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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第2章 119年1月~魔術決闘訓練
31/148

第31話 ぐっない。

 眠れぬ6の夜と昼を越え、ついに144時間が過ぎての夕方ですの。



――コンコンコン。



 ドアがノックされます。



「……はい」



――ガチャガチャ……ガチャリ。



 扉の鍵が開けられ、部屋の結界が一瞬だけ輝いてから色を失い、扉が開けられました。



「アレクサ、失礼するにゃ。お疲れ様……ひぇっ」



 ミーアさんはわたくしの顔を見るなり小さく悲鳴を上げられました。失礼ですの。

 ……とは言え、酷い顔をしている自覚はあります。



「ど、どうしたにゃ、アレクサ」



 薄暗い部屋の中、結界が消えたので魔力が外に流れ始めてはいますが、今のこの部屋の魔素の濃さは異常でしょう。

 そして今のわたくしは髪が乱れ、蛇のようにうねり動き回り、目には酷い隈ができていますの。



「いえ、苦しい6日間でしたが、もう心配ありませんの……。皆さんは?」


「廊下に来ると狭いから、食堂で待ってるにゃ……来られるかにゃ?」



 ミーアさんはうねる髪をよけつつ部屋に入り、窓の板を外されます。久しぶりに見る夕焼け空が目に沁みますの。わたくしは目を瞬かせました。



 ミーアさんがわたくしのそばに寄ってきて、うねる髪を横にどけつつ、わたくしの目元を撫でます。



「寝られなかったのかにゃ?」



 頷きます。

 ミーアさんがやさしくわたくしを抱きしめました。



「魔力過多症で、眠れませんでしたの。でも今夜からは大丈夫ですわ」


「体調不良時は、言えば保健室にいけたのにゃ」



 わたくしは頭を振ります。



「知っていましたわ。でも6日間で終わらせたかったんですの。保健室に行くと、その時間は謹慎期間に含まれませんもの」



 ミーアさんは一度わたくしを抱きしめる腕に力を込めると、わたくしから離れました。



「下に行くにゃ?それとも寝るにゃ?正直、結構ひどい顔ですにゃ」


「行きますの。みなさん、待っていただけているみたいですし、クロにも会わないと」



 呼吸を整え、魔力を込めて命じます。



「……髪よ。戻りますの」



 わたくしのまわりで勝手にのたうち回っていた髪の毛が一度動きを止め、くるくると体の左右でロールします。

 いつも通りの縦ロールですの。



「一本飛び出てるにゃ」



 ミーアさんがわたくしの頭頂部から前に跳ねる一房の髪を撫でました。



「……この髪はもうこの形で戻りませんの」



 ぐぬぬ、このアホ毛(Ahoge)め。



「切るにゃ?」


「危ないですわよ」



 わたくしは天井を指します。

 ミーアさんが上を見上げて、びくっと後ずさりました。天井には鋏が突き刺さっています。



「切ろうとすると抵抗するので」



 髪がゆらりと波打ち、ミーアさんの手を頭からどけました。



 部屋を出ながら話します。



「アレクサの髪の毛に何があったにゃ」


「魔力過多症で体調が悪かったので、髪の毛に魔力を圧縮して込めていましたの。3日目くらいから髪の毛が勝手に動くようになりましたわ」


「髪に魔力は割と聞くけど、人族で髪が勝手に動き回ってるの初めて見たにゃー」



 廊下を歩いていると、足元から魔力が少しずつ流れ出ていって気分が楽になるのを感じますの。



「……〈騒霊〉さん、たくさんお食べなさい」


「なにか言ったかにゃ?」


「いえ、独り言ですの」



 ミーアさんが食堂の扉を開け、入るよう促します。



「釈放おめでとう!アレクサ!」


「お勤め、お疲れ様です!」


「おかえりなさい!」



 拍手で迎えられましたのよ。わたくしはスカートの裾をつまんで礼をとります。



「みなさま、ありがとうございますの。でも別に牢屋に入れられていた訳ではありませんのよ?」



 クリスが花束をもって近づいてきて……驚いた顔で一歩後ずさりました。



「アレクサ、どうしたの!ひどい顔してるじゃない!」



 わたくしは笑ってみせます。



「ちょっと眠れませんでしたの。今日からは安眠できますので大丈夫ですのよ」



 ナタリーとサリアが左右から抱きついてきますの。



「お姉さまー!」


「はいはいはいはい。大丈夫ですのよー」



 抱きつかれた勢いで少々ふらついたあたり、体調がやはり良くはありませんわね。



「そんなにショックだった?」



 クリスが訪ねます。



「いえ、魔力過多症の症状が出て、ちょっと安眠できませんでしたのよ。数時間おきに魔力を消費しないといけなかったので。部屋の中で大魔法をぶっぱなすわけにもいきませんでしたし」



 みなさんが頭を抱えます。



「なんでっ、そんな無茶をっ!」



 ナタリーが泣きそうですの。ゆっくりと頭を撫でてあげます。



「早く出たかっただけですの。そんなに無茶してる訳ではありませんのよ」



 クリスがため息をつきます。



「魔術決闘訓練の授業出たかっただけでしょうに」



 わたくしはぺろりと舌を出しました。



「まあ、だいたいそれですわね」



 ばんっと机を叩く大きな音がしました。部屋が静まり返ります。

 机を叩いたのはドロシア。彼女はそのまま立ち上がります。美しい顔に怒りの表情を浮かべてゆっくりとこちらに向かってきました。



「ずいぶんと余裕ですわね、アレクサンドラ。あなた、明日の決闘がわたし相手ということは分かっていて?」


「ええ、ドロシア。おそらく、その可能性が高いだろうとは思っていますの」



 ドロシアはわたくしの胸元に指を突きつけてきます。



「そんな、後輩に抱きつかれた程度でふらつくような体調で、決闘とか、わたしをなめてますの?」



 ゆっくりと首を振ります。



「そんなつもりはないですの。今から食事して、ゆっくり眠れば、明日にはコンディション整いますのよ」


「それがなめていると言っているのよ。目の下の隈は消えるでしょうけどね。体もなまっているし、使い魔との魂絆も切れていたのでしょう。それとも、わたし程度ならそれでも十分だってことかしら?」



