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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第4章 119年2月末~魔術決闘訓練模範戦
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第68話:騎士団

 いやぁ、最近忙しくて更新遅れてごめんなさいねぇ……。

 次は1週間以内になんとかしますー。

「〈騎士帽子〉解除」


(ろじゃー、あうと)



 髪の毛がするすると元の位置へと戻ります。〈浄化〉術式で砂埃を落としました。

 わたくしはとぼとぼと元の位置まで歩いて行きますの。

 さすがに筋繊維がかなり断裂してますわね。……クロの力で端から治っていきますけども。

 良いこともありましたの。服や靴が破れてませんわ!

 ……魔術使って全力で走って、靴が壊れなかったのは生まれて初めてですわね。



 大きな岩にはわたくしサイズにくり貫かれた穴があいております。うーん。

 何となく岩を軽く蹴ってから戻りますと、第六騎士団のみなさまが拍手と歓声で迎えて下さいます。



 彼らの顔には驚愕や興奮、あるいは賞賛。

 ヤーヴォ君が全力で拍手してくださるのを見て心が痛みますの。うう、立ち止まれなかっただけですのに。



「とまあ、こんな感じですのー」


「5秒でしたな。正確には5.1秒」



 イアン副長が言われます。

 おおっ、とさらにどよめきがおこりますの。



『お疲れさまです、アレクサ』


「ガゥ」



 クロがわたくしの横へと浮いてきて、義兄様がわたくしの身体を上から下まで視線をやって唸りますの。



「ええ、ありがとうございます、クロ。

 義兄様、身体を傷めはしましたが、もう治った程度ですのよ。心配いりませんの」


「ぶつかってお怪我をなされましたか!?」



 ヤーヴォ君が心配そうに言いましたので、首を緩く横に振ります。



「いえ、岩や柵や樹にぶつかったことでのダメージはありませんのよ。

 ちょっと自分の速度に身体が耐えきれていないというか、全力で走ると筋肉を傷めてしまいますのね。それも、再生能力でもう治っている程度なので大丈夫ですわ」



 ヤーヴォ君はほっとした様子を見せました。イアン副長が眉をひそめます。



「人類の言葉とは思えませんな」



 ……言われてみるとそうですわね!



