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なまこ×どりる  作者: ただのぎょー
第5章 119年3月~義兄の魂を奪還に
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第137話:くらいまっくす6・なまこ×どりる

 ゼウスの全身より放たれる無数の稲妻。それは雷鳴を響かせつつ束となり、彼の神の右手に収束していきます。巨大な槍を形取りました。



「……これがケラウノス」



 以前レオナルドの精神世界でもこの槍は目にしましたが、存在感がまるで違いますの。

 精神世界で感じたのは魔力としての存在のみ。

 この現実世界に存在するケラウノスは、ただ有るだけでも大気を焼き、轟かせ、地を揺らします。そして何よりそれをわたくしに向けられているという殺気、威圧感!



 わたくしは右手を真横に伸ばして息を整えます。



「いきますのよ!」


『神々の王、ゼウスに目に物見せてやりましょう』



 クロにニヤリと笑い、わたくしの声とクロの思念が重なります。



『「ナマコ(Namak)ネク(onnect)ト!」』



 わたくしは右手にクロを握り締めます。

 硬化したなまこの身体に食い込んだわたくしの指、そこからクロの魔力回路とわたくしの魔力回路を直結させます。

 魔力的に一体化した状態で、全魔力を右手に集中。先ほど出した光の柱も魔力に分解して再吸収し右手へ。

 水盆も触手も全てを魔力に戻して地面へ。ダンネット・ヘッドの岩の上に立ちますの。

 わたくしの魔力、右手が蒼く染まります。



 蹴り技、〈聖ジョージの槍〉はわたくしの魔力を脚に集中させ、蹴った後にも障害が残る技でしたの。今集めている魔力はそれ以上。かつてより遙かに魔力が増えているのもありますし、この日のために魔力を溜めてきた分を全て右腕に。



 本来なら即座に右腕が破裂してしまうほどの魔力。それをクロが制御します。

 わたくしの魔力の過剰分を全て吸い取り、神力に変換。クロ自身の神力と融合させていきます。

 クロの身体が蒼く輝き、両端から海が、神力が溢れてわたくしの右腕の周りに渦を巻きますの。



「大した魔力に神力だな。だがまるで足りぬぞ!」



 ゼウスの右手の雷霆が圧縮されていきます。雷が無数に放たれては槍へと戻り、その場で鍛造されているかのように。

 ゼウスが持っていてなお巨大な丸太のように見えた槍が細く、鋭く形成されていきますの。

 わたくしは叫び返します。



「まだこれからよ!……スティィング!」


(いえすまむ!)


「汝に与えた名の意味を謳いますの!」


(……!)



 アホ毛がぶるりと揺れて、真っ直ぐに立ちました。



「汝、天地を貫く槍となれ!――You’ll be the spears that STING heaven and earth!」


(ぼくらはてんちをつらぬくやりとなる!――うぃーるびーざすぴあーず!ざっとすてぃんぐへぶんあんどあーす!)


「〈ドリルロール〉よ!天を貫く螺旋を描け!」


(いえすまむ!)



 縦ロールが解け、うねりました。

 右手に巻き付くと、クロの両端から噴き出る海を吸収、蒼く染まり、槍を形成します。

 髪に蓄え続けた魔力も溢れ、蒼と黄金の魔力が入り混じりますの。



「不遜!矮小なる人間の身で天を貫くとは良くぞ申した!やってみるが良い!人間アレクサンドラ!

 我が雷霆は大地を溶かし!世界を燃やし尽くさん!」



 ゼウス全身の筋肉が躍動。雷霆の槍が天高く振り上げられます。



「この大地もろとも滅びるがいい!」



 ゼウスが叫び、



「わたくしのドリルは!いえ、わたくしたちのドリルは!天に風穴を開けるドリル!」



 わたくしが叫びます。



「焼尽せしめよ!ケラウノス!!」



 ゼウスが雷霆の槍を投げおろし、



「貫き通せっ!〈なまこ(Namako)×(×)どりる(Drill)〉!!」



 わたくしは槍と化した右手を天に突き上げます。



 地に落ちる黄金の槍、天に向かう蒼金の槍。

 その穂先同士は天地の狭間で衝突。



 意識が飛びそうな轟音と閃光。世界の全てをなぎ払わんとする衝撃波。

 超高熱と莫大な海が衝突し、水蒸気が発生、爆発を起こしてはその刹那の後には全てが吹き飛ばされます。



 ……生きてる!



