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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第2章 119年1月~魔術決闘訓練
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第18話 びふぉー・ざ・でゅえる

 まあ、結局のところ、クリスの話によれば、わたくしが体調を崩したために、ルシウス殿下が代理で別の女性をエスコートして新年の祝賀会に参加したという形で話がついている様子です。



 とは言え、わたくしを知るものならねぇ。年末体調を崩してなかったのは明らかですし。ルシウス殿下もジャスミン嬢と明らかに親しげな様子であったとのことで、不信感を持った貴族の方も多かったのではということですの。



 休み中にそのあたり話そうと思いましたが、ルシウス殿下もジャスミン嬢も休みぎりぎりまでライブラに滞在しているようで、直接話す機会はありませんでした。



 ナタリーですの?ああ、わたくしの秘密をクリスに教えやがりましたからね。こちらに戻ってきた日に問い詰めたところ、床に手をつき「罰として、わたしをアレクサお姉さまの椅子に!」と言ってきたので30分ほど背中に座っていたのですが、どことなく喜んでいる気がしたので解放しましたの。



 さて、学校が始まりました。



 サウスフォードは1学年60人強なのですが、やめてしまう生徒もいるので、卒業時はちょうど60名くらいといったところでしょうか。今の学年は63名ですか。



 1学年2クラスで、各クラス約30名、わたくしとルシウス殿下は別のクラス、あまり接する時間はないのですが、魔術戦闘訓練が合同授業なので、その後にでもお時間をいただくとしましょうか。



 そう、初の魔術戦闘訓練です!4年生たちが使い魔を連れてぞろぞろと校庭に集まります。わたくしの後ろにも、金魚鉢に入ったクロがふわふわと浮いていますわ。



 生徒の多くは制服で出てきますが、決闘用の魔術礼装を誂えて着て来る方もおりますの。

 魔術礼装は個々の生徒によりデザインが異なります。当たり前ですわね。得意な魔術、戦闘スタイルがありますもの。



 わたくしは制服で今回の授業に臨んでいますが、本来ならわたくしも礼装を着るべきです。



 わたくしはこれでも王国で有数の肉体強化系術者ですわ。まあ、術者としてや体術面での評価ではなく、単に魔力量での評価ですけども。



 わたくしの礼装はポートラッシュ領軍の突撃兵用兵装をベースに素材や付与魔法で可能な限り丈夫にした特注品ですの。



 わたくしが自身の戦闘スタイルを十全に発揮した場合、その服を着ていないと……まあ装備が一瞬でぼろぼろになりますからね。はしたないどころではすみませんの。



 とまあ、このように自前の装備を持ち込んでよいこともそうですが、4年生の魔術戦闘訓練は結構特殊な授業なのですよね。

 この先、5年生でも6年生でも魔術戦闘に関する授業はたくさんありますけど、この授業が唯一必修であること、全ての生徒が受けるものであること、それに合同授業であること、授業形式が魔術決闘(Duel)であること。



 サウスフォードの卒業生の間では、ここの勝数の話題は鉄板なのだとか。



 決闘の作法自体は昨年座学で学んでいるため、いよいよ今日からが実戦形式の授業となりますの。



 今日は晴天ですが、空気が冷たいですの。手をこすり合わせながら校庭へと向かいます。



 ふふふ、ドロシアの火蜥蜴が人気ですわね。周囲に暖を取りに女生徒たちが集まっています。



 ルシウス殿下が校庭にやってきました。アッシュブラウンの髪を綺麗に整え、鼻筋の通った端正な顔立ちをしておられます。



 礼装もぱりっと着こなし、絵にかいたような王子様。周囲の女子からは歓声が上がりますが、クリスなどの一部の女子は冷めた目で殿下を見ていたり、わたくしに視線を注いでいたりするのがわかります。醜聞になりかけですからね。婚約がどういった形になるのか注目されているのでしょう。



 わたくしが同級生の取り巻きに囲まれた殿下を見つめていると、取り巻きの1人がわたくしの視線に気づき、殿下に声をかけます。



 わたくしとルシウスの視線が合います。



 わたくしは、ゆっくりと目礼いたしました。



 ルシウスは目を逸らします。



「チィッ」



 思わず舌打ちが出て、魔力が漏れます。あの野郎、取り繕う気もないですのね。



 わたくしの魔力に怯えて動物型の使い魔が後ずさり、殿下の取り巻きたちが杖に手をかけたところで、ぱんっと大きな音がします。



 魔術戦闘訓練を指導するチャールズ先生です。恰幅の良いベテランの先生ですの。手を叩き、わたくしたちに注目を促しました。



「あけましておめでとう、そしておはよう諸君」



 チャールズ先生は生徒たちの真ん中をせかせかと横切って、校庭の端まで進みます。設置されている壇上に軽やかに登ると、こちらに振り返ります。



「どうした、諸君。休み明けだからといって気が抜けていてはいかんぞ。脳みそを実家に忘れてはいないだろうね?」


「おはようございます、チャールズ先生」



 みなさん、ばらばらと挨拶いたします。



「うむ、おはよう。諸君。これから行うのは決闘だからな。もちろん我々は万全な救護体制を整えているとはいえ、実際に怪我をし、命の危険もある授業だ。浮ついた状態で臨んではいかんぞ、いいかね?」


