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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第2章 119年1月~魔術決闘訓練
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第24話 父、襲来。さーじぇんとのおうた

 翼の音が大きくなり、校舎の陰から赤い鱗の竜が姿を見せます。

 やはりお父様の騎竜、ザナッドですのね。



 全身を赤黒い鱗でかため、腹は白っぽい黄色。ん、右の角が欠けてますわね。激しい戦いでもあったのでしょうか。

 大きく皮膜を広げて羽ばたかせて、減速します。



 強い風がはためき、砂埃が舞いました。わたくしは左手でスカートを押さえ、右手を目にかざしました。



 ああ、巻き髪が乱れますの……。



 竜の胴には鞍がつけられ、上には大柄な人影が。やはりお父様でしたか。なにかポートラッシュで緊急事態でも発生したのでしょうか?



「〈光〉。……この上からどいてくださいまし!竜がここに着陸しますの!」



 校庭に光で直径20mくらいの円を描きます。その上にいた生徒たちが慌てて場所を開けてくださいました。



 ゆっくりと竜が降下してきますの。地面が軽く揺れて、竜が校庭に降り立ちました。



「お父様!ザナッド!」



 赤竜がわたくしの体ほどもある大きなお顔を近づけてきます。



「ザナッド、久しぶりですの!」



 わたくしは赤竜の顔に抱き着きます。ザナッドが鼻でわたくしの体を持ち上げようとしてきたので、慌てて一歩後ろに下がりました。ちょっと、今はスカートですのよ!