「……拮抗するだと!」



 むう、……ですが出力負けしていますわ。

 押されて、雷槍がじりじりとこちらへ迫ってきますの。



「……ぐうっ!」


「滅せよ!」



 その時、わたくしの身体が後ろから抱きしめられました。

 跪いたレオナルドがわたくしにそっと手を回したのです。



「!……どう……しました?」



 術式の制御を乱さぬよう、歯を食いしばりつつ尋ねます。

 轟音の中、耳元で語られる彼の言葉は大きな声ではありませんが、なぜか耳に通ります。



「アレクサンドラ。わたしはあらゆる神々に誓おう。貴女を愛し続けると。

 ただ、それに対してわたしが捧げられるものなどない。わたしの全ては、この肉体も精神も、過去も未来も。全てアレクサンドラのものだから」


「レオナルド……」



 これは……婚姻の誓い!

 わたくしの耳の脇で彼がにやりと笑う気配がします。



「神々よ、この戦いを照覧していないはずがあるまいな。

 見ているならば答えたまえ、わたしが願うのはほんの少しの彼女への後押し。

 捧げられるのはただひとつ。『まことの愛が勝つ姿』だ」



 …………!

 レオナルドの身体に、無数の神の気配が宿りました。



「アレクサンドラ、全ては君のもの。〈魔力譲渡〉」



 レオナルドの顔が近づき、彼の唇がわたくしの唇の端に。

 そこより魔力が、神力が流れ込みます。



「レオナルド!あなたの愛を受け取りますわ!」



 青みを帯びた金の槍がケラウノスを押し返していく、じりじりと螺旋は伸びて天へ。

 しかしゼウスも叫びます。



「神々の王として我、ゼウスが命ずる!世界よ!我が力に平伏せよ!」



 ゼウスの神力が増し、ケラウノスが威力を増します。

 そうして槍は再び天地の中央にて拮抗しました。



「はぁ……はぁ……よくぞ人の身でここまでの力を」


「はぁ……はぁ……はは……あはははは!」



 ああ、まさか互いの全力で拮抗できるところまで持ってこれるとは!



「何がおかしい!」


「わたくしの術式の名前を聞いていましたかゼウス!」


「なんだと……?」



 わたくしは天に向かって歯を見せて笑います。

 ずるり、と蒼金の槍が右回りに動き始めました。



「この術式の名は〈なまこ×どりる〉!

 わたくしの右手は槍にあらず!それは回転する螺旋、ドリルですのよ!

 このドリルの術式は!回転っ!そして引力ですの!喰らい尽くせ!」



 ドリルが高速で回転します。

 衝突する穂先で雷が無数の火花に。それはわたくしの髪へ。

 ケラウノスの発する膨大な熱量がドリルに吸収されていきますの。

 膨大なる稲妻のエネルギー、いえそれだけではない。稲妻が、空気が、水が、地面が、魔力が、神力が。万物が吸い込まれては螺旋の中に組み込まれ、黄金を纏います。



「ばかな!」



 クロからの思念。



『ケラウノスを支配下に置きました』



 スティングからの思念。



(いけるよ、まむ!)



 ゼウスの驚嘆。



「ばかなっ!」



 わたくしは放電し回転する黄金のドリルを天に構えます。



「ゼウスよ覚悟!…………〈なまこ×どりる〉!解放っ!!」


『承知!』(いえすまむ!)



 黄金のドリルがぶわりと膨らみ、その先端から黄金の螺旋が放たれます。

 視界全てが黄金に染まる。

 逆流する大瀑布の如き奔流はゼウスを飲み込み、天を穿ちました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回楽しく読ませていただいてます ここで(なまこ×どりる)は熱い展開ですねー( *˙ω˙*)و グッ!
[良い点] 「貫き通せっ!〈なまこ×どりる〉!!」 たまらんすぎますね。 泣きそう。
[良い点] 黒くて棒状のものと接続してからの、タイトル回収!!!熱く滾る展開ですね!
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