「「「はい!」」」



 ここは声がそろいます。



「早速だが今日から魔術決闘の実技だ。作法についてはしっかり復習してきたかね?そのあたりもちゃんと評価対象になるぞ。これから対戦相手を発表し、準備運動の時間をとったあと、決闘を開始する。

 事前に伝達した通り、これから6回の授業で1試合ずつ対戦を行う。対戦形式はスイスドロー方式(勝ったものは勝ったもの同士、負けたものは負けたもの同士で対戦する試合形式)の6回戦。授業や決闘を欠席した場合は自動的に負け。授業に参加しているが参加人数が奇数の場合、不戦勝とする」



 先生はぐるりとわたくしたちを見渡しました。



「えーと……、欠席はなし。今日は1人不戦勝が出るか。不戦勝となった生徒は、授業中、先生と決闘形式で訓練を行ってもらう。

 2月末に6回戦終わって全勝の生徒は、先生と模範試合だ。何か質問はあるか?……よし、じゃあ対戦相手を発表する!」



 みなさんに緊張が走りますの。周囲から呟きが聞こえます。



「「「アレクサンドラは嫌だ、アレクサンドラは嫌だ」」」



 ちょっと、みなさん?なんですのー!



「1番コート、アレクサンドラ!」


「はい!」


「と、セオドア!」


「ひっ、は、はいっ!」



 だーかーらー、みなさん小さくガッツポーズするのもやめますのー。



 えーっと、セオドア……?立ち上がり、返事のあった方を見ます。ああ、テディのことですわね。その横には身の丈2m以上はあるオーガさんの巨体。



「ああ、先生これわざとわたくしに当てましたわね」



 そう呟き、先生の方をちらりと見やります。先生はそれをしっかり聞いていたのか、肩を竦めて答えてくれました。



「仕方あるまい。とりあえず一番怪我しなそうな組み合わせだ」



 ふふーん、1回戦はつまらないかと思いましたが、なかなかどうして楽しめそうですわね。思わず笑みがこぼれます。



「アレクサ?テディの使い魔ごついけど大丈夫?」



 準備運動で体をほぐしている最中にクリスが聞いてきますの。



「ええ、しっかり手加減いたしますわ」


「そっちの意味で取るか……。大丈夫そうね……」



 クロとも軽く打ち合わせをしておきましょうか。



『クロ、わたくし、オーガさんと打ち合いたいですの』


『ふむ、わたしはアレクサの言う通りで構いませんが……、確か肉体強化しての戦いは、はしたないという話では?』



 あー、クロそういうのしっかり覚えていますのね。



『うーん、動き回っての戦いはやはりはしたないですからね。ここは上品に足を止めての打ち合いが良いですわね』


『なるほど、わたしは何をしましょうか』


『……そうですわね、治癒と、テッドの足止めでしょうか』



 足取りも軽くコートへ向かいます。



『楽しそうですね、アレクサ』



 クロが聞いてきます。



『オーガと戦うなんて、久しぶりですもの。気分だって良くなってしまいますわ』



 領軍のゾーラ軍曹がオーガを使い魔にしておりましたからね。サウスフォード入学前は模擬戦で戦っていましたけども。もう4年前になりますか。



 アリーナの中央で軽やかにターン、テッドたちを待ちます。



 テッドはオーガさんを引っ張ってコートに連れてこようとしていますが、なかなかついてきませんの。



『それにね、ちょっと、わたくしの婚約者にムカついていますの。ちょっと発散したいなーなんて』


『仰せのままに。アレクサ、我が主』



 クロはわたくしの後方で漂い、左斜め後方にポジションを決定したようです。肩の高さ、ぎりぎり手の届かないあたりに静止しました。



 コートの上でテッドたちを待ちながら目を凝らして魔力を見ます。んー……テッドとオーガさんの間の魂絆が弱すぎますわね。



 わたくしなどは暇さえあればクロと魔力循環させていましたが、厩舎に預けられた使い魔は、やはり繋がりが薄いですわよね。



 特にテッドは自分の使い魔に恐怖を感じている様子。それでは魂絆はなかなか強くなりませんわよね。



 テッドは魔法何使っていましたかねー。満遍なく使っているイメージですが、知識系と防御系は割と得意ですかね。



 防御系をオーガさんにかけてもらえれば、長く楽しめますか。いいですわね!



「では用意!」



 みなさんが所定の位置につくとチャールズ先生の声が校庭に響きます。



 わたくしは作法通りに会釈すると腰の杖を抜き、ゆっくりと体の正面に構え、名乗りを上げます。



「我が名はアレクサンドラ・フラウ・ポートラッシュ。使い魔クロを従え決闘に臨む」



 テディは腰から杖を抜くと、慌てたように首を何度も縦に動かし、名乗りを上げます。



「せ、セオドア・ジェラルド。使い魔グライアスを従い決闘に望む」



 ふむ、緊張されていますの。会釈と抜杖の順が逆ですのよ。



 呼吸を意識し、魔力集積につとめます。魂絆を通じて、クロにあらかじめ魔力を渡しておきます。



 チャールズ先生が大きく息を吸い込み、よく通る声で叫びます。



「始め!」

ξ˚⊿˚)ξ <なぐりあいはよ。


という訳で魔術決闘。

最初はヌルい対戦のからにしようかなとも思ってたんですが、わたしの内なるアレクサがはやく肉弾戦したいとのことで……。

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