 お父様が竜の背から地面へと飛び降りました。



「お父様!」



 お父様がこちらに近づきます。お父様は身長190cm以上、そしてそれをさらに大きく見せる立派な体格をしていますの。近付かれると、目を合わせるには見上げるよう。



「アリー!ちょうどお前が外にいてくれて良かった」



 ふふ、その呼ばれ方をするのも久しぶりですわ。



「お久しぶりですの、お父様」


「おお、少し背が伸びたかね?」



 お父様がわたくしの頭に手をやります。夏からではほとんど変わってないでしょうに。思わず笑みが漏れますの。



「そんなにすぐ伸びませんわ、お父様」


「そうか?ああ、ここの責任者の人はいるかね?ザナッドを移動させねば」


「チャールズ先生ですの」



 わたくしが振り返ります。チャールズ先生と目が合いますが、先生は首を横に振りました。



「あー……アイルランド辺境伯ですかな?今、現在の責任者は確かに私ですが、すぐに学長が来ると思いますので」



 と言われてすぐに〈転移門〉が出現し、中からサイモン学長と、秘書のエミリーさんが現れました。杖を構え、いつでも攻撃できる状態ですの。



「竜が高速でうちの結界に衝突し、背に乗った術者に結界破りされたようだが……、戦闘状態ではないのかね?」


「わたくしの父ですの!」


「アレクサンドラ嬢の父……アイルランド伯が?」



 学長は杖を下ろされます。



 お父様はわたくしの頭から手をどけると、学長の方に向き直り、礼を取りました。



「突然の訪問失礼いたします。ブライアン・シェイマス・ポートラッシュ。アイルランド辺境伯であり、アレクサンドラの父親です」



 サイモン学長は杖を下ろし、帽子を取ってエミリーさんに預け、礼を取りました。



「ああ、フレデリック・サイモン。サウスフォード全寮制魔術学校学長です。お初にお目にかかります。

 しかし、竜で駆けつけるとは。何か緊急事態でも?エミリー君、この校庭を封鎖して竜に生徒が近寄らないようにしておいてくれ」


「かしこまりました」



 エミリーさんが〈精神感応〉でおそらく警備の人と話を始められます。



 お父様は申し訳なさそうな表情で学長に話しました。



「いや、結界を破り、授業の邪魔をして申し訳ない。ちょっと娘と緊急の話がありましてな。どこか話せる場所をお借りしたい」



 学長はため息をつかれました。



「アイルランド伯はその地を離れていられぬとお聞きする。取り急ぎ、部屋を用意しましょう」



 わたくしはチャールズ先生に向かって言いました。



「申し訳ありません、授業を早退させていただきますの!」



 チャールズ先生は言います。



「……もう終わり間際だし構わんよ」


「アレクサ、あとで説明しなさいよ!」



 クリスが叫びますの。

 わたくしは頷きます。クロを招き寄せて呼びかけます。



『クロ、わたくしのお父様ですの、後でご紹介いたしますわね?』


『おお、了解いたしました。よろしくお願いします』





 正門側の校舎、応接室のある場所に向かって、お父様とわたくし、サイモン学長とエミリーさんが並木道を歩いていきます。



「お父様はアイルランドを離れられないという誓約を立てているのだとばかり思っていました」



 かつての大氾濫、お母様を失い、義兄様が正気を失ったあの時、お父様はライブラにいたのです。

 それを悔い、二度とアイルランドから離れないという誓約を立てたのだと思っていましたが……。



「誓約の厳密な内容が違うのだよ。わたしの誓約は『わたしがアイルランド伯である限り、一日たりともアイルランドを離れない』だ。

 今朝ポートラッシュを立ったので、今日中に戻れば誓約を破ったことにはならない。だから、時間はろくに取れないのだがね」



 なんとまあ、それは忙しい話ですわね。



「ほう。それにしても、ここまでの距離を伯自らが来られるとは何かアイルランドで緊急の事態が発生しましたかな?」



 わたくしも気になっていたことをサイモン学長が聞きました。



「いや、アイルランドは平穏……ではないですがいつも通りです。今回は緊急にアレクサンドラと話をする必要がありまして」


「なるほど、ではライブラに緊急で連絡など入れる必要は?」


「ああ、特に必要ありません。軍事関連の事態ではありませんので」



 わたくしは安堵します。まずアイルランドのみなさんが無事であるというなら良かったですの。



 だとすると、わたくしに急なお話とはなんでしょう?お父様が無理を押してまでわたくしに話さなくてはいけないこと……。

 義兄様に何かあったか、婚約破棄の件ですかね。でも義兄様はライブラにおりますし、わたくしにもそちらから直接連絡が来そうですのよね。……やはり婚約破棄でしょうか。何かお父様が動く必要のある事態にまで……。



「ところでアリー、何かねそれは」



 お父様はわたくしの後ろに浮遊している、金魚鉢の中のクロを指さしました。



「なまこさんですのよ」


「ふむ、飼育しているのかね?」


「そうですわね、とは言え、全く手がかからないんですの」



 と話したところで、校舎につきましたの。応接室へと向かいます。エミリーさんが虚空から鍵を取り出すと、普段は使われていない、一番奥の応接室の扉をあけました。



「家族の話とのことで、わたしたちは一度席を外しましょう。この部屋は防諜されていますので、部屋の話を誰かが聞くという可能性は低いです。

 話が終わりましたら、この呼び鈴を使ってください。わたしに連絡が来ますので」



 学長はそうお話され、エミリーさんがわたしにハンドベルを渡します。金属製でほっそりとした可愛いデザインですの。



「お茶をご用意してから退室しますね」



 エミリーさんはそう言って、応接室の奥へと向かいました。



 この部屋は初めて入りますが、生徒も使える応接室とは造りがちがいますのね。貴賓室といったところでしょうか。絨毯はふかふかしておりますし、内装全体が落ち着いた雰囲気。

 まあ、わたくしこういったものには詳しくないので、高そう!としか言えないんですけどもね。



 お父様が旅装をハンガーにかけてソファーに座ります。わたくしも向かいのソファーに腰かけました。クロの金魚鉢を机の上に置きます。



『ここでよろしいですか?』


『ええ、ありがとうございます』



 エミリーさんが紅茶を入れてくださり、部屋を出られました。



 お父様が一気に紅茶を飲み干します。ポートラッシュから飛び続けているなら喉もからからでしょう。わたくしはポットから紅茶をつぎ足します。



「ありがとう。さてアリー、お前の使い魔を出しなさい」



 わたくしはクロの入った金魚鉢を持ち、お父様の前へと差し出しました。



「ペットではなく、使い魔だ。悪魔か?雄淫魔(Incubus)か?」



 まあ、失礼ですの。



「お父様、わたくしはこれでもアイルランドを継ぐ者ですわ。悪魔を使い魔にするはずがないでしょう」


「む……、すまぬ。では人間か亜人でも召喚したか?例が皆無という訳ではない。どんな男をくわえこんだのだ」



 むう、ちょっと言っていることが分かりませんの。



「わたくしは人など召喚しておりませんの。それに人の隷属は学生には禁じられておりますし、寮に入れることもできませんのよ?」


「ではこの手紙に書かれていたのはどういうことだ?」



 お父様が懐から便箋を取り出しました。ああ、わたくしが年末に送ったお手紙ですのね。



 お父様は身を乗り出し末尾の部分をこちらに示します。



『わたくしの両手におさまるくらいの黒い棒状のもので、さわっていると硬くなったり、先端から白いねばねばしたものをだしたり、やわらかくなったりしますの。とっても素敵ですのよ。』



