第61話 なたりーのまほー
ξ゜⊿゜)ξ <みなさま、ブクマ、評価、感想とありがとうございますのー!
━━ <ここから四章スタートです!改めてよろしくお願いします!
ξ゜⊿゜)ξ <だけど今回、わたくしたちの出番が無いという。
━━ <ライブラにいる間の、学校のシーンですね。
ξ゜⊿゜)ξ <…………ヒマですの!
━━ <ラグビーでも見ましょう。今からアイルランド戦やりますよ(2019/09/22)
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アレクサとその義兄レオナルドさん、サイモン学長と秘書官のエミリーさんが乗った馬車の列が校門を抜けて東へと向かっていくわ。
「では行ってきますのよ!」「ガルル」
アレクサが窓から手を振り、わたしたちも手を振り返します。
「気をつけてー」「いってらっしゃい」「お土産よろしくね!」「ルシウス一発殴ってきてね!」「あ、わたしの分も!」「おねえさばーおぎをつけてー!」「泣くなし」
皆でアレクサを見送り、寮へと戻ります。
「はいはい、ナタリー涙を拭いて」
「グリズ先輩ありがどうございばずー……」
わたしの差しだしたハンカチで涙を拭うナタリー。全くもうこの子は……。
「今生の別れって訳じゃないんだからさぁ。
ナタリー、後で買い物でもいくわよ。付き合いなさい」
今日は休みだしね。ほっとけばナタリー、一日メソメソして過ごしそうだし。
どうせ甘い物でも食べれば元気になるんだから。
……ええ、案の定元気になったわ。セーラムの街を連れ回して、カワイイ服や雑貨見て、買い物袋を抱えさせて喫茶店『アメディア』に。
暖房の効いた店内でたっぷりジャムとクロテッドクリームの乗ったスコーンに紅茶。ティーカップの紅い水色が明るい駱駝色に染まる程度にミルクを注ぎ、わたしは砂糖を1つ、ナタリーは2つ。
スコーンをティーにひたして口にする頃にはもうご機嫌よね。顔がほころんでるわ。
「どうなのよ。元気は出たかしら?」
「はい。クリス先輩、ありがとうございます」
ナタリーがちょっと恥ずかしそうに頬を染めて頷きます。
「ナタリーもアレクサとちょっと離れるからと言って、いちいち号泣するから。心配しなくても戻ってくるわよ」
わたしの言葉にナタリーが胸を張ります。
「わたしともなれば、アレクサお姉さまのことは、どれだけ離れていても分かるんですよ。……でもそれはそれとして心配なものは心配ですし、寂しいものは寂しいんです」
「はいはい」
「む、お姉さまのことが分かると信じてませんね!?」
そりゃあね。わたしが黙って紅茶を啜ると、ナタリーは何やら集中し始めたわ。
「むー……お姉さまは今、馬車の中ですよ!」
「そりゃあそうでしょうよ」
今日は日が暮れる頃までは馬車で走ってるでしょうしね。
「むー、お姉さまお姉さまお姉さま……」
ナタリーがそう呟き、集中すると、大きな魔力の放出が感じられ、ナタリーの体が大きく傾ぎます。
「ちょっと!〈魔力譲渡〉!」
咄嗟にナタリーの手を取り、体を支え、魔力を譲渡しました。結構な魔力がもっていかれたわ。
ナタリーはそれに気付いてもいないかのように叫びます。
「レオさんの膝の上に乗ってますよ!」
……本当かしら?
