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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第3章 119年2月~婚約破棄
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第46話 おふろ!

 破壊された部屋の物はサイモン学長が〈修復(Fix)〉の術式で直してくださいましたの。



「サイモン学長、昼前にはライブラ方面に向かって移動でよろしいですの?」



 学長は頷かれます。



「学内と、セーラム市で二人の捜索は行っているが、手掛かりが得られなければそういうことになるだろう」


「義兄様を連れて行っても構いませんか?」



 ふむ、と少々考えられました。



「構わないだろう。馬車を1台余計に用意しよう」


「ありがとうございますの。では準備のため一度寮に戻りますの。先ほどの件といい、お掃除といいご迷惑をおかけいたしました」



 学長は手を軽く左右に振り、こちらに微笑みかけます。



「なに、学生の仕事は教師に迷惑をかけることよ。問題など何もないわい」



 わたくしは一礼すると、義兄様の手を取って退出いたしました。



 応接室のある建物から外に出ると、生徒たちが遠巻きにこちらを眺めています。

 んー、まあ義兄様の咆哮を耳にすれば、こういった反応になりますかねえ。見知った顔を見かければ会釈をしつつ、ディーン寮へと戻ります。

 昼までに荷物を纏めて、後は義兄様を洗って差し上げたいですねぇ。そんなことを考えて歩いていると、



「お義兄さまああああああッッ!」



 おや、ナタリーですの。寮から走ってきて、義兄様の前へ。勢いよく止まり、一礼。



「お初にお目にかかります!

 アレクサお姉さまの忠臣にして妹、ナタリー・ブレイスガードルと申します!

 以後お見知りおきを!お姉さまにはいつもお世話に――」



 あまりの勢いに、義兄様が警戒して腰の魔剣に手を伸ばしていますが、わたくしが止めますの。



「ナタリー、わたくしはあなたを忠臣として雇用したつもりはありませんのよ?

 レオ義兄様、こちらはナタリー。わたくしの学校での妹ですわね。あと、向こうの寮、お家からこちらを覗いているのはわたくしの友人たちですのよ。斬りかからないでくださいね」


「グルゥ」



 義兄様は魔剣から手を離して頷かれると、ナタリーをはるか頭上から見下ろしてじっと見つめました。

 ナタリーも僅かに震えながら、首が痛くなるよう見上げて目を合わせますの。しばらく見つめあった後、義兄様はナタリーの頭に一度手を置いて通り過ぎます。

 おや、珍しい!義兄様から会ってすぐに友好的な反応を引き出すとは!



「ナタリー、あなたすごいですのね」



 ナタリーはわたくしの横に並びます。



「お、お姉さまのお義兄さま、ワ、ワイルドですね!」



 野性的、うーん、まあ野性的ですわね。



 寮の前、みなさんの前に立ちます。義兄様がぐるりと生徒たちを見渡すと、目の合った子たちがびくりと体を硬直させますの。



「もう伺っているかもしれませんが、こちらが先ほどの咆哮の主にして、わたくしの義兄。レオナルド・ポートラッシュですの」


「「「レオナルド!」」」



 みなさんの声が揃いました。

 ナタリーがわたくしの左腕を掴み、きらきらとした瞳でわたくしに訴えかけます。



「この方がお姉さまの良い人なんですか!」



 ……あ、しまった。恋人たちの日に名前書いたのばれてましたの。



「ど、どどど、同名のどなたかなのではなくて!」


「さすがにその言い訳はムリかなー」「めっちゃ仲良さそうだし」「手繋いでるし」「美女と野獣!」「美女にしては小っちゃくない?」「美少女と野獣!」「兄妹とか背徳的!」


「彼はわたくしの実兄ではなく義兄ですの(He isn't my brother by blood but my brother-in-law)

