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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第2章 119年1月~魔術決闘訓練
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第20話 はいはい、それ禁呪ね

 ふふん、わたくしの勝ちですの。



 まあ、ちょっとですが打ち合いもできましたし、ストレス解消にはなりましたわね。



 あー、あー。制服が血塗れです。

 テッドに大量にまとわりついているキュビエ器官もありますし、ここは魔力量を多めに。



「〈清掃〉」



 汚れの類を落とす術式ですわね。キュビエ器官は粘着性が強くて落としづらいですの……。



『クロ、お疲れさまでした。素晴らしいお手並みでしたわ』


『いえいえ。アレクサこそ素晴らしい戦いでした』



 〈清掃〉術式をかけ続けつつ、わたくしたちはお互いの手際を賞賛します。



 あらかた綺麗になったところで先ほど投げた杖を拾い、軽く掲げます。そして腰に収め、審判であるチャールズ先生に礼をとりました。



 へたり込んでいるテッドを引き起こします。



「テッド、お疲れさまでした。わたくしの勝ちですの」


「あ、う、うん」



 テッドは男性ですし、身長こそわたくしよりありますが、痩せていますのよね。体重わたくしと変わらないくらいかもしれませんの。



「テッドはグライアスと仲良くなるべきですの。お互いを信頼できねば、使い魔を持つ意味がないですわ」


「そうだね……が、頑張ってみるよ」



 うつぶせになっているグライアスの肩を叩きます。



「ほら、しゃんとなさい。流石にもう治ったでしょう」



 グライアスは顔を上げると、地面に座り直し、わたくしに3度深く頭を下げました。



 オーガの強き者を認めたという作法ですわね。



「ふふ、ありがとう」



 舞台から降り、先生の方に向かいます。



「アレクサンドラ、勝利いたしましたわ」



 チャールズ先生は呆れたような目でこちらを見ておりますの。



「うむ、素晴らしい戦いであった。本来ならばこの後、テッドと戦いの反省点を出し合ってもらうのだが」


「だが?」



 わたくしは首を傾げます。



 するとわたくしの左に〈転移門(Gate)〉が。空間が捩じれ、灰色のローブを着た男性が転移してきました。



「アレクサンドラ嬢、きみはわたしと話し合いだ」



 サイモン学長ですの。



「おや、サイモン学長、おはようございます」



 学長は長い髭をしごきながら言います。



「うむ、おはよう。先ほどの術式についての査問に付き合ってもらわねばならんのでな。君はこれからわたしの部屋に招待だ」



 ……ああっ、他の生徒の戦いが見られませんの!あっ、ルシウスにも話がありますのに!