「まあ、高位の肉体強化系魔術師とはこういうものですの。

 ただ、わたくしの肉体だと、地上走行なら恐らく200m5秒切るかどうかあたりが限界ですわね。

 結構肉体にダメージ入りますし、戦闘機動取れるかどうかだとやはり100m3秒くらいが目安になるのではないでしょうか」


「地上走行なら?」



 イアン副長が続けて尋ねてきます。

 ふむ、これはちょうど良い機会ですわね。彼らにポートラッシュの、あるいはわたくしの戦術の理念を一端だけでもお伝えしておきましょうか。



「飛行能力があればもっと速く移動するのは可能ですの。飛行術式とか、箒とか。

 わたくし、飛行術式はあまり得意ではありませんの。それでもやろうと思えば今のより速く飛ぶこともできますわ」


「ではなぜ飛ばずに走るのですか?」



 わたくしは指を2本立て、第六騎士団のみなさまに話します。



「2つの理由がありますの。

 飛行能力は、高度優位をとって上から下にものを落とすだけでも強いのです。極めて有用ですわ。

 ただ、高速飛行は諸刃の剣ですの。〈空気の(Wall of)( Air)〉とか〈乱気流(Turbulence)〉とか使われると……一気に墜落してしまいますから」


「ふむ……しかし、地上でも例えば〈石の(Wall of )(Stone)〉を使われたら……」



 イアン副長は言葉を区切ると、わたくしが突っ込んだ岩の方を見て続けましたの。



「……貫かれてますな。

 あー、では〈泥沼(Bog)〉を使われたり、落とし穴があったりするのでは?」


「もちろん。避けるのです。跳び越えるのです。〈跳躍〉術式を使うとか。

 あとみなさん、1つお伝えしますね。単純な走行速度が大切なのではありませんの。その速度で戦闘機動ができるかです。戦闘機動とは切り返しです。

 今のように余力無く全力で走っていると、横への移動ができませんわ」



 わたくしは岩の方を見ます。

 みなさまも見ます。



「ええ、体格が変わったのもあり、思ったより速度が出てしまったのもあり……避けられませんでした。

 戦闘中の突撃は、回避しながら前に進み、相手の裏を取るような動きもできないといけませんの。

 ちなみに飛行術式だと、旋回半径というものが必要となり、不規則な機動はできません。その点では、地面を蹴って方向を変えられる走行の方が優れてますわ」



 立てていた指を1本下ろします。



「なるほど……。もう1つの理由とは?」


「突進を除いて人類の戦闘行動は地を蹴る、地を掴むことが前提ですのよ。

 空中で相手を殴っても、自分が後ろに吹き飛んでしまい、ダメージは大きく減ってしまいますの。弓だって空中では放てませんのよ?

 わたくしのように、突進後、即座に白兵戦に移行することを考えると飛行はあり得ませんわ」


「……やべぇ、話してる戦闘のレベルが高度すぎる」



 騎士団のどなたかが呟きます。

 ふむ。まあ、その通りではあるのですけどね。



「あなたたちもそうなれ。と、言ってますのよ。

 頑張ってわたくしに追いついて下さいましね?」



 みなさま全力で首を横に振られます。ふふん、まあそうですわよね。ですがそれでは困りますの。

 わたくしは大きく息を吸い、声を張り上げました。



「諸君!」



 みなさま、びくりと震えます。



「諸君!

 まだ戦士たり得ず、まだ騎士たり得ぬ諸君!

 守られるべき一般人よ!」



 第六騎士団のみなさまの顔に朱が差します。



「悔しいか!怒りを感じるか!」



 応!と怒号があがります。



「……でもそれが事実ですの。

 諸君が幾度襲い掛かろうとも、わたくしや、レオ義兄様の身に寸毫ほどの傷をつけることも叶いません」



 彼らの前を歩き、一人一人顔を覗き込んでいきます。彼らの顔に悔しさが滲んでいるのを見ます。



「……それはなぜか。

 わたくしが、アレクサンドラ・フラウ・ポートラッシュが戦士だからです。アイルランドの地より、全ての魔を駆逐すると誓った戦士だからです」



 レオ義兄様の前に立ちます。わたくしが右手を斜め下に突き出すと、彼は跪きました。片膝をつき、わたくしを見つめます。

 『姫様と騎士ごっこ』の頃の騎士の誓いのポーズ、まだ覚えてくれてますのね。



「それはなぜか。

 レオ義兄様が、レオナルド・ポートラッシュが騎士だからです。全てを神に捧げても、わたくしを守ると誓った騎士だからです」



 2月の冷たい風が沈黙の中を吹き抜けます。



「騎士イアン」


「はっ」



 イアン副長も地に片膝をつきます。従者ヤーヴォはその横で両膝をつきました。



「汝はブリテンの騎士なれど、第六騎士団の解散に伴い、その地位は、誓いは失われた。相違ないか」


「はい、相違ありません」


「なれば諸君、かつて第六騎士団であった諸君。

 汝らは全て、戦士でも騎士でもない」



 みなさまに向けて手を伸ばします。1人2人と膝をつき、立っているのはわたくしのみになりました。

 宙にたゆたうクロの方をちらりと見ます。



「我が主にして従たる古代神クロの名の下に、アイルランド辺境伯継承者たる戦士アレクサンドラが諸君らに問う。

 汝らは戦士たらんや、騎士たらんや?」


「騎士たらんと欲す」



 イアンさんがそう言うのを皮切りに、みなさん口々に騎士と声にします。



「では、騎士たらんとする諸君、誓え。

 汝らの忠誠は何処なりや?