寮に戻ったあと皆と相談します。
「……て訳なんだけど」
イーリー先輩が興味深そうに紙を持ち出し計算を始め、答えてくれました。
「まあ、ナタリーの妄想の可能性もあるけど。というか、その可能性が高いけど。
もし、それが合ってたとしたら。この子、魔術師じゃなくてガチの方の魔法使いじゃない」
「えっと、どういう違いだっけ」
イーリー先輩が断言し、スーザンが首を傾げます。
「あれよ、今わたしたちが体系だった学問として学んでるのが魔術でしょ。
魔法使いってのは、大体は魔術学校卒業してない魔術師への蔑称だけど、本来は魔術で再現できないレベルの魔法を使える者の事を言うのよ」
「〈遠隔視〉系でしょ?魔術じゃないの?」
「あなた、アレクサが今どこにいると思ってるのよ」
横で話を聞いてたドロシアが口を挟みます。
「どこってライブラ……あっ!」
イーリー先輩が計算した紙をひらひらとさせて言いました。
「そういうこと。まあ、まだライブラじゃないけど、今日はアスコットに宿泊って言ってたから移動距離が100km、ナタリーがアレクサの姿を見たという時間帯から考えて、70kmは進んでないとおかしいわ。
ナタリー個人の魔力、それにクリスティを加えたとしても絶対に届く距離じゃない。しかも相手の許可とってリンク作ってる訳でも無く無詠唱でしょ?」
……だとするとスゴい事なのでは?
ちなみに、魔法使いであると公的に認められている生徒は学校に一人もいないわ。
アレクサが入学当初、そうなのではないかと言われてたけど、あれはバカ魔力でゴリ押してるだけという結論だったのよね。
いや、その魔力はスゴいんだけどさ。
再現実験を行うことになったわ。
ディーン寮や学園には結界があるので、転移や知覚系術式で抜けないこともないけど、消費魔力や難度は跳ね上がるとのこと。明日また『アメディア』で行うことに。
手順はこう。
ナタリーに〈遠隔視〉系の魔術だか魔法だかを使って貰い、それを証拠として残すためイーリー先輩が〈思考転送〉。モイラ先輩がそれを〈念写〉で書き写す。
ドロシアにも来て貰ったわ。〈魔力譲渡〉要員ね。今日はライブラにいるはずだから、距離が昨日の倍。魔力消費が跳ね上がってもおかしくないもの。
『アメディア』の個室を予約して、椅子に座るナタリーとモイラ先輩。真ん中に立って、2人の頭に手を置くイーリー先輩。ナタリーの後ろに立って、魔力を供給する準備のドロシア。
モイラ先輩の前には魔力感応しやすい、羊皮紙にグリフィンの羽根ペンと虹色インク。冬至祭のプレゼントのやつね。
わたしも不測の事態に備えて魔力を活性化させておきます。
……どう見ても怪しい集団ね!
「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さま……」
怪しく呟きながら念じるナタリー。暫くするとナタリーの身体から魔力が大きく放出されます。
「〈魔力譲渡〉!」「〈思考転送〉」「〈念写〉」
ナタリーの後ろからドロシアが魔力を渡し、ナタリーの脳内のイメージをイーリー先輩、モイラ先輩と渡していきます。
「えっ!?」「は?」
ナタリーとイーリー先輩が疑問の声を上げ、モイラ先輩がペンを動かしはじめました。羊皮紙の上をペン先が走る音が部屋に響き始め……。みんながその手元に注視します。
ん、男性……。あ、レオナルドさんね。もう1人……。こちらも筋骨隆々とした……。
っていうか服は!?
腰巻き1枚の姿のレオナルドさんが、騎乗用下着1枚だけを履いただけの姿の美丈夫に襲いかかるような、抱きつきにいってるような姿が……。
モイラ先輩はさらにペン先をペン壺に浸し、魔力を通し……、あ。色もつくのね。
モイラ先輩が何度も魔力を活性化させて〈念写〉を維持しているので、わたしはそっとモイラ先輩に〈魔力譲渡〉しておきます。
騎乗用下着が紫!……うわ、凄い。というかモイラ先輩?股間の陰影の描き込みが精密過ぎるんだけど?
「破廉恥ですわ!何やってるのあの子!」
ドロシアが叫びます。
ぽたり。と言う音。モイラ先輩の鼻から血が。
ペンを羊皮紙から離すと、ぐっと目に力を込め、私たちを眺めます。
「……この絵、……後で……貰ってもいいかしら」




