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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第1章 118年12月~使い魔の来た日常
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第8話 ぐらんま・みーつ・なまこ

 わたくしは夕食を終えて部屋に戻り、クロに金魚鉢に移動してもらうと、それを抱えて1階の奥の部屋へと向かいました。



 寮長であるミセス・ロビンソンにお会いするためです。



「失礼します。こんばんは。ミセス・ロビンソン」


「こんばんは。ミス・アレクサンドラ。呼び出してしまってごめんなさいね」



 ミセスは暖炉の前、揺り椅子の上に座っておられます。



 暖かそうなケープを羽織り、ゆるやかに揺れながらこちらを優しそうな瞳で眺めています。



「いえいえ、とんでもありませんの」


「こちらへいらっしゃいな。……それで、早速だけどもあなたの新しいお友達を紹介していただけるかしら?」



 わたくしはミセスの前、暖炉の傍に置かれて暖かくなった椅子に座ると、ティーセットがキッチンから飛んできます。



 ミセスの〈騒霊〉によって高い位置にポットが浮かび上がり、カップに紅茶を注ぎます。ダージリンの(マスカテル)(フレーバー)が鼻孔をくすぐりました。



 わたくしは、それを気にしつつもクロの入った金魚鉢を抱えて前に差し出します。



「はい、こちらはクロ。わたくしの使い魔のなまこさんです。クロ、こちらは寮長のミセス・ロビンソンですわ」



 クロは〈精神感応〉の対象をミセスにまで拡大します。



『こんばんは、ミセス・ロビンソン。わたしはクロ、アレクサの使い魔となったものです。お会いできて光栄です』



 ミセスは微笑みながら金魚鉢の中のクロを覗きこみます。



「こんばんは、礼儀正しいなまこのクロさん。わたしはメリリース・ロビンソン。ディーン寮というこの建物の寮長をやってるのよ。と言っても大した仕事がある訳ではなくて、だいたいここで一日中のんびりとしているのですけどね。わたしもあなたのことをクロと呼んでも良いかしら?」


『ええ、勿論』


「ではクロ、あなたについて尋ねたいことがあるのだけどもよいかしら?」



 クロからは少し緊張したような思念が伝わってきました。



『ふむ、例えばどういったことでしょうか?』



 ミセスは口を湿らせるように紅茶をほんの一口飲まれました。わたくしも紅茶をいただきます。



「そうね……あなたの正体とか?」


『……人間の定義に従えば、動物界、棘皮動物門、ナマコ綱楯手目、クロナマコ科、クロナマコ属のニセクロナマコ(Holothuria Leucospilota)ですね』


「わたしは申し訳ないことにあなたたちなまこについて詳しくないのだけれども、わたしが知る限り、なまこは〈精神感応〉を使えないと思うんだけどねぇ」


『……うにょうにょ、ぼくわるいなまこじゃないよ。……では通らないだろうか』



 クロが体を捩りながら無害さをアピールしている様子です。



 ふふふ、可愛いですわね。でもちょっとそれでは通らないのではないでしょうか。



「クロ……それは難しいのでは?」


「まだ会ってから少し言葉を交わしただけだけど、悪いなまこではないと思うわ。でも普通のなまこでもないわねえ」


『わたしもミセス・ロビンソン、あなたが悪意ある人物ではないと思う。〈精神感応〉でつながっている以上、確信できるといってもいいだろう』


「ありがとうね」



 クロがゆっくりとこちらを振り返ります。



『だが、わたしは今日、ほんの数時間前に我が主、アレクサと契約したばかりだ。主たる彼女に対してわたしについてまだ語ってないのに、それを先んじて貴女に伝えるのは主たる彼女に失礼であり、不義であると思うのだがどうだろうか』



 ミセス・ロビンソンは驚きを顔に浮かべ、こちらを見ました。



「はい、わたしはクロのことをなまこであるとしか知りません。契約の時から魔法を使っていたので、古代なまこや上位なまこといった存在なのかなと思っていた位です」



 ミセス・ロビンソンは金魚鉢をのぞき込むように身を乗り出していましたが、ゆっくりと姿勢を元に戻しました。揺り椅子がミセスの体を僅かに揺らします。



「……なるほど、わたしが性急に過ぎたみたい。ごめんなさいね。でもわたしの寮長という立場として、あなたが危険な存在であるか否かを見極める必要があったのはご理解いただけるかしら?」


