第60話 ばいばい・らいぶら
第3部エピローグですのー。
わたくしの声に、ジャスミンの身体がぴくりと反応します。
ゆっくりと目が伏せられ、そして再び開いてこちらを見つめました。わたくしは尋ねます。
「カルミナージィアか、ジャスミンかどちらですの?」
「……ジャスミン……フォンテーンです。
アレクサンドラ様には、誠に申し訳……」
わたくしは言葉を遮ります。
「全くですの。ですが謝罪は不要。あなたは命という代償をもう払っていますからね。
言葉を放つ力が僅かでもあるなら、ルシウスにでも語っておやりなさいな」
ジャスミンは涙をこぼし、微かに頭を下げます。
まったく、わたくしもお人好しですのよ。
ジャスミンをそっと横抱きに抱えると、〈空中歩行〉で先ほど飛び出した窓から部屋に入ります。
焼け焦げた窓を潜ると、触手の塊が。
『お疲れ様でした、アレクサ』
「ありがとう、クロ。助かりましたの」
『いえいえ、もう戦闘は終わりですか?
ではこの身は帰してしまいますね。憑依解除、〈送還〉』
わたくしが頷くと、触手がうねうねと震えて、その姿がこの場から消えていきます。
どさりと崩れ落ちる銀翼騎士団の皆さんと、未だ放心しているルシウス。
わたくしはジャスミンをベッドに横たえ、血塗れの彼女の身体に〈鎮痛〉、〈再生〉、〈浄化〉をかけますの。
身体にかけていたわたくしの服をはぎ、裸身を確認します。形だけでも傷口は塞がり、痛みを堪えて浮いていた汗も止まります。
枕元にあったタオルで裸身を拭い、布団を掛けました。
「さよならですの、ジャスミン。いまルシウス連れて来るので、ちょっとお待ちなさいな」
「ありがとう……ございます……」
ジャスミンは瞳に涙を浮かべ、こちらを見送ります。
わたくしは軽く手を振ってその場を離れると、ルシウスの元へ。彼の服の首元を掴んで引き摺り起こし、声を掛けました。
「ルシウス殿下?」
反応がありません。
これは、気付けにぱーんと叩いても許されるヤツですわね。
「起きて下さいまし、殿下?」
ゴキッ。
……おっと、ビンタのつもりが思わず掌底に。
首があらぬ方向を向き、気を失われてしまいます。
位置を直して……。
「……〈治癒〉……〈覚醒〉。
おはようございます、殿下」
「あ、アレクサンドラ?な、何を?」
最初から〈覚醒〉使うべきでしたね。さておき、そのままベッドの元へと連れて行き、ジャスミンと対面させますの。
「急ぎ最期の別れをなさい。残された時間はごく僅かですのよ」
「ジャスミン……!」
「ルシ……ウス様……」
「あぁ、わたしが判るかい、ジャスミン……」
わたくしは踵を返し、その場を離れます。
クロから思念が飛んできますの。
『お優しいことですね、アレクサ』
「わたくし、ジャスミンやカルミナージィアのこと、嫌いではないですのよ。
ルシウスはちょっと……アレですけど」
『ほう』
「弱者が強者を倒すのに策を練るのは当然ですし、カルミナージィアも〈魅了〉を使わずにルシウスを奪い取ってるのですからね。わたくしが女としての戦いで負けただけですもの。
……まぁ、魔族なので相容れはしませんけどね」
『なるほど』
わたくしは銀翼騎士団のみなさまの元へ。
座り込むヒルデガルド卿の手を握り、立ち上がらせます。
「ああ、アレクサンドラ様お助け下さり感謝致します」
「いえいえ、当然ですの」
ヒルデガルド卿はぶるりと身を震わせます。
「あぁ……魔族とはなんと恐ろしい。わたしの精神が侵蝕される感触。おぞましき触手に身体をまさぐられる感触」
「んん゛っ。……無事で良かったですの」
あれがわたくしの使い魔のせいであることは秘密にしておきましょうね。
「さあ、みなさん。凱旋ですのよ!」
結局、その夜と翌日はライブラで一日ばたばたでしたの。
まずは王へと報告がなされるのに同席、ルシウスもちょっとはマシな顔になりましたか。
サイモン学長から、ルシウスと、拘束しているダニエルと、死んだキースの退学。ダニエル、キースの遺体の搬送の手続も行われます。
そして、ルシウスの廃嫡手続にも同席。男爵として南部の小さい村の統治を任され、実質的にはその地域からの移動を認めないという流罪に近い扱いとなりました。
「ルシウス殿下。……いや、ルシウス。
ジャスミンとは言葉を交わせましたの?」
「ありがとうございます。レディ・アイルランド。
僅かではありましたが。最期の時間を下さったこと。そのご慈悲に、感謝いたします」
まあ、良かったですわね。
さて、もうこれで、わたくしと彼の人生が交わることはないでしょう。
「さよなら、ルシウス。
……わたくしの夫となるかもしれなかった人」
ルシウスが深く頭を下げるのを、その横で王も頭を下げるのを見て、その場を去りました。
後は細々と雑務ですわね。
あ、そうそう新たな財務大臣からは、今回の賠償金についての説明がありました。第六騎士団の3年分の活動費から抜かれていた分と、わたくし用の予算から抜かれていた分。目の回るほどの金額ですが……これが着服されていましたのねぇ。それに加えて慰謝料として先の3年分の第六騎士団とわたくし用の予算なのでこれが倍になると。うわぁ……。
そのまま持ち帰ることのできる金額ではありませんし、王家としても一度に払えるものでも無いとのことで、分割で毎年アイルランドに送金するという契約をいたしましたの。
今回の第六騎士団の支払われていなかった予算をとりあえず1年分貰いました。うはー、それでもトランク一杯の金貨が2つですのよー!
後でイアン副長に見せたら泣き崩れられましたの。
義兄様と一緒に第六騎士団の宿舎へと向かい、荷物を纏め移動の準備。
特に準備のいらない暇なわたくしは義兄様と下町回って、肉を牛一頭分と酒を樽で買い付けましたの。
ええ、今度は騎士団のみなさまが泣き崩れましたのよ。
さあ、そして翌朝。
宿から再び騎士団の宿舎へと向かい、酔って雑魚寝している騎士団のみなさまを叩き起こします。
「さあ、サウスフォードへ、セーラムの町へ向けて出立ですのよ!」
さて、やっと帰れますが、クリスもナタリーも、寮のみんなは元気かしら?
ξ゜⊿゜)ξ <第3部終了ですの!
婚約破棄ネタはなろうの一大イベントというのもあるけど、長引いたね。
ξ゜⊿゜)ξ <婚約破棄ネタと言いながら、最後プロレスネタだったのでは?
そういう作品があってもいいじゃない!
ξ゜⊿゜)ξ <そうですわね!
はい、と言うわけでそんなテンプレなんだかなんだか良く分からないなまこ×どりるにみなさま愛のブクマ、評価、感想などなどよろしくお願いします!
ξ゜⊿゜)ξ <毎回恒例おねだりタイムですのね!
よーろーしーくー。
ξ゜⊿゜)ξ <よーろーしーくーでーすーのー。




