた口が笑みの形に歪んで言います。
「残念だったね、アレクサ!バイバイ!」
車椅子の車輪が誰も触れていないのに勝手に動きます。右側が前に、左側が後ろに回転し、車椅子はその場でくるりとターンを決めましたの。ミセスがこちらと対面し、悪戯っぽい笑みを浮かべました。
両サイドからもこちらに向き直った鋼人形が剣を振り下ろしました。
ちぇっ。わたくしは大きく後方に跳躍します。
「車椅子も魔術具でしたのね」
「それは当然よねぇ」
「ミーアさんやエリオットさんに押してもらっていましたが、自分で動けるじゃないですの」
「その方が油断するだろう?」
そうですわね、もう!ミセスは再び〈修復〉術式を唱え、今破壊したばかりの鋼人形を直してしまいました。
ふりだしに戻ってしまいましたわね。んー……。
「クロ、まだ完成していないですが、あの魔術で勝負をかけようと思いますの」
『了解です。アレクサの思うままに。ですが、魔力はほぼ使い切ってしまいますよ』
「最後の突進用の魔力と、残りはスティングが槍を維持する魔力さえ残してくれれば大丈夫ですの」
(あい、まむ)
2人の了承を得て、わたくしはミセスに右手の槍を突きつけるように向けて宣言します。
「ミセス、次を最後の攻撃にします!
これが通用しなかったらわたくしの負けですの!」
ミセスはゆるりと頷かれました。杖を振り、〈魔術障壁〉にさらに魔力を供給されます。そして虚空より巻物を取り出して呟かれました。
「〈朧なる冬の亡霊〉」
ミセスの身体から冷気が噴出し、彼女の身体が霜に覆われていきます。氷霊系の最上位魔術の1つじゃないですかー!もー!
「いきますの、〈射出〉!」
わたくしの身体が再びスピードに乗ります。鋼人形や柱の間で〈弾み〉、〈蹴りだし〉ながら、わたくしとクロの魔力、そして髪の毛に蓄えた魔力のおよそ9割までをただ1つの術式のために練り上げていきます。
一本の柱に近づいた時、わたくしは後ろ向きになり、背中から柱にぶつかりにいきます。ミセスの灰色の瞳がこちらをとらえる中、にやりと笑みを見せながら、高らかに叫びました。
「〈複数のアレクサ〉!」
わたくしが接していない柱、残りの9本全てが掻き消えて次元の孔となり、そこからわたくしたちが出現します。
彼女たちは並行世界より呼び出したわたくし。クロとスティングは別人格なので召喚できませんので、なまこさんを連れておらず、あほ毛が伸びていません。ですがわたくしと揃いの白の魔術礼装に身を包み、金の巻き髪を揺らしながら拳を構えます。
ミセスの声がします。
「なんとまぁ、〈二重存在〉の類まで使えるとはねぇ。転移系というよりはもう時空操作系に足突っ込んでるじゃないか。たいしたもんだよ」
9人のわたくしたちが青い瞳をこちらに向けてわたくしに声を掛けてきますの。
「「「わたくしを呼び出したわたくし、御命令は?」」」
「ぶちかましますの!」
「「「了解、Go Ahead!!」」」
9人のわたくしたちがにやりと笑みを浮かべて全方位から鋼人形に襲いかかりましたの。2人がかりで1体の鋼人形に襲いかかり、完全な連携で息を合わせてそれを持ち上げると別の鋼人形に投げて衝突させます。そこをもう1人のわたくしが襲いかかって押さえ込んで拳を震い……。
さて、わたくしも行かねば。
「Go Ahead!」
ラーニョが糸を放ち、ミセスが手を振ると、地面は凍りつき、氷を纏って剣となった糸が無数の剣山の様にわたくしの進む道を塞ぎますの。
何人かのわたくしたちが鋼人形ごと氷に巻き込まれていきますがごく短時間のみの召喚ですからもう関係ありません。
鋼人形を打ち倒したわたくしたちの姿が消えていきます。
「〈空の道〉!」
わたくしは空中に道を作り、鋼人形を、氷の剣の上を走り抜けて、ミセスの正面に降り立ちます。そこをラーニョが飛びかかり前脚を振るいました。
「〈揺らし〉!」
わたくしは時空に衝撃を加え、身体を一瞬世界の理の外側にズラします。わたくしの身体をラーニョの爪が、脚がすり抜けてますの。
ミセスが吹雪をわたくしに吹き付けつつ、車椅子はひとりでに後退して行きますが……ここまで来たら!
「〈ジャックポット〉!」
右手の槍が伸びてミセスの身体を貫きましたの。必中・必殺の術式。槍は胸から刺さって、車椅子の向こうから先端が見えるまで貫きました。
「……ははっ、おめでとうねぇ、アレクサンドラ」
ミセスが唇を震わせます。
わたくしに貫かれたミセスの身体が光り輝き、無数の蝶が飛び散る様に掻き消えていきますの。手にされていた杖が地面に落ちてからりと音をたてました。
……は?幻影?魔力体?
わたくしが困惑していると、肩にぞっとするほど冷たい手が置かれます。手は空中に浮かぶ魔法円から伸びていますの。魔法円の向こう側から声がします。若い女性の声ですの。
「決闘はあなたの勝ちよ、アレクサンドラ。
あたしの化身を破壊するとは。……本当にたいしたものね」
魔法円が広がり、その中から女性が姿を見せます。亜麻色の髪を後頭部で束ねた灰色の瞳の女性、年齢は30歳程でしょうか。首からは恐ろしいほどの魔力を感じさせる首飾りを下げていますの。
「あなたは……」
「あたしがメリリース・ロビンソンよ」
うっそ、若いですの!え?娘さんとかではなく?
「勝利を祝福してあげるわ。〈冬の抱擁〉」
メリリースさんはわたくしを抱きしめました。
冷気がわたくしの身体に浸透していきますの……あ!この方も先ほど使っていた〈朧なる冬の亡霊〉の対象になっているということですわね?つまり、やはりこの方がミセス・ロビンソンであり、わたくしが戦っていたのは彼女の化身ということに?
わたくしはじたばたと逃れようともがきますが、魔力がすっからかんで、碌に抵抗もできませんの。
「なぜ……お若い……ですの?」
「ふふ、大魔術士が年齢通りに歳を取っていくと思ってた?あなただって似たようなことしてたじゃない」
〈永遠の若さ〉の術式……!しかしミセスの魔力量では使えるはずが……。
わたくしの眼に、首飾りがうつります。ああ、〈永遠の若さ〉を付与された魔道具を創られて……って国宝もいいとこですわねそれ!
『アレクサ……!』(まむ!)
クロとスティングの声が脳内に響きますが答えられません。
冷気により思考と身体の自由が奪われ、わたくしは意識を落としました。
ただ、意識が落ちる直前、サイモン校長の声が聞こえます。
「勝者、アレクサンドラ!」
━━ <4章クライマックス終了です!
ξ゜⊿゜)ξ <……これ決闘は勝ちですの?
━━ <決闘開始時に杖持った存在を消滅させてるのでアレクサの勝ちですよ。
ξ゜⊿゜)ξ <何か試合に勝って勝負に負けてる感が……!
━━ <その辺はエピローグでですね。
ξ゜⊿゜)ξ <ぐぬぬ。
5章、最終章はちょこっと間空くかもですが引き続きよろしくお願いします!
ฅξ˚⊿˚)ξฅよろですのー!
━━ <ついでにポイントもねだる!媚びる!
ฅξ˚⊿˚)ξฅよろですにゃーん。
━━ <よろしくお願いしますー。