 も、問題ありませんわ!」


「いや、貴族位的には問題あるんじゃないかなぁ……いいけどさ」



 クリスの呟きが聞こえます。分かってますのよー。

 それには答えずミーアさんの方を見ます。



「ミーアさん、今日の午後にわたくしと義兄様はルシウスとジャスミンを追いに、ライブラ方面へと出発いたしますが、それまでの間、寮に義兄様を入れてもよろしいですか?」



 ミーアさんは尻尾を股の間に挟んで、ちょっと怯えつつ答えます。



「さ、さすがに男子禁制ですにゃ!」



 ですわよねぇ。



「……寮に入れてどうしたいのかしら?」



 人垣の奥から声がしました。生徒たちが両脇にずれて道を作ります。ミセス・ロビンソンがいらしてくださいましたの。



「はじめまして、ミスター・ポートラッシュ。レオナルドと呼んでもよろしいかしら?」



 義兄様は特に反応を示さないので、代わりにわたくしが頷きます。



「ではレオナルド、わたしたちもあなたを歓迎したいところなんだけど、ここは女子寮で、男性の立ち入りは禁じられているのよね。

 アレクサは彼を連れてどうしたいのかしら?」


「ミセス、義兄は野の獣のような存在で、わたくしの目の届く範囲においておきたいのが一つ。

 もう一つは彼をお風呂に入れてやりたいのですが……」


「あなたが洗うの?」



 胸をはって答えます。



「ええ、家族ですので!」


「でも恋愛感情はあるのよね。ふふふ」



 ぐぬぬ。



「おぅ、お姉さまがえっち」



 ナタリーが鼻を押さえて上を向きます。



「どちらにしろ、その体格では寮のお風呂には入れないわよ。外で洗いなさいな。

 〈騒霊〉に手伝わせるわ。

 荷物はナタリーに手伝ってもらいなさい」



 そういうことになりましたの。



 ベランダに揺り椅子を持ち出し、ミセスがそれに腰掛けます。

 その前、庭の一角を布で周囲を覆い、洗濯用の大きなたらいをお湯で満たして義兄様にはその中に座ってもらいます。



 わたくしは背中に回り、頭をブラシで、背中をスポンジでこすっていきます。

 正面側や脚はミセスの〈騒霊〉がスポンジを飛ばしてこすり、磨いていきます。



 背筋!僧帽筋!広背筋!もー、硬い岩を撫でているようですの。ぼろぼろと垢がおちてくるので、スポンジを洗って再度石鹸をつけて、もこもこの泡まみれにしていきます。

 最初は義兄様も飛んでいる〈騒霊〉を手で払おうとしていましたが途中からはされるがままに身体を磨かせていきます。

 髪を切り、髭を剃って……。



「義兄様。ステキですのよ」



 誓約で骨格系から変わってしまったとは言え、元々の顔立ちは美しいですしね!蓬髪を整え、髭を剃ったので、うん。……遠目にはかなりかっこよく見えるのではないでしょうか!

 近寄るとやはり威圧感を感じてしまうと思いますけどね。



 服はどうせ義兄様は着れないので腰布を洗おうとしましたが、あまりにも汚れているとのことで、ミセスが〈(Anti)(fouling)〉の付与をした布を持ち出してくださり、ささっと腰布を作ってくださいました。



 ナタリーにわたくしの部屋から、先日お父様が持ってきたトランクと、着替えを持って来てもらうよう頼み、そこに服を詰めていきます。魔術礼装と、下着と、タオルと……。ぎゅうぎゅう。よし。



 トランクに入りっぱなしだった竜鱗の欠片を1つ取り出して、ミセスに渡します。



「ミセス、義兄様の服をありがとうございますの。

 一応、お代としてお受け取り下さい。一応、我が領土の特産品ですの」


「まあまあ、あんなやっつけ仕事にこれでは貰いすぎよ」


「それを言ったら冬至祭の贈り物もわたくしたちの貰いすぎですのよ?」



 ミセスが微笑みました。



「なら、ありがたく頂くわね。

アレクサンドラ、レオナルド、あなたたちの旅路に幸いあれ。あなたたちの行く手には困難が常にそびえているはず、それを力強く乗り越えんことを願う。……〈祝福(Bless)〉。

 じゃあ、いってらっしゃいな」



 もー、〈祝福〉の術式かけてくれるとか、ちゃんとお釣りいただいちゃったじゃないですのー。



「ありがとうございますの。義兄様もお礼を」



 淑女の礼を取ります。義兄様も頭を下げてくれました。



 さて、これでわたくしたちは出発の準備が完了いたしましたの。

 ところでクロはどうしているかしら?

 お風呂回ですよ!

 ……義兄様の。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巌のような殿方のお風呂とか べ、別に全然萌とか思っていませんのですのよ!!
[良い点] 筋肉の山が隆々と、野生、神の獣、なんだか神話時見ているワンカットを見てるようだけど、これお風呂回なのよね。
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