『ええ、家の(House)女主人(Mistress)というからには庇護下にある子供たちを守る義務が生じるであろうこと、理解できます。わたしの力に警戒することも』


「まあ、大事なのは力よりも精神性ね。力について言えば、わたしやアレクサンドラだって十分に危険と言えるだろうしねぇ。クロ、あなたは我を忘れて暴れるようなことはまずなさそうだわ」


『ええ。この世の海の全ての生き物に聞いたところで、暴れるなまこを見たことがあるものはいませんよ』



 ミセス・ロビンソンは面白そうにまなじりを緩めると、わたくしに顔を向けて言いました。



「いいでしょう。クロがディーン寮に住むことを改めて許可します」



 わたくしは金魚鉢をぎゅっとだきしめました。



「ありがとうございます。良かったですわ、クロ」


「ただし、アレクサンドラには課題を与えようね。明日までに〈鑑定(Identify)〉の巻物(Scroll)を用意しておくから、それでクロについて調べなさい。わたしが知る限り、上位なまこなんていう生き物はいないからねぇ」


「分かりましたわ。こちらで調べなくてはならないところ、巻物を用意していただけるとはありがとうございます」


「何、大した手間ではないからね」


「……そう言い切れる術者は少ないと思いますが」



 ミセスが用意しておくという場合、だいたいこれからそれをミセスが自身でお作りになることを意味してますの。



 超一流の付与魔術師は流石に言うことが違いますわ。〈鑑定〉の巻物なんて一朝一夕で作れるような簡単なものではございませんし、買えば値の張るものですのに。



「さて、夕食後に呼び出してしまって悪かったねぇ」



 このあと、ミセスとはちょっと遅めのお茶会を楽しませていただきました。



 まあ、夕食の際に魔力を放出したのは当然ばれていましたし、ちくりと注意されましたの。ただ、後期の魔法戦闘訓練の授業への参加は許可いただけましたわ。

この世界における紅茶について


特に作中で表現する気もないので、ここで設定吐き出し。

読み飛ばしていただいて結構です。


アジアが魔界と化した設定なので、インドも中国もありませんから、ダージリンもアッサムもキーマンもウバもないのです。


ヨーロッパでは気象条件が合わず、ほとんど茶の木は栽培されていません。亜人たちの住む大陸(New Continent:現在のアフリカの位置)からの輸入に頼っています。


作中にもダージリンとありますが、これはベンガル地方の原木を、似たような気象条件、地味のところに移植したものをダージリンと呼称したものです。同様に移植された上記のような有名なブランドは残っています。味もそこまでは変わらないので、作中のようにマスカテルフレーバーという表現などは残ってます。


ξ˚⊿˚)ξ <これはセイロンティーですわね!


目利きは合っていても、セイロン島で産出されたものではない的な。


王国への輸入の主要ルートはイベリア半島経由で陸路か、沿岸部を船で北上です。


最高級品は王国がエルフに作成を依頼したもの。あえて地味の低い岩山という過酷な環境におかれ、そこにエルフの固有植物系統の呪術による〈植物祝福(Bless Plants)〉をかけられて栽培された樹。岩茶(Rock Tea)の中でも紅茶に適した樹齢の高い樹であり、特にそこからシルバーニードルを採取した場合。


多分、年にポット1杯分みたいな生産量で、現在の価格に換算すると1杯で数千万円~億って価格になると思う。


この最高級茶葉のシルバーニードルを特別にミスリルニードルと呼ぶというと、ファンタジー感増量。

多分名前が英語だとRoyal Elven Rock Tea, Mithril Needleとかそんな感じ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うにょうにょ、私悪い火星人。 とかでも使えますか? [一言] 紅茶に詳しいんですね。コーヒーも紅茶も好きですがあまり詳しくないので勉強します。
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