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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第1章 118年12月~使い魔の来た日常
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第6話 婆様は魔女

ξ˚⊿˚)ξ <寮長のお婆様視点ですの!

 暖炉の前の揺り椅子に腰かけ、ゆっくりと皺だらけの手を動かして手元のハンカチに名入れの刺繍を終え、糸を留めて鋏を入れました。



 鋏を膝の上に置き、両手でハンカチを広げて魔力を通します。しっかりと刺繍した虹色の蝶が羽ばたくのを確認してから丁寧に折りたたんで赤い袋に仕舞いました。



「おいで、〈(Polter)(geist)〉」



 生地の山の中から緑色のリボンが飛んできて、袋をラッピングします。膝の上の鋏を取ってリボンを切ると、余ったリボンは生地の山の上に、袋はすでに出来上がっていた袋の山の上に重なるよう飛んでいきました。



 ティーカップがポットの元へと駆け寄り、ソーサーはわたしの手元に飛んできます。ポットが気取った動きで高いところからカップに紅茶を注ぎ、ミルクとシュガーが入れられ、キッチンから飛んできたティースプーンがそれをかき混ぜます。ゆっくりと紅茶が浮かび上がり、水面を揺らすことなくわたしの手元のソーサーの上に乗せられます。



 キッチンからジャムとスコーンが飛んできますが……、



「今日はスコーンはいらないわ。ありがとう」



 ジャムとスコーンは残念そうにUターンするとキッチンへと戻っていきました。



「〈騒霊〉解除。ありがとうね」



 ミルクティーを口にします。



「……ふぅ」



 細かい作業に集中していた体をいたわるように紅茶が染みていくのを感じます。



 50枚。冬至祭の贈り物のハンカチの刺繍が終わりました。生徒用が48枚と、寮母のミーアのものと、自分用のもの。



 今日は前期期末試験の最終日、来週はもう冬至祭ですか。時が過ぎるのも早いものね。



 窓に目を向けると、冬の太陽はもう地平線に沈みつつあり、葉を落として冬支度を済ませた庭の木が、わたしの足元までまだらな影を伸ばしていました。



 わたしはメリリース・ロビンソン。ウェストフォード全寮制魔術学校のディーン寮の寮長をやっているお婆ちゃんです。



 わたしが遅めのアフタヌーンティーを楽しんでいると、寮の玄関の方で魔力の気配がします。生徒たちが戻ってきましたか。



 今日、4年生は召喚術の試験で使い魔の契約を行っていたから、見知らぬ気配がするわね。うちの寮にいる4年生の8人、皆が成功していると嬉しいのだけれど。



 日がすっかりと落ちました。そろそろ門限でしょう。



「〈魔力(Sense)感知(Magic)〉」



 ……生徒48人は全員揃っているみたい。みんないい子。



 うーん。昨日まで感じなかった気配が4つ増えているわね。位置からするとアレクサンドラ、クリスティ、ニーナ、スーザンの部屋ね。クリスティとスーザンとニーナは使い魔でしょう。小型の動物か下級の魔獣というところかしら?スーザンの使い魔は動きからしておそらく鳥でしょう。



「……問題はアレクサンドラよねぇ」



 アレクサンドラの部屋からは魔法使いの気配がするわ。彼女は魔力量に関してはたいした子で、まだ4年生でありながら、全生徒と教師を合わせても5指に入るほどの魔力量を有しているの。



 サウスフォードを卒業して、ライブラまで進学すれば大魔(Arch)術士(Wizard)となれるだけの才を持つ子だけど……、残念ながら彼女を取り巻く環境はそれを待つことを許さないでしょう。彼女はポートラッシュを、辺境伯を継ぐ者ですからね。



 ……考えが逸れてしまったわ。そう、彼女の部屋に魔法使いの気配がするのだったわね。しかも凄腕の。今は何かの魔術を継続して使用しているからこうして気配に気づけるけど、漏出している魔力量は魔法使いとは思えないほど小さなもの。



 学生ではありえないわ。学校の教師にも数人はこのレベルの使い手がいるけれど、その気配とは異なります。タイミング的には彼女が呼び出した使い魔なのでしょうけど、それならミーアが寮に入れることを許可するかしら?学年末だし、ポートラッシュからお客さんが来ているのかもしれないわね。