 わたくしはドロシアの指に自分の指を絡めます。



「わたくしは同年代のどの子よりも戦いに身を置いてきた自信がありますの。だから、どんなハンデを負っていようと、誰にだって勝つつもりはありますわ。でもね、わたくしはあなたがわたくしを倒すために牙を磨いていたであろうことも分かりますの」



 ドロシアの顔に警戒が宿ります。



「覗いていたの?」



 首を横に振ります。



「何をしようとしているのかは分かりませんわ。でもあなたが今までの授業で全力を見せないようにしていたこと。魔術礼装をまだ見せていないこと。寮には住めない火蜥蜴さんと魂絆を深めるため、毎日門限ぎりぎりまで厩舎の方に足を運んでいたこと。おそらくそこで秘密の特訓をしていたこと。これくらいは分かりますのよ。

 ……全力でかかってきなさいな。千載一遇のチャンスかもしれませんわよ?」



 ドロシアがわたくしの手を払います。



「吠え面かかせてやりますわ」


「期待してますのよ」



 彼女はわたくしに背を向け、自分の席に向いましたが、それを呼び止めます。



「ドロシア」


「なんですの?」



 彼女がこちらに振り返ります。



「ありがとうございますの。心配してくれて」



 彼女は顔を赤くしてぷいっと顔をそむけ、席につきました。みながため息をつきます。



 わたくしも席に向かいます。机の上には金魚鉢と、中におおぶりのなまこさんが。



「クロー!」



 わたくしは金魚鉢を抱きかかえます。



「おひさしぶりですのー!」


『お久しぶりです、アレクサ。お加減はいかがですか?』



 ほんの6日ぶりとは言え、懐かしさすら感じる思念が返ってきます。



「ちょっとだるいですが、明日には元気になりますの!」


『それは良かったです。お力になれず申し訳ありません』


「そんなことありませんの、わたくし気づきましたのよ。今までクロがわたくしの余剰魔力を吸ってくれていたのでしょう?」


『まあそうですが、それとて我が力とさせて頂いていただけですよ』


「クロが力を得ることは、巡ってわたくしの力ですのよ?どんどんやっちゃってくださいまし!」


『はは、ありがとうございます。我が主』



 もう、クロと話しているだけで元気が出てきますの。

 周りをふと見ると、わたくしを見て固まっています。



「……どうしましたの?」



 クリスが答えます。



「いや、ホントにナマコと話してるんだなってのと、アレクサのテンションにみんな驚いてるのよ」



 わたくしは首を傾げます。



「クリスはクロとお話しませんでしたの?」


「したけど、そこまでずっと話していないっていうか」


「クロ?」


『わたしも、アレクサからの魔力供給が切れていたので、魔力を節約していた向きがありまして』


「と言うと?」


『〈加速〉を常時使っているのは厳しいのです』



 ああ、なるほど。確かにそれは気が回りませんでしたの。



「クロ、魂絆の再接続を」


『ありがとうございます』



 わたくしとクロから魔力のラインができて六日ぶりに繋がります。



「今日は食事したら寝ちゃうので、魔力はたくさん持っていってくださいまし。そして皆さんに挨拶を」



 魂絆を通じて、魔力がぐんぐんと吸い上げられていきます。あー、だいぶ気分が楽になりましたの。

 クロが〈精神感応〉を拡大して、みなさんと意識をつなぎます。



『こんばんは、ディーン寮のみなさん』



 ふふふ、みなさん、驚いた顔ですの。わたくしはクロを〈念動〉で食堂の中央に浮かせます。



『わたしはアレクサンドラの使い魔、ニセクロナマコのクロと申します』



 クロがしれっと嘘をついていますの。



『挨拶が遅れたこと、申し訳ありません。今後はぜひ我が主、アレクサンドラ共々よろしくお願いいたします』



 ああ、クロに魔力が行ったから久しぶりに体が軽く……、ねむ……い……。



『ん、アレクサ。お休みですか』


「ええ……。おやすみ、なさ……い……」


『体はわたしが部屋までお運びします。良い夢を』



 ……ぐぅ。

 アホ毛の意味と対訳について。

①美容用語で短いハネ毛のこと。髪を整えているのに毛がハネてるデザインのこと。対応する英語:frizz

②サブカルチャーのキャラデザインにおいて、頭頂部付近から一筋または二筋の長い髪が伸びているもの。対応する英語はなし。wikiの仏文ページだとそのままAhoge、触角のように二本生えているものをHair Antennaと呼称している。


「なまこ×どりる」ではAhogeと言う英語が存在する設定としています。


 アレクサのアホ毛は前側に倒れている感じのデザインです。普段そこまで目立たないアホ毛。

   ⌒

ξ゜⊿゜)ξ <こんな感じですの?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 髪の毛に魔力込めまくるって良いですね、そのうち一本一本制御出来る様になって、キューティクルつやっつやになりそうです。
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