「……了解いたしました」


「ではチャールズ君、連れて行くぞ」



 サイモン学長はそういうと、わたくしをゲートへと誘います。



 わたくしはチャールズ先生に一礼し、ゲートをくぐりました。





 アレクサンドラが学長に連れて行かれた後、チャールズ先生がテッドの肩を叩きながら言います。



「お疲れさまだ。セオドア。まあ、細かい話はあとでわたしから伝えるが、お前は色々と恐れすぎだ。戦いそのものについてもそうだが、自分の使い魔や魔術と言う力もな」


「はい、先生」


「まずは自分の使い魔としっかり話してみろ。アレクサンドラが自分の使い魔と魂絆をしっかり結んでいたのは分かるだろう?」


「……はい、グライアスとしっかり反省します」


「グァウ」


「良し」



 チャールズ先生は振り返り、クリスティに声をかける。



「クリスティ、ちょっといいか?」



 クリスティは頷く。



「アレクサンドラって……あんな感じなのか?」


「割とあんな感じですね」



 男子生徒たちも集まってくる。



「魔力量がやばいのは知っているが、白兵戦まであんなにこなすとは知らなかったんだが」



 と魔法騎士志望のマイク。



「近寄れば勝てると思ってた?」



 クリスティがそう尋ねると、何人かの男子たちが首を縦に振る。



「女子で体格差もあるし、剣を持ち込める決闘形式なら勝てる可能性高いと思っていたんだがな……。オーガの拳をあれだけくらって耐えるとか意味が分からん」


「あれはわたしもびっくりしたけどねー」


「それに最後のあの技だ」



 皆が顔を青ざめさせる。



「当たらない位置からタマ殴ってんだよな、あれ」


「ちょっと、女子の前でタマとか言わないでくれる?」


「ああ、すまん」


「大丈夫、大丈夫だ。それに関してだけは心配いらないだろう」



 先生が言います。



「学長が禁呪にしてくれるはずだ」



 ほっとした空気が男子生徒の間に漂う。



 まあ、戦う前にアレクサが、「手加減する」と言ってあれだったのは秘密にしておいてあげよう、そう思うクリスティであった。





 学園の中央、教職員棟の上にある学長室。そこにわたくしは転移しましたわ。居心地のよさそうな木製の内装、壁には沢山の書籍と魔術具。2つの机の上には大量の本と書類。



 片方の机の後ろでは秘書の女性がペンを動かし続けながら、こちらに会釈を送ってきました。わたくしも頭を下げます。



「はじめまして、アレクサンドラですの」


「はじめまして、学長補佐のエミリーです」


「こちらはわたくしの使い魔、クロですの」



 わたくしが後ろに浮遊しているクロを示すと、金魚鉢が緩やかに上下します。エミリーさんはペンを置き、にっこりとこちらに微笑まれました。



「ご丁寧に。お噂はかねがね」



 サイモン学長は部屋の奥の席に座り、わたくしを向かいの椅子に座らせました。



「さて、初日の1回戦目から問題発生とは」


「ご足労おかけしましたの、サイモン学長」



 学長は先端の尖ったつば広の帽子を机の脇に置くと、頭を掻きながら言いますの。



「アレクサンドラ嬢、そう思うなら、もう少し慎み深い戦い方をしてくれると助かるのだがね」



 わたくしは首を傾げます。



「慎み深く、死者を出さず、周囲に被害を出さないようにしていたのですが。魔力も全力は出しておりませんし、得意戦法・魔法、礼装・武装も使っていませんのよ?」



 エミリーさんが立ち上がり、お茶を淹れる用意を始めてくださいました。



「……なるほど。まずポートラッシュとサウスフォードでは慎み深いという言葉の意味が違うというのは勉強になったよ。

 ちなみに、君の得意戦法と魔法はなんだか聞いても良いかね?」


「得意魔法は強化系の多重発動、得意戦法は白兵戦ですが、高速機動戦や突撃ですわね。先ほどのような待つ戦いは本来苦手ですの」



 体格に劣るので、受けにまわると吹き飛ばされやすいんですのよね。



「まるで決闘士ヴィンスだな」


「おや、ご存じですの?」



 ラツィオの闘技場(Colosseum)での最新のAランク決闘士の名前があがりましたの。



「勿論、各国の強者については調べているとも。アレクサンドラ嬢こそ良く知っておるな?」


「わたくしと類似した戦闘スタイルの先達は少ないので。参考にしている部分は大きいですのよ」


「なるほど」



 エミリーさんがわたくしとサイモン学長の前に紅茶を並べてくださいます。ミセス・ロビンソンと同じ茶葉を使っていますのね。香気が素晴らしいですわ。



「さて、アレクサンドラ嬢、色々と気になるところは多いのだが今回は取り急ぎ最後の術式についてだ。

 禁呪の条件に抵触する、または校則違反の虞があるのでな」



 学長は紅茶を口に含みました。わたくしも口を湿らせます。ああ、戦いの後で、思っていたより口内が乾燥していましたのね。お茶が染みわたりますわ。



「〈達人の一撃〉ですか?一応そのあたりは抵触していないか確認しているのですが……」


「であるなら、まずは術式について説明を」


「はい。〈達人の一撃〉はわたくしの開発したオリジナル術式で、木の実(Nuts)割る(Crack)ことに特化した術式ですの」



 秘書のエミリーさんが吹き出します。



「……失礼しました」


「戦闘中使用術式なので、詠唱と動作は破棄、〈達人の一撃〉というワンフレーズと共に、拳をストレートかアッパーの軌道で突き出すことで発動しますの。

 術式の系統としては移動系の転移系統から〈転移門〉、反魔術系統から〈解呪(Disenchant)〉を同時発動していますわ。拳を転移させて、距離、防具、魔術的防御を無視して木の実を割ることができますのよ」



 学長が髭をしごきながら尋ねます。



「拳の軌道が限定されていることに意味が?」


「拳の転移位置に関わります。

 ストレートの場合は、木の実の裏側に転移し、対象の背面から正面に向けて打ち抜く形に。アッパーの場合は木の実を下から上にかちあげる形になりますの」



 エミリーさんが、お茶を運んできた銀のお盆の裏に顔を隠してしまわれます。学長が頭を抱えました。



「聞いているだけで辛い。……あー、煙草を吸っても?」



 学長はため息をついて、懐から飴色のパイプを取り出しました。



「構いませんわ」



 学長は疲れた顔をしながら煙草入れを開けると、手慣れた様子でパイプに刻まれた煙草を詰めていきます。



「〈点火〉」



 左手でパイプに手をやりつつ、右手をパイプの口に近づけて煙草の葉に火を移しました。



 上を向き、ゆっくりと煙を吐き出します。



「ストレートの場合、正面から後ろに向けてではなく、後ろから前に打撃することに意味が?」


「木の実は正面からより、下からか後ろから打撃する方が、より激痛が走るみたいですの」



 エミリーさんがお盆で顔を隠しながら肩を震わせています。



 サイモン学長は煙草の煙をもう一度吐き出して呟きました。



「……実に辛い」



 それから学長はペンを取ると、手元の紙に色々と計算を始められました。



「その術式、本来ならかなり高魔力と長時間詠唱が必要となるはずだな。魔力はアレクサンドラ嬢なら扱うのに充分だろうが、詠唱破棄のレベルにするにはかなり厳しい限定が必要だな?」