 ……ブリテンか、ブリテン王か?」



 沈黙が満ちます。



「神々か?22柱の人類守護神か、失われしYHVHか、古代神か、その他の超越者を奉ずるか?」



 答えはありません。



「まだ見ぬアイルランドの地か、アイルランドの民か、アイルランド辺境伯たる我が父ブライアンか?」


「世界の防人たるアイルランドの民に」



 イアンさんが答えます。わたくしは頷きました。



「ヤーヴォ、汝が忠誠は?」


「イアン・ノースレイクが立派な騎士であるなら、その従者として忠誠を誓わせて頂く許可を!」


「許す」



 はいっ!とヤーヴォ君が答えるのを聞き、再びみなさまに向き直ります。



「他の諸君はどうか?わたくし、アイルランド辺境伯継承者たるアレクサンドラか?」


「グオオォォォォーッ!」



 義兄様が吼えて肯定の意を示します。



「我が騎士、レオナルドか?」



 みなさまからぽつぽつと、応とかはいと肯定の言葉や、頷きが返り、だんだんその数が増えていきますの。

 ふむ。



「ヒギンズ伍長」


「はっ!」



 ヒギンズ伍長が立ち上がります。



「先ほど、わたくしの親衛隊などと言っていたが、わたくしに忠誠を誓わず、レオナルドに忠誠を誓うのはなぜか答えよ」



 彼は視線を少し彷徨わせてから、わたくしを見つめて答えました。



「口下手で上手く言えねえんですけど……。

 アレクサンドラ様に感謝しているのは……多分全員がそう思ってますし、会ったばかりですけどアレクサンドラ様のこと全員が好きなんだと思います。

 でも、忠誠ってーと……。なんか違えなと」



 わたくしは頷きます。



「問題ない。続けよ」


「俺たち、あー、イアン副長とヤーヴォ坊は違いますけど、ほんとどうしようもないクズばっかなんです。殺しやら盗みやら恐喝やら詐欺やって捕まったのばかりでして。

 アレクサンドラ様、俺たちのこと守られるべき者と言われましたが、守る価値もない奴らなんです。

 でもそれがアレクサンドラ様から見て、ちったあまともになってるように見えるんだったら……、それってレオナルド団長のお蔭なのかなと」



 ヒギンズ伍長の言葉にみなさま頷かれますの。



「皆もそうか?」


「「「応!」」」


「良かろう。なればこの時を以て、汝らは守られるべき者では無く、騎士である。

 我が義兄、レオナルドに忠誠を誓う騎士団と言うなら、こう名づけよう。

 翠獅(The Order )(of the)騎士( Emerald)(Pride)と」

レオ義兄様に関する英単語うんぬん。


 レオナルドのスペルはLeonardo。

 本来の英単語としてはLeonardであり、レナードと読むのが正しいのですが、日本人はこれもレオナルドとよく読んでる問題。


 アレクサがレオナルドをレオ義兄様と呼んでますが、レナードだとレオ義兄様って愛称がぱっと浮かばないですよね。

 強いもののイメージを名前に入れたかったんですが、レオって言っとかないと獅子ってわからんだろうというのもあって、イタリア語っぽい読みのレオナルドに敢えてしていました。


 レオナルドのがレナードより格好いいと思うの。


 まあ、レオナルド・ディカプリオだってイタリア系アメリカ人でLeonardoだし、有り得なくはないよね。


 ちなみにドイツ語だとレオンハルトになって強そうですよね。


 レオナルドのLeoはラテン語系で獅子で、英語だとLion。ライオンの元となった単語。

 英語でも獅子座はLeoですよね。


 アレクサが騎士団の名前を、『翠獅子騎士団』、

The Order of the Emerald Prideと名付けてます。


 Orderが騎士団ね。修道会とか魔術結社もオーダー。

 ハリーポッターで不死鳥の騎士団って巻がありますが、……騎士いないじゃん!と日本の読者は怒って良い。

 あれ、Orderの誤訳なので。

 まあ、不死鳥結社と名付けられても、結社って何だと子供が分からないだろうし、意図的な誤訳だろうと思いますけどね。


 Prideがマイナー単語。誇りとか傲慢とかの意味はご存じでしょうが、これ一単語で実は『獅子の群れ』を意味します。

 騎士の誇りと獅子の群れの意味をかけたんだよっていう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで英語のルビを一切読まずに日本で読んでたけど、スイジシキシダンでいいのかな。舌かみそう。
[一言] なんか泣きそうになったんだけどなんでだろ 皆さんかっこよすぎなんですが
[一言] この世界のキリスト教は、失伝したのではなく、捨てられたのでしょうか?
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