 ……推察するより確認した方が早いでしょう。



「もう一度お願いするわ。〈騒霊〉」



 ベッドの枕元に置かれた青い鈴が飛んできます。



 これは以前私が作った『絆の鈴』という魔道具で、振ると対となった方の鈴も鳴るというだけの簡単なものです。



 わたしは手の中に収まったそれを、ちりちりと軽く振りました。



 対となっている鈴は寮母であるミーアのチョーカーに付けられていて、彼女を呼び出すのに使っているの。



 〈騒霊〉が私の向かいに椅子を並べ、暖炉に薬缶をかけなおし、とお客さんを迎える準備を行っています。



 扉がノックされました。



「ミーアですにゃー。何か御用ですかにゃー」


「ああ、ミーア。忙しい時間に呼び出してしまってごめんなさいね?座ってくださる?」


「気にしないでくださいにゃー。あ、いただきますにゃ」



 ミーアが椅子に座ると、ソーサーとカップが飛んできました。紅茶はいつも通り猫舌の彼女に合わせて、少し温めになったものが入れられていて、ソーサーには夕食前ということもあり小さな砂糖菓子が1つ載せられています。



 わたしは彼女が紅茶を口にするのを待ちます。ミーアの耳がへにゃりと倒れ、満足した様子を見てから声をかけます。



「4年生の様子はどうでした?」



「試験で大きく失敗したような子はいないと思いますにゃ。使い魔確認もしましたけど、全員が成功で、うち4人は寮内で育てることを許可しましたにゃ」



 ああ、良かったわ。……でも、アレクサンドラの使い魔は魔法を使うのかしら?



「その4人はクリスティ、ニーナ、スーザン、それとアレクサンドラで合っているかしら?」



 ミーアの耳がぴんと立ちます。



「はい。……なぜ1日中ここにいて、それが分かるのか理解に苦しみますにゃー。斥候職の私より明らかに感知精度が高いとか、立場がありませんにゃ……」



「ふふふ、年の功ですよ。その4人の使い魔について説明してくれる?」



「むー……。クリスは毛玉うさぎですにゃ。魔獣ではありますが、危険度が低く非常に大人しかったので許可しましたにゃ。

 ニーナは蛇、50cmくらいの大きさで、牙を見ても毒腺がなかったので許可しましたにゃ。大きくなった場合は飼育施設に移動させる可能性があるとも伝えましたにゃ。

 スーザンはフクロウで、何も問題はありませんにゃ。

 アレクサは……、ナマコでしたにゃ」



 えーと……。



「ナマコって植物だったかしらねぇ?」


「一応、動物みたいでしたにゃ」



 ミーアがナマコの形状について説明してくれます。あー、はいはい。波打ち際で転がっているあれねー。動物だったのね、あれ。



 それにしても、昼間に校庭から感じた魔力はアレクサンドラのものだったけど、あの魔力量で〈召喚〉して小型動物の使い魔が出る?絶対無いとは言い切れないけど、ちょっと信じられないわねぇ。悪魔なんかが使い魔として無害なものに偽装するという話を聞いたことはあるけど、それにしてもナマコでは活動し辛すぎるでしょうし。



「アレクサンドラは来客申請をしているかしら?」


「明日からは来客の予定は多いですにゃ。でも今日はアレクサも他の生徒も来客申請はしてませんにゃ」


「んー……。アレクサンドラの部屋から魔術師の気配がするのよねぇ」



 ミーアがぴんと耳を立てました。……なぜあなたは嬉しそうなのかしら。



「気配を追っているけど、アレクサンドラに危害が加えられている様子はないわ。アレクサンドラはいい子だから無許可で誰かを部屋に上げるとは思えないんだけど、あなたはアレクサンドラの部屋に行ってちょうだい。もし誰かいたらすぐに連れてきて。誰もいなかったら夕飯後に使い魔を連れて私の部屋を訪ねるように伝えてくれる?」


「わかりました。行ってきますにゃ!」



 ミーアは元気よく立ち上がると、アレクサンドラの部屋へと向かいました。



 なまこねぇ……。なまこを使い魔にした魔術師って今までいたかしら?なぜあれだけの魔力量でなまこが呼び出されたのか、アレクサンドラはなぜなまこを使い魔としたのか、と考えながら彼女の訪れを楽しみに待つこととしましょう。



 ふふふ、この年になっても分からないことはいくらでも出てくるものねぇ。

寮の説明を一応まとめ。

寮の名前がディーン寮(Deen House)

女子寮で各学年8人の定員48。


責任者が寮長(House Mistress)、女性なのでミストレス。

メリリース・ロビンソン、大魔術師:付与魔術

大魔術師(Arch Wizard)の称号は、現代で言うPh.D.みたいなもの。めっちゃ尊敬される。

名前に関しては私がミセス・ロビンソンと言いたかっただけ。同名の昔の有名な曲があります。


寮母(Matron)がミーア。猫獣人(Cat Folk)で斥候(Scout)。


寮の生徒のリーダーが監督官(Prefect)、6年生のベリンダ、次話登場。

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― 新着の感想 ―
[一言] 騒霊がいるとガタピシラップ音しそうですね。でも便利! 私が使ったらものぐさに拍車がかかるかも。
[良い点] ナマコって動物になるんですね。 魚かと思いました。
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