「そうですわね」


「限定の内容は?」


「対象を視認している、近距離にいる、術者がすでに対象を拳で攻撃している、対象から術者が攻撃を受けて出血している。

 転移できるのは拳の先端数ミリのみ。あ、あと同一対象には2度までしか使えませんの」



 学長は戦慄を表情に浮かべた。



「2度も攻撃するつもりがあるのか!」


「だって、木の実は2つなっているのでしょう?」



 エミリーさんが机に突っ伏します。



 学長はパイプをレストに置くと、まじめな顔をなさり、わたくしを見つめました。



「さて、一応は査問ということで呼んでいるのでな。問題となりそうなのは2点か。

 1つ、固体内への転移、転移門の作成は禁呪とされていることについてはどうか」


「『石の中にいる――You Are in Rock』を防ぐためと、〈心臓(Grasp)握り(Heart)〉の系列の術式ですわね。存じ上げておりますわ。

 ただ、〈達人の一撃〉に関しては木の実と下着の間の隙間に転移していますの。ですから禁呪には該当しませんわ」


「ではもう1つ、校則で急所への攻撃が禁止されていることについては?」


「それは対人規則ですの。使い魔には適用されませんわよね?」



 エミリーさんが頷きます。



 一部の精霊やゴーレムは核となる場所を攻撃しないと倒せないというものもありますからね。急所攻撃そのものを禁じることはできませんもの。



「つまり、既存の禁呪の条件や校則は破っていないということか」


「はい、学長」



 とエミリーさん。



「ならばアレクサンドラ嬢への査問は問題なしとして終了。……とは言え、あの術式を使われ続けるのは正直いかがなものかと思う」


「残念ですの」


「学校の講師と生徒の半分以上は間違いなくこの術式を禁呪とすることに諸手を上げて喜んでくれると思うよ」



 この学校、男性の方が多いですものね。



「あー、エミリー君。学内の禁呪リストの追加と、校則に条文追加申請する書類を」





 後年、サウスフォード全寮制魔術学校に入学した生徒たちは、校則の以下の項目を見て笑うこととなる。



「下着の内側へ転移術式を使用することを禁ずる(講師、生徒、使い魔を問わない)」

 変な校則とか、世界を見れば変な法律ってありますよねってだけの話。


 わたしの通っていた学校、ろくに校則がない学校なんですが、「木製の履物を履いて登校してはならない」ってものがあり、それだけは今でも覚えてますわ。



 このなまこ×どりるの世界設定として、人類言語が英語なんですね。


 わたしもそれを示すために、第1話から魔法名、地名や決め台詞などに英語のルビを振ったりしているのはみなさまもご存じの通りでしょう。


 当然、知っている言葉であっても確認のために辞書やらネットやら、海外の書籍を引っ張り出して調べているんです(えらい!)。


 それでですね、ウィキペディアあるじゃないですか。


 当然、19話と20話を書くために、睾丸関連の用語をチェックしなくてはいけません。睾丸、金的、金玉潰し、玉攻め、金蹴りプレイとか順に確認していくんです。え?べ、べ、別に興奮とかしてませんよ?純粋に学術的なあれですので。


 で、ウィキペディアって、各ページのタイトルの下に「文A」って感じの記号あるじゃないですか。そこを押すと、その項目の別言語のページを開くことができるんです。


 で、「金蹴りプレイ」の英語版ページを確認しようとしてショック受けた訳ですよ。その他の言語版も表示されるわけですが……。


English - Tamakeri


Deutsch - Tamakeri


Francais - Tamakeri


Italiano – Tamakeri


……日本人orz

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『距離、防具、魔術的防御を無視して木の実を割ることができます』 これ! うちのカースにも効くじゃないですか! やっぱアレクサたんの方が強いですわ! 降参です!
[一言] 本文もむちゃくちゃ面白いですが 追記で爆笑するのは、この作品だけです
[良い点] 19話では読み飛ばしてしまいましたが、木の実とはそういう事ですか…… やりますね、いろんな意味で。
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