 ああ、わたくしがなまこを召喚したと言ったらお父様がショックをうけてしまわれるのではと思ってぼかして書いたのですわよね。



「それは……」



 お父様が真剣な眼差しでこちらを見下ろしてきますの。



「なまこですの」


「黒くて、棒状で、硬くなったりし、白いものを出す……」



 お父様はゆっくりとソファーとテーブルの間の床に倒れ込むと、膝をついた状態でかたまってしまわれました。



 ああ、やはりなまこを使い魔とするということは、そんなにも罪深いことだったのでしょうか。



『ああ、お父様、やはり使い魔がなまこということにショックを受けられて』


『悲しいことです』



 クロと〈精神感応〉を交わします。



「申し訳ありません、お父様。やはり辺境伯令嬢の使い魔がなまこというのは問題だったでしょうか。

 ……でも、このなまこさん、本当に素晴らしい方なのです!話せばお父様もきっとわかっていただけますわ!」



 お父様はゆっくりと身を起こされます。



「違う!いや、確かに一般的では無い使い魔とは思うが……、アリーがこんな紛らわしい書き方をしなければ」


「何と紛らわしいんですの?」



 お父様がぷるぷると震えていますの。ああ、やはりお怒りに。



「わたくしも、なまこは一般的な使い魔ではないと思いますわ。でも、平民のみなさんはお家になまこを飼っているのでしょう?」


「いや?そんなことはないと思うが」



「そうなのですか?みなさんまわりには秘密で、こっそりなまこをお家で飼っているのかと思いましたの」


「……なぜそんな勘違いを」


「ゾーラ軍曹が、新兵の皆様を訓練するときに歌っていらっしゃるので、そういうことだったのかなと」


「ゾーラ軍曹が?皆がなまこを飼っていると歌っている?」



 お父様は訝しげな顔をなさり、首を傾げました。



「ええ、歌ってみましょうか?わたくしも好きな楽しい歌ですの」


「ほう、じゃあ頼もうか」



 ふふ、そういえばこのお歌を歌うのも久しぶりですのね。わたくしは脚でリズムを取って口ずさみます。



「♪パパの黒いペット

 ―Mama said Papa has a nice black pet


 硬くてミルクを出すの

 ―It gets harder and spilt white milk


 おー、見せて!

 ―Oh, show me it!


 ちょーだい!

 ―Oh, give me it!


 しごいて!

 ―P.T.!」

 さーじぇんとでお歌とあるので、ビートルズのSgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Bandを思い浮かべた方もいるかもしれないが、残念、映画「フルメタル・ジャケット」でした!


日本のCMでの替え歌が有名であるので、映画を知らなくても聞いたことがあるかもしれない。ファミコンウォーズとか日清食品とか。


 ライトノベルのフルメタル・パニックでもこの曲を作中で歌っているはず。そもそもタイトルがね。


 曲を流している訳でもなく、日本語も英語もオリジナルの歌詞なので、どこから訴えられることもない。


 ただ、なぜか作中のアレクサの歌が日本語も英語もフルメタル・ジャケットのハートマン軍曹が歌う曲に合わせて完全に歌えるだけである。


 ご存じない方は、ぐーぐるさんに「軍曹ソング」と入れて検索し、動画を流すといいよ!一発で覚えられるから。


 覚えたら、この歌詞をそのリズムに乗せて歌ってみよう。


 歌詞を暗記したら、そのまま外に行って、大声でこれを叫びながらランニングしてくれ。


ξ゜⊿゜)ξ <ちょーだい!


 さて、君も立派なポートラッシュ領突撃兵の一員だ。


ξ゜⊿゜)ξ <よし、なまこ二等兵。その脚でポイント評価を押して来い。駆け足ですの!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「何と紛らわしいんですの?」 なんと罪深く無邪気なお言葉! ナタリーたそが喜んで説明しに来そうですね! [一言] 全然関係ありませんが、 『papa's got a brand new …
[良い点] 娘がこんな歌を唄い出したら、父親としてどんな顔して接すれば良いかわからなくなりますね……
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